ヒグラシの声には、どこかもののあわれを感じさせる趣があり、あの声を聞くと一句ひねりたい気分になるそうだ。
ある会社の退社時間の頃、日ごろヘタな俳句を作っては得々ととしている一人の社員が、紙切れに一生懸命何か書き付けている。こういう場合には漢字の方が感じが出ると思ったのか、そばの同僚に「ヒグラシってどういう字だ」と訊ねた。「虫ヘンに、中国の王朝の名の周という字だよ」と答えると、「シュウってどういう字だ」と訊いてきた。「調べるという字のゴンベンのないヤツ」と言うと「シラベルって?」と訊く。「ああー、面倒みきれないなあ。鯛のツクリの方だよ」と同僚が言うと、折りしもヒグラシがカナカナカナと澄んだ声で鳴き始めた。するとその男、「そうか、カナで書こうか」。
こういう話があったかどうか。今ではヒグラシに教えられるまでもなく、もうほとんどカナ書きで立派な俳句が作れるようだ。
僕はというと、鯛のツクリが食べたい。
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