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製造業日本は危うい

2023-06-10 | コラム
製造業日本は危うい
 3月末にJOELD(ジェイオレッド)というパナソニックとソニーが提携し、国も支援していた印刷方式の有機ELディスプレイを生み出すと云う企業が行き詰まりを迎えた。実のところ過去の日本の液晶パネルとか半導体の優勢を知る者としては、液晶技術では韓国に大幅に遅れを取ったことを悔やみつつ、新方式の有機EL技術として、密かに期待していた。一昨年に10年ぶりに自宅のPC機材一式を入れ替える前から、27インチクラスで4Kモニターを手頃な価格で出さないかと何度も同社のWebサイトを眺めた記憶がある。しかし、種々の理由はあるにせよ、やはりダメだったという思いだ。

 こんな日本だが、未だ夢をもう一度とばかりに2020年代後半に2nmのロジック半導体を生み出すRapidus(ラビダス)という企業をトヨタ、デンソー、NTT、ソニー、ソフトバンク、キオクシア、三菱UFJの8社と政府支援を受けて設立されて動き出している。しかし、2nm半導体は、未だ作れる企業は世界の中で台湾のTSMC社のみ、それも極一部と云われている。そして、かつては半導体露光機(微細半導体回路を光学的に焼き付ける機械)も日本の天下の時代があったのだが、今や日本は黄昏れオランダのASML社の1強と云われる。しかも、2nmとなると光学と云っても可視光ではなく、EUV(極紫外線)という波長の短い紫外線を利用するらしいが、一機200億ともいわれるASMLの露光機を入手すれば即できるというものではなく、そこには露光だけでも様々な要素技術があり、相当な困難さがあると伝わる。

 日本には未だ半導体などの要素技術として、シリコンウェハー(信越化学など)、半導体および液晶パネルのメカトロ装置(東京エレクトロン)、洗浄液としての高純度フッ化水素(森田化学、ステラケミファ)、液晶パネルの偏光板に組み込まれる各フィルム(富士フィルム)など、未だ世界でトップシェアを維持している企業も多い。しかし、今次のRapidusの参加企業のトヨタとかデンソーは半導体も内製するが、専業メーカーと比べると微細度などは到底及びも付かない。そして、日本の弱さはソフトウェアにもありそうだと感じる。ロジック半導体とは、代表的なものとしては、CPUとなるが、単に回路を成立させるだけでなく、その中には各種のハードウェアに密着したソフトウェアが組み込まれる。それは、例えば命令セットとか、セキュリティに関するものとなるだろう。

 台湾のTSMCという企業だが、現物を作る製造業だが、設計図を作る企業(マイクロソフト、AMD、Nビディア、IBM、アップル、ARMなど)の設計があり、その現物製造としての受託生産を行う企業だ。今次のRapidusでは、IBMがその役を担うのだろうか。この役目は、トヨタとかデンソーには到底できる人材はいないと思えてしまう。

 ついでに、EVで出遅れ感を指摘されているトヨタだが、2年後を目処に年産150万台を生産すると主張しているが、例えこの150万台が達成されたと仮定しても、その時にEV市場が何処まで拡大していて、それが如何な価値を持つのか、価格競争力が何処まであるのか疑問と思える。そして、EVと同時並行するADAS(自動運転技術)だが、トヨタは新OSとして「アリーン」を作り上げると云うが、このソフトウェアの設計力というか構想力に弱さを感じてしまう。

 非常に日本にとって自虐悲観的な意見を持つのが、ウーブンシティも2年後完成予定だし、遅すぎるという感を持つのだ。ついでに先日の日野と三菱ふそうの企業統合とベンツとトヨタの提携だが、おそらく打開策としての深読みなきまま、ベンツに話しを持ちかけたのはトヨタであろうが、軽はずみな判断に見えてしまう。

 現下の日本は、政治もムチャクチャやっているが、経済的な失速感も高まっている。これが自動車一本足打法が崩れた日本を想像するだに空恐ろしい世界が生まれないことを願うばかりだ。

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“国策企業”の夢破れる…JOLED破綻、世界初の印刷方式が難航した理由
ニュースイッチ 6/3(土) 16:10配信
 3月27日、有機ELディスプレーパネル製造のJOLEDが民事再生法の適用を申請した。負債額は約337億円だった。同社は官民ファンドの産業革新機構(現INCJ)主導の下、2014年7月にJDI、ソニー、パナソニックの有機ELパネル製造事業を統合した企業だ。世界の潮流である蒸着方式とは一線を画した印刷方式での開発、製造が最大の特徴だった。
 しかし、世界初の印刷方式は難航した。生産性が高く、安価、高精細をアピールポイントとして19年11月から量産を開始したが歩留まりは悪く、価格は高く、その低稼働率では工場の固定費や高騰する材料費を吸収できなかった。22年3月期の売上高は約56億5500万円、8期連続の最終赤字で約197億円の債務超過。INCJが56・8%の株式を保有する筆頭株主であり、累計1390億円(出資1190億円、融資200億円)もの資金援助をしたにもかかわらず、“日の丸有機EL”は完敗だった。
 スポンサーはJDIに決定した。同社もまた、INCJの主導の下、12年に日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶表示装置(LCD)製造子会社を統合して誕生したが苦戦中だ。異なるのはINCJが完全に手を引き、独立系投資ファンドのいちごトラストが長期継続保有、“フルコミットメント”での関与を明言していることだ。JDIは金融支援するわけではない。工場は閉鎖、工場従業員は解雇され、開発部門の人員、知財だけが同社へ譲渡される。先般、中国の大手液晶メーカー、HKCと提携したJDIは先方が建設する次世代有機ELの新工場に量産技術を提供する戦略を立てている。JOLEDの技術者も立ち上げ要員として活用される見通しだ。
“国策企業”の夢は破れたが、アジアへの水平展開、ライセンス・ビジネスへの転換で活路を見いだそうとしている両社。戦いはまだ続く。


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