私の思いと技術的覚え書き

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水没車で水死の悲劇

2017-11-02 | 事故と事件
 先月下旬の台風21号により三重県で生じた事故車の写真をNetから拾った。写真からは、たぶん河川敷法面上の道を走行中、折からの豪雨で視界も悪く、路肩にはガードレールもなく、雨で路肩地盤も緩んでいたのだろう。路外逸脱し、かろうじて法面の立ち木に引っ掛かり走行不能に陥った。報道によれば、その直後運転者から119番通報がなされ(つまり事故直後は生存していた)、救助隊員が駆け付けたが、河川は3m程度増水し被害車両の発見は翌朝となり、車内から死亡運転者が発見されたということだ。

 この写真から想定するに引っ掛かった立ち木で右側ドアを開けるのは不可能だろう。左側ドアは開くのだろうが、ほぼ真上となったドアは、その自重もあるから相当な力が必要となる。もしくは、左側のドアガラスを開けて脱出できなかったのかと不思議にすら感じる。

 ところで、もう何年も前になるが米国のディスカバリーチャンネル「怪しい伝説」というTV番組で、実際の水没車に乗り込んで、脱出実験を試みるというものだ。この結果は、水没し始めると、みるみる車内は浸水し始めるが、ドアの1/3位まで水に浸かると、もう水圧で人力では開けられなくなるということだ。そして車内が浸水で満たされ、内外の水圧差がなくなるとドアを開けることが出来る。そうして水没開始から脱出して水面まで出るのに要した時間は約120秒だ。

 実験として意識して臨んだものでこれだけ要するのだから、突然の災害ならもっと脱出時間を要するだろう。ところで、ドア自体は水圧差で開かなくなるが、ドアガラスも同様だが、ガラス部まで沈む前に開放しておけば開くことだろうが、パワーウインド系の制御ユニット(ボデーECU)が先に水没して回路が死んでしまう場合もあるだろう。

 では、ひじ打ちや足蹴りでドアガラスをけ破ってといきたいが不可能だろう。多くのクルマではフロントウインド以外は強化ガラス(溶融ガラスを成型後表面を空冷する熱処理で表面の圧縮層と中間の引っ張り層でバランスさせ強度を増したもの)が採用される。ガラスメーカーの試験では10m程の高さからガラス面に鉄球を落としてもバウンスして割れない程の強度を持っている。時々、アクション映画などで、空手パンチでサイドウインドを突き破るシーンがあるが、まったくあり得ないものだ。たぶん、生板ガラスだとケガするから、他の代用品で摸しているのだろう。しかし、この強化ガラス、鈍器状物では割れないが尖った固いものには簡単に割れてしまう。これは、表面圧縮層の一部でも亀裂が入ると、ガラス全面に圧縮と引っ張りのバランスを失い細かい粒状となって破壊する。なお、フロントガラスは合わせガラスで自動車用としては生板ガラス(航空機では強化ガラス)の中間にPVB(ポリビニールブチラール)という強力な接着力と耐貫通性を持った樹脂を挟みこんでいるので、割れても人間が通れる程にまで拡張するには多くの時間を要してしまう。

 ということで、車内には強化ガラス破壊用のピックハンマーを準備しておくのが有用だろう。そして、事故時の車両姿勢により、後部のサイドウインドウとかリヤウインドウ(高級車には合わせの場合もあるので注意)を破壊してエスケープするのが正解だろう。



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