アマーティア・センの「核」観

　所得配分の不公平や貧困、飢餓などを研究する厚生経済学への貢献で９８年ノーベル経済学賞を受けたインド出身のセンの「核」観が紹介されていたので、傾聴しておく。
　　－－核保有によって大規模戦争が抑止されたか？
「核抑止論には二つの顔がある。第一は、核がどんな戦争を抑止するかという問題。通常兵器による戦争は少なくなるかもしれない。しかしどんなに確率が少なくなっても、核戦争になれば完全な破滅をもたらす。第二に、米ソが核戦争を避けられたのは、ただの幸運だったということ。」(通常兵器による紛争が少なくなるか否かに関しては異論のあるところだろう。)
　　－－逆に、核は世界をさらに不安定にした？
「核保有国が通常兵器を削減できるというのは誤りだ。カシミールの軍事衝突でも、インドはパキスタンに通常兵器で対応した。核が簡単に使えない以上、兵器も削減できない。核保有は経済的、道徳的に誤まっているばかりでなく、愚かな政策だ。」
　　－－しかし核開発への野心を持つ国は絶えません。
「イラク戦争が核開発競争を助長したのだ。イラク戦争の結果、反米の立場をとるイラン、北朝鮮、シリアなどは、核さえ持てば米国は攻撃してこないだろうと考えるようになった。・・・イラク戦争の最悪の要素は、核の不安定化をもたらす単独行動だ。私は、イラク戦争で日本がもっと独立した立場をとらなかったことに失望した。・・・日本は核攻撃の惨禍を経験した唯一の国だ。野蛮な攻撃の犠牲者から学んだ知恵を伝え、より大きな役割を果たしてほしい。」
　傾聴に値する「核」観だと思う。東西冷戦終結後、核拡散防止条約はもぬけの殻同様、核弾頭の数はうなぎのぼり、通常兵器の増加。世界の政治家(＝戦争屋)たちはセンという名前の人物の存在すら知らないのだろう。
　最近、米国オバマ大統領が核軍縮をアピールする演説をした。演説をするだけではなく、自ら核軍縮し、それを世界に公表するべきだ。