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Seat belt injury という害

2022-05-14 | 事故と事件
Seat belt injury という害
 クルマの安全装置としてシートベルトは欠かせない器具であるところは誰もが認めることろだ。このことは、ほとんどのクルマにエアバッグが装備される現在に至ってもSRSエアバックと称される通り、エアバックはあくまでもシートベルト着用を前提にしての補助的拘束具だからだ。(SRS=Supplemental Restraint System:補助拘束装置)

 さて、クルマの衝突事故においてシートベルトの効能を疑う余地はなく、ある一般向けの説明には、「シートベルトをしていなかった場合、していた場合より14倍も死亡率が高まる」などと記されているが、むべなるかなと思うところだ。しかし、ある効能を持つ薬剤が、副作用として別の問題を生み出すことと類似するが、シートベルトが生み出す傷害(Seat belt injury)という毒も知る必用があるのだ。

 これの極端な実例として、流石に実物には見たくもないがものの本で知る知見として、航空機の墜落事故では、クルマなどよりより高速からの衝突事故が起きえるのだが、総じて旅客機のシートベルトは2点式であるが、ある場面では人体の胴体がシートベルトにより断裂している場合さえあるという。それは、航空機の墜落で仮に300Gという減速度が働いたとすれば、人体にはその体重の300倍相当の過重が働く訳で、そういう現象が見られるのも不自然ではないだろう。

 ここでは、一般的な交通事故を前提として、ある弁護士がある鑑定人に対し、ある事故の運転者が死亡した案件で、このシートベルト傷害があり得るかとの主題で鑑定を依頼された数十年前の案件があり、ここではその鑑定書の結論を紹介してみたい。その鑑定人とは、過日別案件(下記参照の吉川氏)なのであるが、同氏はその弁護人が、この鑑定により、誰の責任を問おうとしたのかは不明なのだが、当該弁護士からは以後鑑定の依頼を受けることはないが、年賀状や暑中見舞いなど、戴く関係が続いていると云う。
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【Seat belt injury 鑑定・結論】

Ⅱ.結論。
 本件正面衝突の「「衝突中」におけるM車に加わった衝撃加速度とMに加わった外力を算定するため、「人」~「車」~「環境」の変化に注目し、力学的考察の上で実車衝突実験データーを引用して解析した結果、次のようにまとめることができる。
 本件事故は飲酒運転していたMが 59.5 km/h 程度の速度でセンターラインを超過したため、折から対向してきたK運転の乗用車と偏心正面衝突した。このときのK車の衝突直前速度は 27.1 km/h 程度であった。
 その結果、鑑定事項に対して次のようにまとめることが出来る。
 ①この事故によってM車には 25.1G程度の衝撃減速度が加わった。
 ②これによって運転していた同Mには、シートベルトを介して約 1,600kgf 程度の外力が加わった。
 ③Mは、この減速度の中でシートベルトを着用していたため、同ベルトのショルダーベルト部と右肩上面を擦ったため同部に表皮剥離を起こし、 左上半身が捻られるように前方移動したことによって顔面をステアリング ホィールと二次衝突して口腔内部に挫創等を負った。と、同時にシートベルトのラップベルト部を腹部に当てていたため腹部の臓器破裂などの重篤な傷害を負った。
 そもそもシートベルト・インジュリーは、以前からシートベルト着用化の義務付けを行った先進国から伝えられている傷害である。
 既に説明したように、我が国では昭和61年11月01日からこれの着用の義務付けと減点制度が採用されたが、ひとたび高損害の自動車交通事故が発生したとき、交通事故の処理を行う者の全てがこの傷害の発症に対して充分な注意を払う必要がある。
 本件では多くの警察官、医師等がMに接しながら、誰一人シートベルト・インジュリーに気が付かなかった。つまり、かかる傷害に対する教育が行き届いていたならばと考えると痛恨の極みである。 以上。
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【補足事項】
 上記鑑定人の結論では、「事故時に該当者の身体には1600kg相当の過重が働いており・・・、シートベルトのラップベルト部を腹部に当てていたため腹部の臓器破裂などの重篤な傷害を負った。」とある。
 一方、「我が国では昭和61年11月01日からこれの着用の義務付けと減点制度が採用されたが、ひとたび高損害の自動車交通事故が発生したとき、交通事故の処理を行う者の全てがこの傷害の発症に対して充分な注意を払う必要がある。」とし、「本件では多くの警察官、医師等がMに接しながら、誰一人シートベルト・インジュリーに気が付かなかった。つまり、かかる傷害に対する教育が行き届いていたならばと考えると痛恨の極みである。」と結論付けているのである。

【下記記事】
交通事故・冤罪事件事件/事故鑑定が刑事事件を無罪に導く
2022-04-27 | 事故と事件
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/dc76024083789b1f4655db9339f61642

#Seat belt injury


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