前回に続き水性塗料のこと(その2)として記します。
実は、昨日から今日の2日間、水性塗料を比較的最近導入された工場さんで、同塗装技術を含めた研修会が開催され、日頃懇意にさせて戴いている鈑金塗装屋さんにお誘いを戴き参加することが出来ました。その中で得られた情報を基に記してみます。
前回記しました通り、国内の新車製造ラインでの水性塗料は、相当程度にその使用が進められつつあります。しかし、現時点で国内塗料メーカーでの、自動車補修用(以下自補修用と記す)の水性塗料は、一部の国内自補修塗料メーカーを除いて、各塗料メーカーのほとんどで販売カタログに掲載されていません。国内塗料メーカーでは、一部の大手カーメーカー系列のBP工場において、現在ランニングテストが続けられているというのが実態の様です。国内塗料トップメーカー辺りでも、やっと今年度末まで位には販売カタログにラインナップされるものと思われます。そんな訳で、現時点で自補修用の水性塗料を導入しようとすれば、ほとんどが外資系メーカーしか選択肢がないのが実情に近い様です。今回の研修実施工場での使用塗料も外資系塗料メーカーです。
①水性塗料の作業性
今回の研修において使用された水性カラーベースにおいては、塗装のとまりの良さ、メタルムラのなさ、ぼかし易さといった点で長所が感じられました。また、水性塗料の欠点として懸念される耐はじき性の点でも問題は感じらませんでした。そして、もっとも懸念される乾燥性の悪さ(遅さ)についても、塗装後にブローガン(下記注参照)でエアブローさせ周辺空気を動かすことで乾燥を促進させることができることが実感されました。また、中・短波乾燥機での加熱と、ブローガンでのエアブローを併用し、さらに乾燥を促進させることができることも観察されました。
なお、メーカー技術者の方の話ですと、通常の水性カラーベースとしての乾燥時間は5~10分程度であるが、乾燥時間は周辺湿度の影響を大きく受け、湿度80%以上では乾燥時間はかなり悪化するとのことです。(当日ブース内湿度65%程度)また、冬場であれば、ブース内をボイラー加温により、適正湿度に持って行けるが、夏期でのブース内加温は、作業者への負担が大きすぎるという問題があるとのことでした。夏期は出来ればエアコンによる除湿が出来れば良いのであるがとのことでした。
また、従来の溶剤型であれば、希釈するシンナーの速度(乾燥性)を適宜変えることで、外気温や湿度への対応ができましたが、水性塗料では、水のみで希釈することでの対応しかできません。このことは、水性塗料としての欠点の一つとなります。
注:通常のエアガンでは局部的に空気圧が高く乾燥前の塗膜へ与える懸念があり、空気圧より空気量を増やすことに留意して設計された水性塗料乾燥促進用のエアガン。(写真参照)
②トップコートクリアーについて
前回も記しました通り、水性塗料はカラーベースまでです。トップコートクリアーは従来の2液ウレタン塗料となります。今回研修の外資系メーカーでは、特に水性専用のクリアー指定はなく、従来品をそのまま流用できるとのことでした。
③水性塗料の必要機器
塗装ブースは、塗装品質と作業者への労働安全衛生上から従来塗装と同様に必要ですが、特に水性塗料として専用ブースの必要性はないとのことです。
④水性塗料の導入コスト
今回の研修を行った工場さんの話ですと、水性ベースのカラー原色セット、ミキシングマシーン(自動攪拌機)やアジテータカバー、スプレーガン、ブローガン等々を含め200万円+αといったところの様です。(結構要するとも感じますが、最新型スポット溶接機1台より安価ではあります。)
⑤水性塗料のランニングコスト
今回の研修を行った工場さんの話ですと、その導入後僅か数ヶ月で、その実績施工台数60台程度の様ですが、未だ明確ではないとのことでした。しかし、原色単価は当然上がっている様です。但し、水性ならではのとまりの良さから使用料は少なくて済む可能性もあることと、将来水性塗料が主流となれば、メーカー出荷量の増大等から単価は低下して行くものとも想像されます。なお、びっくりしたのは、現時点で水性対応のシリコンオフ(脱脂剤)が5L缶で16千円(定価)とのことでした。
⑥その他
メーカー技術者の方の説明ですと、水性塗料の原色は、その使用可能期間が従来の溶剤型より大幅に短いという欠点を持つとのことでした。今回の導入工場さんでも、その辺りを考慮したと思われますが、各原色の基本容量を1L缶としておりました。
追記
今回の外資系水性塗料メーカーさんは、ダイムラーベンツ社やBMW社への新車ラインへの納入塗料メーカーでもあります。そのメーカー技術者の方の説明ですと新車ラインでの熱硬化型塗料より、明らかに補修用2液ウレタンの方が耐候性等の塗膜性能は高いとのことでした。従って、新車塗装ラインでのトップコートクリアーとして、2液型ウレタンの使用も一部では検討はされている様です。しかし、製造コスト上昇への問題等から導入が進まない様子であるとのことです。また、BMW社の一部では、トップコートクリアーに既に粉体塗料(熱硬化型だと推定)が使用され始めているとのことでした。
※今回の研修では、水性塗料のこと以外にも、多くの有益な修理技術対応への実務的な内容がありました。このことは、またの機会に記します。