私の思いと技術的覚え書き

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寺子屋指南・アジャスター教育

2021-03-25 | コラム
 寺子屋とは江戸時代に未だ教育制度はなかったが、各寺院などの広間を使用して、近隣の子供達に極初歩的なを伝授していたという。その極初歩的な学問とは、文字の読み書きであったり筆使いとか、初歩的な算数などが主だった様なことがものの本には書き記されている。

 寺子屋の教師となったのは、寺の僧人とか志学に優れた武士などが担当していたという。そもそも江戸時代で制度としての学校教育がなかったのにも関わらず、人々の文字の識字率はある程度高いものがあり、都市には現代の様な印刷技術はないから、書籍は普及していなかったが、いわゆる貸本屋というのが存在し、人気のある物語などの貸し出しがなされ普及していた様だ。また、商人などで、いわゆる番頭各になれる者は、基本的な文字の読み書きとか、算術知識がないとなれなかっただろう。

 前置きが長くなったが、昔20数年間損害保険会社の調査担当者(アジャスター)として、その業を担当して来た訳だが、遠い話しとして聞く、調査担当者に対する教育が減っている様に感じられる。その理由として幾つか考えられることを羅列してみたい。
①損保の合併によって、アジャスターの人員余剰が生まれたことにより、副次的に新人採用の減少したこと。
②いわゆるマニュアル化の普及により、マニュアルの通りにやっていれば、新たな教育なんか必要ないというマネージャークラス以上の者の意識。
③コンピューター技術の発達で、大した能力がなくても、一応見積としての格好はできてしまうこと。
④これは想像を多く含むが、もめ事を起こし損保のイメージを落とすより、一に早く支払うことが、損保の役目だと認識している損保経営人が多くいそうなこと。

 だいたい、保険の損害担当者としてもめ事を起こす場合、本人の気配りの欠落など落ち度がある場合も多い。しかし、中にはマジメにことの本質を捕まえて問題点を見出し、「損保は善良な契約者や被害者のために活動することが本分であり不正は許さない」などの意識を持つことは今でも大切なことだと思うのだが、この点で現代の損害保険担当者と話しをしていると、ちょっと物足りなく思えてしまう。

 ということで、表題の寺子屋指南という通り、先輩の実務家として、後輩および修理工場も含んで、個別の問題をどういう風に理解したらようのだろうかということを具体例を持って記して行ってみたい。

 第1回目の今回は、ドア下がりとフロントピラーの変形のことを記してみたい。

 そもそも数十年前の衝突安全ボデー以前のクルマでは、5、6年もクルマを使用していると、ドアが下がり、締める際に、ドアロックとストライカー(ロックが嵌合する受け手)がスムーズに噛み合わないでガタ付くなんていうのいは当たり前のことだった。この理由は、ドアヒンジピンの摩耗もあっただろうし、いわゆるドアパネル自体の剛性不足により、ドアパネル自体が下方に垂れるという変形を生じたことからだ。

 この改善は、ドアヒンジのヒンジピンをより摩耗の少ない耐久性のあるものにしたり、主にアッパーヒンジのボデー側の取付を垂直に2本ではなく、水平2本のボルトで固定し、ドア垂れに対する剛性を改善して来た。また。ドア本体のヒンジ取付部周辺の剛性不足に起因するドア垂れは、ドアのインナーパネルにテーラードブランク(差板厚でブランク(切断した)鋼板を使用し、これをプレス加工して成型するのが常套的な製造方法に変化した。つまり、ドアインアーパネルのヒンジ取り付け部となる前側はt1.2程度の鋼板で、それより後部はt0.9程度の鋼板が使用されている。

 ところで、アジャスターの新人教員などで、見積技法という科目があり、その前提として損傷診断というものが今でも行われているだろう。つまり、損傷車のドアを開け閉めしてみて、ドアロックとストライカーが当たる場合は、ドアが下がっている、すなわちフロントピラーが後傾していると多くの場合教えている訳だ。また、ロックとストライカーが当たる程度でないにしても、フロントドア後部とリヤドア前部のチリ(隙間)が上が狭くて下が広いという場合には、ドアが後退すなわちフロントピラーに変形があると、バカの一つ覚えで見積技能がない者が教えているのだからムリもないことだろう。

 ここでプロの損傷診断を伝授したい。ドアが下がっていると見受けられた場合、まず車両前部の損傷具合の大まかな傾向から、フロントピラーを後傾させる損傷かどうかを見極めることが大事なことだろう。その上で、これでドアが下がる訳がないと判断したら、ドアをちょっと開いた状態で後部の下端を両手で上下に揺すってみることだろう。昔は、この診断で、ドアヒンジピンが摩耗していると判断した訳だが、今どきヒンジピンが摩耗しているのは、相当な旧車だけだろう。

 このドア後部を上下に揺する診断で、大きくドアが動く様子があったとすれば、アッパーヒンジ取付部の動きを合わせて観察してみることだろう。予め取り付けボルトを緩めてあり、ドアが下がる細工を凝らしているのを発見するのがプロだろう。

 なお、こういう細工を発見したからといって、そのことを入庫工場に話す必用はない。相手にもプライドはあり、そこをあえて攻め込む必用はない。事故見積にはフロントピラーの修正は一切入れずに、それで入庫工場から、ドアが下がっていただろうという話しがあって、そこでヒンジボルトが緩めてあったことを伝えれば良いのだ。


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