原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

ブレイブ・ハート!

2009年06月05日 10時43分31秒 | 海外
ウィリアム・ウォーレスの名前を言うとき、スコットランド人は実に誇らしげな顔となる。イングランドからの独立を目指し、スコットランド人を奮い立たせた13~14世紀の英雄だからだ。日本で言えば坂本龍馬のような人気スターとも言える。志半ばで暗殺される経緯も両者はよく似ている。この英雄をハリウッドは映画化した。「ブレイブ・ハート(1996年)」である。以後、この言葉がスコットランド人の合言葉となったのである。

(1297年9月、ウォーレスが最初にイングランド軍を撃退したフォース川と橋。昔の橋は木製であった。橋の向こうに見えるのがウォーレスの塔)

燃え上がる魂とでも訳すべきなのだろうか。日本ではすでに死語となった「大和魂」に通ずる。ウォーレスの遺志を継いだロバート・ブルースがスコットランドの独立を実現するのは、ウォーレスが暗殺されてから23年後の1328年(6月24日バノックバーンの戦いの勝利)。以後、400年近くスコットランドはまぎれもなく独立国として存在していた。国王の併用や合同法という、意味不明な法律の制定で、いつの間にか再びスコットランドはイギリス連邦の一部となってしまう。幾度か反乱は起こるのであるが、そのまま現在にいたっている。
前イギリス首相のブレアはエジンバラ出身であった。彼は在任中、かつてスコットランドのからイングランドへ持ち去られていたスクーン宮殿の運命の石(王位継承に使われていた)をエジンバラに返却。さらにスコットランド議会の復活を実現させている。ちょうど映画が公開された頃からの出来事であった。映画の影響とは言わないが、一つの流れが生まれたことは事実であった。現在でも毎年6月になると、スコットランド独立の声がわき上がる。年中行事みたいなもので、いまや本気で独立を考えるスコットランド人はいない。それでも盛り上がるのである。だが、ことスポーツとなると全く違う。スコットランド人はどこの国と戦うよりイングランド戦に燃える。ブレイブ・ハートに火がつくのだ。ラグビーやサッカーのワールドカップにスコットランドは独自に選手を送り、ゴルフもそうである。出身がスコットランドであることを明記する。UKとは表記しない。見事なほどのこだわりであり、ブレイブ・ハートを見せるのである。
スコットランドは北海道に大変よく似ている。面積もほとんど同じ。春から初夏にかけて、緑がいっせいに芽を吹き、四季を通じて一番心地よい気候となる。花の季節になるとブレイブ・ハートに高まるスコットランドを思い出す。

(ウォーレスの塔から見たフォース川とスターリングの街。右手にスターリング城が見える)

最近、日本で春の珍事と思えるほど燃え上がっている政治家がいる。総務大臣閣下である。なんでも、日本郵政の社長を認めないという、一種の拒否権を振り回している。総理の言うことさえ聞かないらしい。「私には正義がある」「曲がったことは認めない」「いやなら罷免するがいい」、まさに、閣内の反乱とも言うべき言動である。スコットランド流に言えばブレイブ・ハートの極致にも見える。
しかし、どうも不自然だ。「かんぽの宿」の売却問題で異議を申し立て、世論を味方にしたパフォーマンスである風には見える。だが、どうもおかしい。売買がいかに不正であったかの検証がされていない。その後中央郵便局ビルの解体にもパフォーマンスを見せたが、たいした結果を残していない。彼の正義が世論にあまり納得されていないことを自覚していないのでは。逆に、政局を睨んだパフォーマンスであるように見える。兄が民主党の総裁となった今、逆に自民党の足を引っ張る行動とも取られかねない。あまり頭のいい反乱ではない。しかも、彼の影に官僚の姿が見え隠れする。ウォーレスが巨大権力に立ち向かったのとは全く逆の立場。これではブレイブ・ハートを引き合いに出すのはとんでもないこと。謹んで訂正し否定しなければならない。総務大臣の行動は正直、意味不明である。

(ウォーレスの塔の壁にあるウォーレス象)

それにしても、日本の政治家には真のブレイブ・ハートを持った人物は現れないのだろうか。混迷する日本の現状だからこそ、英雄がほしいのだが。
だが、英雄にも不安がある。坂本龍馬もウィリアム・ウォーレスも凶刃に倒れている。彼らが生きながらえて政治家となった時、果たして予想した通りの能力を発揮したがどうかは、不明だ。歴史を見てもよく分かる。革命までは素晴らしい能力を見せても、いざ頂点に立つと意外に無能だったりする例は多い。辛亥革命の立役者であった孫文であるが政治能力に欠けていたのは事実である。毛沢東の失政は、農業政策や文化大革命などで証明されている。あの時、周恩来がいなければ、中国は現在の姿とはなっていなかったのではないか。戦いの英雄はこうした怖さも持っていることを知るべきだろう。英雄の言う通り行動して、破滅に向かって行ったナチス・ドイツの例もある。ヒーローの出現を期待しつつも、常に冷静な判断力も我々には必要なのだ。

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4 コメント

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麻と鳩 (numapy)
2009-06-06 10:21:47
麻の種を食べるのは誰か?答えは鳩。
改革の芽を食べるのは誰か?答えは言うまでもなく鳩。
そんな思惑も感じられないことはない、昨今の混乱です。
そうですか、スコットランドは北海道と同じぐらいの面積ですか。それだったら、北海道からブレイブ・ハートを生み出したい。
キャッチフレーズは、「無礼部・鳩を止めろ!」
それは冗談としても、英雄待望論が出てくるのは当然だとしても、その後が怖い。毛沢東は地に堕ちたとは言え、未だに一部では英雄扱いです。
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鳩はあの鳩ね。 (原野人)
2009-06-07 09:54:40
無礼部・鳩、これいただきですね。拍手です。

もはや日本にはヒーローが出てこない方がいいのかもしれませんね。日本人には自浄能力が備わっているように思うからです。一時、一つの政党に偏ってしまった投票のつけがいまきて、その呼びもどしが起きようとしています。昔のように一つの流れで突っ走ることはもうないような気がします。そういう風に思うのは、やはりあまいでしょうかね。
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ヒーロー! (numapy)
2009-06-08 13:04:26
ある石油会社の販売店キック・オフ講演会に出席したときのことです。
講師は、かの、巨人長嶋氏。演題は「スターとヒーロー」。話が盛り上がってきたところで彼は言いました。
「皆さん、スターは原君やら、掛布君やらいっぱいいますよね。でも、スターとヒーローは違うんですよ!」彼はそこで息をついた。聴衆はヒーローの定義づけを期待した。
彼は一気に言った。
「皆さん!ヒーローは…、ヒーローは…ヒーローなんですよ!」聴衆は口をポカンと開いたままだでした。
これこそ望まれるヒーローだと、思いましたね。あれにゃ
参った。
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伝説は永遠です。 (原野人)
2009-06-08 14:13:25
長嶋の前に長嶋なく、長嶋の後に長嶋なく。
彼こそ、永遠のヒーロー伝説です。
20世紀の記憶です。
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