私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

軽井沢バス事故に思う

2016-11-17 | 事故と事件
 今年、1月15日未明に生じた軽井沢バス事故であるが、上空写真より大まかにカーブ半径を読み取ると、400R程度のものだ。速度はタコグラフ(運行記録計)から100km/h弱と聞こえている。カーブの曲率を少なめの300Rとし、速度を100km/h(33.3m/sec)としたときの求心加速度は0.37Gとなり、タイヤのμからみれば一般論として限界となる0.7Gと比し、大幅に余裕がある。つまり何事もなく、カーブに沿ってステアリングを切り込むでいく、いわゆる定状円旋回に近い状態であれば、多少のアンダーステアが出るかもしれないが、バス故の超リヤヘビーによるオーバーステアに陥ることもなく、まったく余裕で旋回できる曲率な訳である。

 しかるに事故は生じたのである。これは事故直後の意見でも記したことだが、該当左カーブ手前の右カーブのガードレールに接触痕があり、事故バス左前部と接触したことが推察されるのである。驚いた運転者は、とっさに右へのステアリングの切り増しを行い回避したはずである。そして、続く左カーブへの反転操舵と、たぶん減速しようとブレーキペダルを強めに踏みながらのものであったろう。しかも、カーブに沿ってゆっくり切り込むべきべきものを必用を越えて切り込んだのではないか。ここまでやると、FR乗用車だって、荷重移動と必要以上のコーナーリングフォースの立ち上がりで、ドリフトを生じる。しかも、超リヤヘビーが故に、後輪がドリフトアウトしつつ、後側面で広範囲にガードレールを薙ぎ倒しつつ、車体はカーブ外方向への速度成分有したまま、道路外側の法面を横転し、ルーフ部が太い立木に当たり大変形を生じたという不幸な事故だ。

 この事故後、何度も云われていることだが、マイクロバスしか運転したことがない大型免許所持者が、慣れない12mフル規格の大型観光バスを運転したこと事態が大きな要因となったのであろう。ベテラン大型観光バス運転者なら、例え最初の接触事故があったところで、カーブ曲率半径から想定しても、適切なハンドル操作と、ブレーキは踏んだにしても、弱めであろうし、十分旋回は完了していたというのが私見なのである。

追記
 本事故について、直後より国沢光宏なる自動車評論家(らしいが)が、再三ブレーキが効かなかった説を記している様で気になるので付言しておきたい。同氏の記事では、元運転手の報告として引き、エアブレーキ配管が氷結して云々を追認してるが、まったく起こり得る現象ではないと判断するのだ。
 大型バスの高圧エア(800-900Ka)はブレーキだけでなく、サスペンション、トランスミッション、クラッチ、乗降口扉、他と多数されるが、複数以上のエアタンクが用意されている。修理工場などで利用されるエアコンプレッサーと付属するタンク内に凝水が溜まるのと同様に、バスのエアタンクもタンク毎に擬水抜きとり用のバルブが用意され、ワイヤーを引くことで行える構造となっている。(運行前の日常点検項目)また、エアドライヤーの装備も記してある通りだ。しかし、擬水はいきなり短時間に溜まるものではないし、しかも溜まるのはタンクの底部だ。そこが凍結することはあるだろうが、エア経路となる配管内や各バルブ部で、閉塞すべき凍結が起こることはちょっと考えにくいと判じるのだ。そこまで、寒冷地のエアブレーキが信頼性に劣るなら、シベリアとかアラスカなど極寒地において、大型車で大惨事が起きているだろうが、そんな話は聞いたこともないのある。



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