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フロントエアバッグの動作

2022-07-11 | コラム
フロントエアバッグの動作
 ここでは、Youtubeエアバッグの動作について、以下の実験動画(水平に設置した運転席エアバッグ上にスイカを垂直落下させる)を、正規のタイミングとある程度遅延させたタイミングの2事例を比較した興味ある動画(動画最後にホンダのロゴが出る)を見て、改めてエアバッグの動作を思考してみた。

Youtube When Your Airbag is Late(25秒)
2012/12/28
https://www.youtube.com/watch?v=QS6ywFGcLSk


 この実験は、2つの実験を高速度カメラで撮影したもので、スイカを何メートル上から落下させているのか不明ながら、動画目視でエアバック上1mの位置に光電管センサーを設置してあり、これで落下スイカの位置検出を行っている様だ。

 正規タイミングの実験では、動画中でエアバッグが全展開したところで未だスイカは目視上約約0.5m上の位置にあり、全展開したエアバッッグでソフトに受け止められる。エアバッグは、バッグ背面に20mmΦ程度の穴が2ヶ設けられており、全展開するとガス発生剤の容量限界によりある程度の短時間で収縮する動作をするので、スイカが反発されて飛び上がることもない。(参照図Fig1-2)


 一方、エアバッグの動作を遅延させて、正にスイカが未展開エアバッグ上に接触した位置でエアバッグを作動させた実験では、スイカはエアバッグの急速展開する大きな膨張力で、正に爆発したかの様に破壊される。(参照図Fig3-4)


 この実験でスイカを落下させた高さは不明だが、ちょっとした物理の公式を参考にしながら、ある程度の思考をしてみたい。スイカの自由落下の重力加速度9.8m/s^2とは、時間と速度の関係をグラフで示すと参照図Fig.5の様になる。


 この様に速度の時間当りの変化率を示すのが加速度であり、グラフの傾斜角で表せる。数学の定義に微分および積分という一見難しく感じるものがあるが、この加速度、速度、変位(移動距離)の間には参照図Fig.6の関係がある。


 ここで、微分とは、先のグラフ(Fig.5)の傾斜角を表すもので、積分とは傾斜角で囲まれる面積を表すことと同義になる。参照図Fig.7を見てイメージしてもらいたいが、自由落下の場合加速度は重力加速度で9.8m/s^2で一定の等加速度運動となるが、同じ1秒間の速度の変化率は一定となるが、その間の変位(移動距離)は速度が増速することで、積分値となる面積は増加して行く。具体的には、グラフの最初の1秒間と、2秒経過後から3秒までの同じ1秒間では、三角形もしくは台形で示されるAおよびBの面積を計算してみると速度の変化率は同一だが面積は3倍近くになる。積分値としての変位の計算式は、V=1/2αtとかh=1/2αt^2などの公式があるが、ここで1/2とか2とかいう数値が入って来るのは、三角形もしくは台形の面積計算(底辺×高さ×1/2とか底辺×上辺×1/2)ということが理由なのだ。


 以上を前提に、ここではスイカの落下高さを2mと仮定し、実験の正常作動のエアバック展開位置から0.5m上で、つまり落下開始から1.5m降下した時の速度を計算すると以下だ。

 V=√2αh だから、それぞれ代入してV=√2×9.8×1.5で5.4m/sと算出できる。この時の時間は、t=√2h/αだから代入するとt=√2×1.5/9.8で0.553秒となる。

 ここで、実験の正にスイカが未展開のエアバッグに接触した瞬間にエアバックが起爆したすると、正規の展開時間よりどの程度遅延させたのかを計算してみたい。

 スイカの落下高さを2mと仮定し、V=√2αhに代入し、V=√2×9.8×2で6.2m/sとなる。この時の時間は、t=√2h/αだから代入するとt=√2×2.0/9.8で0.638秒となる。となると、先の1.5m落下と2.0m落下の時間差は0.638-0.553だから0.085secとなる。つまり、僅か85msec遅延しているという計算になる。これはあくまで、スイカの落下高さを2mと仮定した場合で、もっと高い位置だと、さらに遅延時間は短くなる。ちなみに5m落下で試算すると52msecとなる。

