自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

新田次郎 『八甲田山死の彷徨』 (初版1978年)

2014年11月04日 | Weblog


(世界山岳史上最大とも言われる犠牲者を出した、青森県八甲田山における山岳遭難事故(八甲田雪中行軍遭難事件)を題材とした山岳小説)

強烈な低気圧が近づき 大暴風雪となった
気温も急降下 行進は無理か
不可能を可能にするのが日本の軍隊だ
「前進!」
少佐は白魔に向かって叫んだ
明治三十五年一月二十三日のことだった

この時期 山は年中でもっとも吹雪く
山々は一斉に鳴り出した
深雪の中を泳ぐような行進
足の指の感覚がなくなった
乱れる隊列
方位磁石の針が固定してしまった
恐るべき寒威

突然 枯れ木のように倒れる兵がいた
疲労凍死
突然 軍服を脱いで裸になる兵がいた
幻視 幻聴 狂死
一夜のうちに三十名が死んだ
その後も死者が絶えなかった
棒のように凍って死んだ
青森第五連隊二百十名のうち生存者十一名
言葉なし

ロシアとの戦争に備えた雪中行軍訓練だった
失敗に終わった訓練
原因のひとつは指揮系統の乱れにあった
行軍計画の不首尾にもあった
弘前第三十一連隊の行軍では死者は出なかった
同じく白魔の真っ只中であったのに

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