株式会社が当事者となる民事訴訟の裁判籍

2024-03-30 12:09:42 | 民事手続法

【例題】X社とY社の間で係争が生じており、X社はY社へ5000万円の支払を求めており、Y社はX社へ9000万円の支払を求めている。X社は東京都に本店を、大阪市内と名古屋市内に支店を有している。Y社は札幌市内に本店を、横浜市内と仙台市内に支店を有している。

 

[普通裁判籍:被告会社の本店所在地]

・被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所が管轄権を有するところ(民訴法4条1項)、被告会社の普通裁判籍は「主たる営業所」により定まる(民訴法4条3項)。ここでいう「主たる営業所」とは「会社が主にその業務を行う場所=本店」であり(※)、通常は、定款で定められているもの(会社法27条3号)・登記されているもの(会社法911条3項3号)と合致するだろう(たぶん)。□コンメ(1)197-8

※実体法上、「会社の住所地=本店所在地」とされる(会社法4条)。

・定款の定めや登記とは別の場所で会社の主たる業務が行われている場合は、その場所が「被告会社の普通裁判籍=主たる営業所(本店)」となる。もっとも、原告には調査義務は課せられないので、「実際の主たる登記上の本店所在地で提訴すれば足り、被告は「登記されていない別の場所に本店がある」と反論することができない(会社法908条1項前段)。□コンメ(1)197-8

 

[特別裁判籍:被告会社の支店業務に関する訴え=支店所在地]

・当該訴えが「被告の営業所における業務に関するもの」であれば、「被告会社の当該営業所」の所在地を管轄する裁判所も裁判籍を有する(民訴法5条5号)。

・ここでいう「営業所」とは登記事項の一つである「支店」(会社法911条3項3号)などを指すが、主たる営業所(=本店)と同様に、登記の有無にはかかわらず実質で判断される。□コンメ(1)214-5

・「営業所における業務に関する訴え」とは、契約関係にとどまらず、不法行為や不当利得であってもよい。□コンメ(1)216-7

 

[特別裁判籍:行為の性質or約定or法定で決定される義務履行地]

・当該訴えが「財産上の訴え」であれば、「義務履行地」を管轄する裁判所も裁判籍を有する(民訴法5条1号)。

・商行為においては、まずは行為の性質や約定によって義務履行地が決定され、これで決まらない場合は「特定物の引渡し債務=特定物の存在した場所」「その他の債務=債権者の現在の営業所」が義務履行地となる(商法516条)(なお、民法484条1項も同趣旨である)。□コンメ(1)203-4

・契約上の義務については、当該係争の性質から「義務履行地=その業務を行っていた債権者の支店等」と解されることが多いか(たぶん)。□コンメ(1)204-5

・契約以外の義務における義務履行地は、「物権的請求権=物の所在地」「不法行為・不当利得・事務管理=債権者の現在の住所(民法484条1項)=本店所在地(会社法4条)」となる。□コンメ(1)206

 

[特別裁判籍:不法行為地]

・当該訴えが「不法行為に関する訴え」であれば、「不法行為地」の所在地を管轄する裁判所も裁判籍を有する(民訴法5条9号)。

・ここでいう「不法行為地」とは、加害行為地でもよいし、損害発生地でもよい。□コンメ(1)224-5

 

[特別裁判籍:不動産所在地]

・当該訴えが「不動産に関する訴え」であれば、「不動産の所在地」を管轄する裁判所も裁判籍を有する(民訴法5条12号)。

・なお、「不動産に関する訴訟の第一審」については、地方裁判所は訴額にかかわらず管轄権を有し(裁判所法24条1号)、140万円未満であれば地方裁判所と簡易裁判所の管轄権が競合する(裁判所法33条1項1号)。□講義案(1)28

 

[管轄の争い]

・弁論主義の例外として、受訴裁判所は、管轄に関する事項については職権証拠調べができる(民訴法14条)。

・受訴裁判所が法定管轄がないと判断した場合、原告の意向を確認する。原告がなおも当該裁判所での審理を望めば、応訴管轄(民訴法12条)の可能性を考慮して手続を進めることになる。□講義案(1)34

・被告は、本案についての弁論に先立って「管轄違いの抗弁」「移送申立て」を行うことになる(民訴法12条、16条2項)。

 

裁判所職員総合研修所監修『民事実務講義案1〔4訂版〕』[2008]

秋山幹男・伊藤眞・垣内秀介・加藤新太郎・高田裕成・福田剛久・山本和彦『コンメンタール民事訴訟法1〔第3版〕』[2021]

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