私の思いと技術的覚え書き

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ある車両火災事故の記憶

2008-08-19 | 事故と事件
 毎日暑い日が続いています。そんな暑い日が続く10年前となる1998年の今頃、ある車両火災事故の調査に携わった際のことを思い出します。

 この車両火災ですが、メルセデスベンツ500E(124型)というクルマが、夏場の外気温の高い状態で、信号待ちの渋滞中にエンジンルーム左前方(左ヘッドランプ後方)より出火した事故でした。幸いなことに、運転手は近くの店舗で消化器を借り、自ら消火作業を行い鎮火するに至ったのでした。しかし、その修復作業は、ボデー外装関係はヘッドランプを取替した程度で、フロントバンパー、フード、左フロントフェンダーは塗膜の焼損を再塗装する程度で済んだのですが、メカニカル関係について予想を大きく超える費用を生じたのでした。具体的には、ABSユニットやワイヤリングハーネスの多数が取替を必要とすることとなったのですが、これら部品の入手は長い納期を要し、修理完成までに3ヶ月以上を要した記憶があります。また、その修復費用総額も400万円程度に達したと記憶します。

 さて、車両火災事故ですが、通常の衝突事故と比べれば少ないものの、H19年の東京消防庁の管内統計では、年間500件程度が発生しています。従って、全国で見れば、その何倍かとなる数千件は生じているのでしょう。この車両火災ですが、燃焼範囲が大きくクルマ全体が丸燃えしている様な場合は、その原因の特定が難しい場合もありますが、ここでの火災の様に燃焼範囲が限定されている場合は、比較的容易に特定できるものです。

 この車両火災では、出火部位は明らかに左ヘッドランプの後方付近ですが、排気管とは離れていますからその可能性はなし、燃料系の配管も近くになし、電気系の配線はありますのでその可能性を疑いました。しかし、よくよく観察しますと、ラジエータの前方に装着される補助電動ファンの回転速度を制御するレジスター(抵抗器)がヘッドランプ後方に装着されており、これを疑うに至ったのです。そんな疑いを持ちつつ、類似のリコール情報がないかと運輸省(現国土交通省)のリコール情報を検索しましたら、一致する情報があったのです。この情報(下記リンク)によれば、「夏場等の高温下において、燃料蒸発ガス抑止装置のキャニスターの大気開放口が電動ファンのレジスター近くにあり車両火災に至る恐れがある」とするものでした。但し、対象車両はメルセデスベンツ400Eです。
 同車両火災の発生車には車両保険が付保されており、その損害は保険会社の負担により修復ができた訳です。但し、この様な場合で第三者にその責任が記する場合は、保険会社はその第三者に請求する権利を取得します。これを代位取得といい、その請求権を代位請求というのですが、この事故もリコール情報としての対象車には該当しないというものの、同シリーズの車種でまったく同様の構造ですから、極めて設計・製造上の瑕疵と疑われるものです。ということで、同社の日本法人におたずねすることにしたのでした。しかし、その返答はけんもほろろに、「該当車は平行輸入車であり、かつリコール対象車でもない」として、その調査すら拒否されてしまったのです。なお、その後に自動車製造物責任相談センターへ相談したのですが、「因果関係があれば民事上の問題として提訴できるであろう」とのことでした。私は、以上までの調査を担当し報告したのですが、その後のことは知りません。


リコール 外-0519-0 届出日:1994年04月05日
http://carinf.mlit.go.jp/jidosha/carinf/ris/detail/1205190.html


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