準備書面を書こう

2023-06-27 22:09:03 | 民事手続法

[いきなり書き出すか、全体像を先に作るか]

・大部な事案は別にすれば、個人的には、厳密な構成をするまでもなく、「今回書きたいトピックのうちの1つ」についていきなり書き出すことが多いか。書き出す中で、頭の中の一応の構想が現実化していく感覚か。

・ラフを承知で溢れる勢いのまま書き殴り、後で整えるのも一案。

・15頁(1頁あたり26行*37字)を超えるような大部に渡る場合は、トピックも複数になる。この場合は、あらかじめ「第1、第2、第3…」の見出しレベル(さらにその下の「1、2、3…」)を考えることもある。

 

[内容全体への意識]

・明晰に書く。後述する「見出し」を付記することで、主張内容や構造を読み手に示す。見出しを検討する過程で当初想定の曖昧さや不備に気づくことができる。

・最優先事項として、自分の主張(ストーリー)が合理的であり、証拠と整合していることを示す。そのストーリーの一貫性に注意する。

・次いで、相手方主張のポイントを見極めて必要十分な反論を加える。

 

[タイミングの注意]

・序盤では、争点が浮き彫りになるように「自らの主張」を明確にすることを意識する。

・容易にできる認否は速やかに行う。それが遅れれば不利な心証を抱かれる。

・終盤では、既に明らかになっている争点につき、主張と証拠の結びつきや評価を論じる。

 

[構成全体の工夫]

・裁判官へ向けた説得的文書であることを常に意識する。

・裁判官が慣れ親しんだ形式(26行*37字、余白、12ポイント)を使う。ただし、これまでは「MS明朝」を使っていたが、2023年秋から、読み手への優しさを考えて「BIZ UD明朝(medium)」に切り替えた。

・書面の最初から最後まで一気に読めるよう順序を工夫する。

・文書中にヴィジュアル(写真、表、証拠の一部など)を効果的に引用する。

・「簡明(かつ濃厚)こそ正義、冗長は悪」と心がける。読み返して無駄な箇所は刈り取る。

・「読みやすくするための新鮮な工夫」にこだわる。

・重要でない指摘は脚注に落とす。本文中に入れ込むと読みにくい。

・階層は「第1>1>(1)>ア」までにとどめている(階層毎にインデントを設定する)。さらに「(ア)>a>…」とつづけると階層が深くなりすぎるので、「第1」レベルで大項目を分割するようにしている。

 

[「見出し」と文章群]

・15頁未満程度であれば目次をつけることもないが、裁判官が全体像を掴めるように適切かつキャッチーな「見出し」をつける。

・見出しは、パラグラフライティングでいう「小主題文(topic sentence)」or「中心文」に相当する。

・見出しには、「自分の狙う評価的表現(or論争的表現)」を許容する。

・中身の文章群(=「支持文(supporting sentences)」)は、見出しを詳細にする内容や、見出しの結論が導かれるべき理由や根拠とする。

[例]法律要件に対する具体的事実

[例]ある事実が認定されるべき過程

[例]相手方主張が否定されるべき論述

・文章群の中の形式的な段落分けは、さほど神経質にならなくてもよいか。

 

[各文章の工夫]

(事実記載の注意点)

・事実レベルの記載と、法律レベルの記載を書き分ける。

・「主要事実」と「重要な間接事実」の適確な記載が最重要課題だと意識する。

・可能であれば、争いのない事実と争いのある事実を書き分ける。

・一文内で「誰が、誰に対して、いつ、どこで、何をした」を漏らさず記載する。

・可能な限り形容詞を使わない。

(推認の注意点)

・多くの者が頷く経験則に依拠する。

(法律記載の注意点)

・判例や標準的な見解(通説)にしたがう。条文やコンメンタール等を積極的に参照する。

(その他)

・証拠番号、相手方の主張書面の該当箇所、自分の過去の主張書面の該当箇所、を具体的に示す。

・接続詞の「が」を極力使わない。

 

[おまけ]

・ある日突然に書面が上手くなることはありえない。目の前の事件に真剣に取り組み、良質な書面となるよういつも悩み、大量の起案をするしかない。

 

瀬木比呂志『民事訴訟実務と制度の焦点』[2006] ※pp212-32に裁判官から見た「良い準備書面、悪い準備書面」の具体的指摘がある。不定期に読み返すようにしている。

田中豊『法律文書作成の基本』[2011]

門口正人『民事裁判の要領』[2016] ※pp81-94に準備書面の作成や心証形成に与える影響が記載されている。

石黒圭『段落論』(光文社新書)[2020] ※「日本版パラグラフライティング」のあり方が示されている。文章作成に関わる者は必読。

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