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EDR装置とそのパラメーターがもたらす懸念や将来性

2022-05-05 | コラム
EDR装置とそのパラメーターがもたらす懸念や将来性
 EDR(Event data recorder)とは、そもそもの車両搭載は既に20年程前のエアバッグ搭載と共に車両メーカーが搭載を始めたものだ。その装置が、今年(2022年)7月の新車販売車より装着が義務付けられることになっており、国交省ではJ-EDRの技術要件として以下のリンクで報知なされている。

国交省イベントデータレコーダー(J-EDR)の技術要件を策定
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/09/090328_.html


J-EDRの技術要件
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/09/090328/01.pdf


 先にも述べた様にEDR装置は既に欧州車では20年以前から装着がはじまり、国産車においても僅かの遅れで追随しており、2022年現時点で国内販売されるエアバッグ装置が装備されている車両には全社EDR装置が装備されていると云うのが既成事実なのだ。

 この装置の目的は、先にもエアバック装備と共に始まったと述べた様に、車両メーカーとしてのPL対策としてのものだった。つまり事故でエアバッグが正常作動しなかったがとか作動はしたが大きな負傷を負ったとかの訴えに対し、例えばこの速度や減速度では作動しませんよとか、エアバッグは必ずSRSと冒頭に付されているが、SRSはSupplemental Restraint Systemの略でシートベルトの補助拘束装置の意味するところで、エアバッグはシートベルトを装着していることが前提となるのだ。もう少し噛み砕くと、シートベルトにより体はシートに固定されるが、頭部は固定されないが、その頭部を比較的小容量のエアバックで受け止めるには、シートベルトで体の位置を固定しておくのが前提となると云うことなのだ。

 EDR装置が記録する各種パラメーターは、ドライブレコーダーと似ており、走行中の各種データを常時記録するが、その記憶容量に限界があるため、エアバックが起爆すると、その5秒間前のデータをフリーズして記録する仕組みなっている。なお、エアバック起爆後のデータについては、必ずしもメーカーで一定していない様だが、何れにしても長くても500msec(0.5秒)というところだろう。

 先に述べた様に、エアバック装置が正常に働くかどうかという視点が重視されているので、エアバッグ装置の装置異常信号の有無、衝突速度と速度変化(⊿V・減速度を表す)、アクセルペダルやブレーキペダルのONかOFF、シートベルトの装着有無(ただし、これはバックルに装着したかで検出しており、尻の下にシートベルトがある場合は判らない)、ステアリング切れ角などが記録される。この内、アクセル開度とかステアリング操舵角などは、当初はブレーキと同様にONかOFF程度しか記録されなかったのだが、バイワイヤ技術とかの発達で、アクセル開度は電気的に0-100%という連続値、ステアリング操舵角も連続値が記録される様になって来ている。

 ここは想像の範囲だが、ブレーキバイワイヤー装備車などは、ベダルストローク値もしくは液圧値とかVSC対応として、各輪の液圧値が記録なされる様になっている車種もあるかも知れない。

 さらに。J-EDR要件では、プリクラッシュ警報の作動ON・OFF、衝突軽減ブレーキ作動ON・OFFも組み入れられている。この辺りのADS関連では、将来的に項目は増加すべきパラメーターは相当あるが、メモリー容量との兼ね合いもありどうなるかは未知のところでもある。

 ただし、拙人は必ずしも満足な英語能力はないが、米NHTSAがこの辺りのイニシアチブを取っているところは伺えるのだが、将来的にレベル5(完全自動運転車)が登場する際は、車両に付けられたすべてのADS関連センサーの事故30分前からのカメラ画像データとかミリ波レーダー値やLiDAR値(これらはデータそのものでなく認識値だろうと思えるが)を記録すべきという提言がある様だ。こうなると、記録は従来の想像だが1Mバイトに満たないような不揮発性RAMではとても保存しきれず、512Gバイトもしくは1Tバイト程度のSSD相当の記憶容量が必要になるかもしれないし、従来だとこれらデータパラメーターのEDR装置への集積はCANバスデータ経由で行っていたと思えるが、すべてをCANバスで通信できるとも思えない。場合によりイーサネットなどの広帯域高速バス通信が必用になるかもしれない。

