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整備難民? Youtube記事から思う

2023-01-24 | 問題提起
整備難民? Youtube記事から思う
 この記事コンテンツ内容から思うところは幾つかある。

 まず、コンテンツ動画のナレーション冒頭から、論理矛盾のいいかげんなこと宣うことを非難したい。ナレーション曰わく「近年、技術の進歩やエコ志向でクルマの高齢化が進んでいます」と云うが違うだろう。車両の高齢化が進んでいるのは、日本の一般消費者が窮乏化しており新車などへの代替ができなくて車齢が高齢化しているとしか考えられない。

 さて、コンテンツで上げる問題の一つとして、車両が故障などしても直ぐ見てくれる工場が少ないという表題だが、全国に国交省が資格を認証している工場数は92千工場(この内に上位資格の指定工場も含む)もある。これからすると、現在の自動車保有台数は9千2百万台だが、対する工場数は92千だから、1工場平均で約90台をカバーリングしていることになる。現在の日本車は世界的にも信頼性が高いと云われているが、この90台中のすべてが故障を起こす訳あり得ないが、ちょっと確率として多いとは思うが年に1度故障を起こすとしても1工場辺り約8台だ。地域差もあるのだろうが、これで修理先の工場がないとは考え難いことだ。

 ちなみに、筆者は過去40年に渡り車両の整備業界を見て来たが、そもそも整備業界にとって、ある故障を直す修理が事業の中心かと考えると異なると思える。整備工場にとって、主体となって売上の過半以上を占めているのは、法令で定められた継続車検の関わる検査やそれに連なる整備となるのだ。現行の法制に批判的な意見となるが、現代のOBD機構とか高度に故障を報知する機能が装備された車両において、旧来と大差ない車検有効期間が妥当だろうかと思考した時、その車検という制度の実態が、ほとんど分解などすることなく目視点検でまっとうできることを考えると、この車検という制度はかなり過剰な法制度であり、それによって92千工場が成立している様にも感じる。

 一方、冒頭の様な、ユーザーが故障しても直ぐ見てくれないとか、何ヶ月も要すると説明されると云うのは、工場が積極的にその様な個別修理をやりたがらないことを示しているのではないかと想像できる。つまり、そんな個別修理で頭を悩ますより、定型的で効率的な作業で売上が稼げる車検整備を中心に仕事を行いたいという意識が根底にはあるのではないだろうか。
 しかし、そういう個別修理を体よく断る様な工場に、いざ車検でユーザーがその工場に車両を持ち込むことはないだろう。つまり、個別修理対応できない様な工場は、車検そのものへの、機械を失って淘汰される運命にあると云えるだろう。

 次に、工場に勤務する整備士からの意見だが、給与が低すぎて車両整備を嫌う訳ではないが、給与が低すぎて続けることが困難に思えるという意見だが当然だろうと思える。日整連という整備工場を束ねる組織体があるが、そこの集計では全整備工場の平均年収額は約400万円だ。この内、ディーラーとそれ以外を区分すると、ディーラーで470万円/年程度(36才)、ディーラー以外で360万円/年程度(50才)であり(括弧内は平均年齢)、ディーラーは平均年齢で若くその年齢ではまあまあの給与だが、これはデータ上でなく筆者の体験から感じるところだが、ディーラーの平均勤続年数は比較的短く40以下で退職している者が多いと実感している。一方、ディーラー以外工場では平均年齢が50と高いにも関わらず400万円に満たない年収で、このことは若い新人がほとんど入社していないことを示している。

 さらに日整連の統計資料から読み取れることとして、全国92千工場の年間総売上は約5兆5千万円で、その従業員総数(整備士+間接員含む)は約55万名ということが判る。ここから、従業員1名当りの年間平均売上は1千万円となることが判る。この1千万はあくまで総売上であり、これに様々な経費を要するし、部品販売では仕入れ原価があり粗利としては20%と云うところだろう。

 整備工場の売り上げとしては、主体となるのは工賃売上であるが、これには原価として工場費(工場自体とか様々な設備機器)と人件費となる。ところで、日整連の統計では92千工場の平均工員数は4.1人/工場なのだが、ちなみに工員数8名+間接員(受付、事務など)2名の総員10名のモデル工場を仮設定しつつ、その工場費を想定するとおよそ1千万円を要すので、1人辺り10万円を要す。これが、日整連の一工場4名平均だと、工場費に1名250万円を要するから、工場の経費率としての負担は大変なものとなる。

 さらにシミュレーションとして、平均工場4名の工場で、年間総売上が4千万だと仮定し、その内の部品販売売上が20%とすれば800万円の売上に対し、仕入れ原価は640万円だ。そこに、工場費はやりくりして年間500万円まで圧縮したとして、総売上から、部品仕入れ640万円と工場費500万を控除すると、残額は2,860万円となる。これを1名あたりとして1/4とすると715万円となる。ここから、厚生年金負担額、各種保険料、各種税金負担額などを控除することになり通常は50%程度を見込まなければならないだろうが、やりくりして40%控除として残り60%相当は426万円となってしまうのだ。

 つまり、整備工場において、年収800万を目指そうとすれば、逆計算して行くと、厚生年金負担や各種税金などで1人倍額の1,600万円/年を売り上げなければならず、しかも工場費1千万を償却していくためには、到底4名の規模ではムリであり、総員10名規模で、年間総売上1億7千万円の売上がなければならないことになる。

 そして、もう一つ特に工場経営者は知っておくべきこととして、稼動率の問題がある。この稼動率とは、日々の労働拘束時間に対して、売上に寄与できる時間と、朝礼、訓示、研修、清掃など、売上には直接寄与できない時間の比率を表すものであるが、多くのレバーレートの計算には稼動率68%が計算に使用されているが、筆者の経験則としては50%程度がいいところだと想定している。
 この稼動率をなるべく高めることと、作業員や事務員の能力向上が工場の収益力アップには欠かせない要素となる。もちろん、仕事が途切れることはあってはならないという大前提もあるので、十分な集客力を維持することも欠かせないことだろう。このことは、人が足りないという労働力不足の改善には、給与を高めて、特に若い優秀な人材を求める経営者は意識していることではあるだろうが、これはフランチャイズチェーンに入れば解消できる問題ではない。

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「手抜いてやるのは本当にまずいので…」車が故障してもすぐに修理できない!? “整備難民”が急増しているワケ
TBS NEWS DIG Powered by JNN 2022/12/09
https://youtu.be/dNgmMTwGTi4

 「整備難民」という言葉、聞いたことはありますか?あなたの車が故障しても修理を断られたり、すぐ対応してもらえなかったりするかもしれません。その理由を取材しました。


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