 さて、エアバッグ作動が遅延し、正にエアバックに接触した瞬間起爆した時、スイカが粉砕したのは、エアバッグの展開速度がそれだけ高速であると云うことがある。エアバッグの展開速度は、トリガー信号で起爆後20-30msecで展開完了すると云われ、その展開速度は時速換算で200-300km/h(秒速55m/s-83m/s)に達するという記述がある。

 ところで、自動車事故の場合、時間当りの大きな速度変化(これを⊿V(デルタブイ)と表現する場合が多い)により、強い車体減速度が生じる。つまり、衝突時間がブレーキによる限界急制動ではタイヤと路面の摩擦係数と重力加速度の積が限界で、摩擦係数(μと呼ぶ)は通常の市販タイヤ乾燥路面では0.7-0.8程度と云われレーシングタイヤである程度の温度上昇により粘着するものでさえ1.2程度が限界)だ。
 ところが衝突事故で速度変化している時間は0.1-0.2sec(100msec-200msec)と云われる短時間で速度変化するので、強い負の加速度が生じる。ちなみに、JNCAPのフルラップ評価は時速55km/hで固定バリヤに衝突させるものだが、衝突時間を0.1secとすると減速加速度は153m/s^2(G換算約16G)という値となる。つまり、乗員は体重の16倍の加速度で前方へ押し付けられるのだが、シートベルトで守られる。ベルトには、プリテンショナー装置でベルトのたるみを張る装置を持つが、一方そのまま強い減速度を与え続けると肋骨骨折などの要素があるため、フォースリミッターという装置で、一定以上の加重が加わるとベルト基部の金属部の捻り作用でそれ以上拘束力を一定以下に留める機構も付く。しかし、頭部はベルトで拘束できないので、前方へ前傾してしまうと云うことで、ベルト着用を前提とした、エアバッグで頭部顔面を受け止め、重大な負傷を防ぐのがエアバッグシステムだ。

 このエアバッグの働きを判り易く解説したYoutube動画を以下に紹介する。

Youtube エアバッグ|一体どのような仕組みなの?(約8分)
2021/12/22
https://www.youtube.com/watch?v=2lMfajo7-sY&t=75s

 ここで、注目はインフレーターというエアバッグ本体には、チッ素ガス発生剤という薬品錠剤が内包されていることだ。起爆装置(スクイブと呼ばれる)で300℃程度に加熱されると約70Lのチッ素ガスが発生し、エアバッグを膨らませる。

 最後に車両メーカーではエアバッグの作動条件をどう伝えているのかと云うことで、プリウス現行型の取り扱い説明書の記述を山椒図Fig8に示すが、固定壁に時速20-30km/hで正面衝突した相当以上の場合に作動すると記してある。この固定壁に正面衝突というのを有効衝突速度とかバリヤ換算速度とも呼ぶ。なお、衝突条件によって、プリテンショナーのみ作動する場合もある(つまり作動しきい値がプリテンショナーの方が小さい)ことが記されている。


【補足注意事項】
 車両から取り外した未作動インフレーターは、静電気やテスターなどの電圧誤印加により誤作動を防ぐため、コネクタを抜いた状態ではスクイブ電気端子間をショートさせる機構が取り入られている。それでも、テスターによる抵抗測定などは厳禁だ。それと、取外し保管は、エアバッグ表側を上にして保管することが肝要となる。取外し保管中にエアバッグ表面を床や部品棚などに下にして誤起爆が起きると、正に200-300km/hの速度で跳ね飛ぶ可能性があり、これはタイヤ空気充填中に中大型車のホイールリングが跳ね飛び、死傷者が出ているが、それと同等以上の危険性がある。

#エアバッグ #開くタイミング


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