私の思いと技術的覚え書き

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R53クラッチトラブルのこと

2017-05-10 | BMWミニ
 過日、埼玉県戸田市まで引き取りに出向いたR53(6MT)だが、早速の原因追及に取り掛かった。運転者曰く通り、クラッチペダルがまったく踏み込めないし、ペダル位置がほぼ中間辺りとなっている。エンジンは始動可能だが、クラッチを踏むが僅かしかストロークせず、しかも結構大きな異音が出て、クラッチが切れず各ギヤに入らない。積車から降ろし移動するに際し、平坦なら2人で押せるが、作業場所に段差があるため、2人ではムリ。予めギヤをローにセレクトし、スターターで移動して作業エリアに移動した。

 まずはジャッキアップしてTMを脱着する準備を進める。その中で、レリーズシリンダのオイル漏れはともかくとして、レリーズレバーのバックストロークがまったくなくビクとも動かない。ディーラー見積では、クラッチとTMの一部分解、そして最悪はTMのAssy取替で100万也の見積だが、エンジン停止で、問題なくギヤセレクト可能だし、クラッチ関係に原因は断定できると判断して作業を進めた。

 R50も56も、そもそもFF系は作業設備さえ整っていれば、エンジン+トランスアクスルAssyを一体で脱着するのが基本だし、作業能率上からも早いだろう。しかし、限られた設備環境で行うとなると、多少難しくともTM単体で脱着を行うしかない。以前R50でクラッチOHは経験済なので、だいたいの手順は把握できている。しかし、R53の6MTはゲトラグ社製で、シフトリンクの位置が異なりボデー側に干渉することや、エンジンとの結合ボルト廻りが、ストレートなロングエクステションが入らないなど、手間取るがR50のTMを初めて下ろした時より、半減した時間で取り外しを完了した。

 そして、原因は即座に判明した。予想通りレリーズベアリングの焼き付きが生じており同ベアリングはバラバラ状態だが、同ベアリングが前後するスリーブ(通称:天狗の鼻)が、固着を防ぐ樹脂コーティング(約2mm厚)されているが、ベアリングの焼き付き過熱で樹脂が溶損し、ベアリングカラーが斜めにレリーズフォークに噛み合ってしまい、レリーズレバーがビクとも動かなくなってしまっていたのだ。なお、TMのインプットシャフトはスムーズに廻るし、心配したインプットシャフトのスプラインとディスクの修動も問題なくスムーズなことを確認した。

 しかし、分解する過程で、幾つか他部位で不具合の予兆を発見した。その一つがドライブシャフトのブーツの破れとグリース漏れだ。最近のFF車のドライブシャフトブーツは、耐久性を増すためにラバーでなくPP樹脂に変わって来ているが、この年代ではラバー製だ。そして、通常だとブーツはアウター側が先に破れるものだが、ミニはインナー側が先に破れる。この訳は、最大ステアリング切れ角が異様に小さいことと、インナー側にトリポート(三つ叉)ジョイントを使用していることにあるのだろう。トリポートジョイントは、等速(CV)ジョントではあるものの、回転時にシャフトの振れを生じてしまうという宿命を持つが、アウター側のバーフィールドを伸縮可能にしたダブルオフセットよりコスト安のため、ケチるメーカーは使うのである。しかし、等長ドライブシャフトとし、トルクステアを回避していることろなど、事実上のBMW初のFF車として評価できるところでもある。

 現車の実走は約12万キロであるが、これが初のクラッチOHだとすれば、良く持った方だと思う。クラッチディスクも相等摩耗しているが、リベットまでの隙間は幾らか残っている、レリーズベアリングさえもう少し耐久性があれば、15万キロは持ったのではなかろうか。しかし前回のR50のクラッチOHも原因はレリーズベアリングの焼き付きだったし、どうやらレリーズベアリングは、数多いミニのウィークポイントに加算されるべき事項だろう。

 最後に、運転者に何度か聞いたことだが、「シフトできずに走行不能になる以前、クラッチ踏んだ時に異音が出ただろう?」ということをだ。これに対する回答は「何ら異音はなく突然シフト操作不能に陥った」というものだが、ベアリングが異音も発せず突然破壊される訳はないのである。こういうのを鈍感という。









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