 それと、現在のEDR装置というのは、エアバッグセントラルECU(内部に減速度を計測するセンサーを持つため、室内センターフロア床面にボルト剛接なされている)内に実装されていたのだが、将来的にエアバック装置と、EDR記録部は別位置別モジュールとして分離なされる余地もあるだろう。

 このEDR装置に近い概念を持つのが、航空機に装備されているブラックボックス(2種あり、各種飛行制御パラメターを連続記録するものとパイロットの音声を記録するものがある)があるが、これの場合は墜落時の極めて強い衝撃、海中への水没、火災による高温などに配慮した設計がなされていると聞くが、車両用場合そこまでの強固かつ信頼性を重視することはないだろうと想像する。

 ここで、本EDRシステムについての懸念を2つ記してみたいと思う。

➀このEDRシステムは特別ボッシュが開発を推進したとか、そのサンプリングパラメーター策定に関与し続けたということはないのだが、そのEDR記録サンプリング分析システムをCDRとか名付けて多数社のEDRシステムに対応できるシステムを構築し、日本だけで既にCDRアナリスト(分析者)を290名近く登録させているという実態がある。拙人考えるに、こういう車両の事故に関わるデータというのは、特定の営利企業の所有物ではなく、それで商売することに不安を感じると云うとオーバーだろうか。こういうデータというのは、もう少し業界多数が参加する財団法人とか協会というべき組織で管理しつつ、問題点があれば車両メーカーに提言して行くべきのが正論だと思えるところだ。なお、CDRアナリストのリストも公開されているが、総員290名中の200名は半分近くが保険会社で、残りが交通事故鑑定人を名乗るものだろうと想像できる。なお、氏名不明の90名程は、おそらく科捜研本体か、各県警の科捜研相当の部門の者だろう。

②交通事故鑑定人「吉川泰輔」氏が懸念するEDRで記録される速度の評価
 下記ブログリンク「交通事故・冤罪事件・・・」で紹介する吉川泰輔氏は、EDRの記録データを科捜研などが重視しつつ利用していることについて、その速度値を単純に車両の速度だとすることについて、強い懸念を持つという。つまり、速度計の表示もそうなのだが、EDRに記録される速度値も結局のところ車輪の回転数によるという意味では変わらない。この場合、車両が正常に直進し何ら制動も行っていなければ、車輪の回転速度と実速度は大きな誤差もなく問題はないのだが、交通事故などにおいては、例えば急回避しようとフルブレーキング下とすれば、ABS付き車であれば車輪はロックしないが、スリップ率20%程度に保つ様に制御なされるが、その時の車輪の単位時間の回転速度と実車速は大きく異なるだろう。また、車体が横すべりを起こして滑走している様な場合、これまた実車速と車輪の回転速度は大きな乖離を起こすであろうという点なのだ。これらは、事故解析担当者が十分なスキルを持って、そのことを認識しつつ、実際の事故状況とか車体の運動がどうであったのかを適切に把握した上でないと、直ちにEDRデータを参照するばかりでは、大きな誤認識もしくは誤解析が生み出されるだろうというのが同氏の問題意識なのだ。

【過去記事】
エアバッグとEDRのこと
2016-07-03 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/87a2c77b69f8478e70bc240313ada8f5

交通事故・冤罪事件事件/事故鑑定が刑事事件を無罪に導く
2022-04-27 | 事故と事件
https://blog.goo.ne.jp/wiseman410/e/dc76024083789b1f4655db9339f61642

#EDR装置 #EDRの記録速度は正しい車速とは限らない


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