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ダブルマスフライホイールのトラブル

2020-06-27 | 車両修理関連
 一般にフライホイールはある程度の重量を持つ単板円盤で、クランクシャフト後端に装着され、MT車ではクラッチの摩擦板としての役目も兼ね備えている。また、その外周にリングギヤという、始動時にのみスターターモーターのピニオンが噛み合い、エンジン始動を行うためのギヤが焼き嵌めされている。

 このフライホイールの役目は、動力を貯蔵しておいて、必用な時に取り出すという機能を持っている。その必用な極面とは、停止からの発進時が主になるだろう。もし、フライホイールがないとか、極端に軽いと、発進からクラッチを接続時に、エンジン回転の低下が著しく、相当に回転を上げてやらないと発進が困難となってしまう。

 一方、加速性能はエンジン馬力と車両重量の2つが主な要素となるが、もう一つ回転系の慣性重量も大きな要素になってくる。すなわち、フライホイールなど、回転系の慣性重量が大きいほど、その回転を上げるために加速抵抗として動力は吸収されてしまい、タイヤの駆動力はその分減ってしまうのだ。従って、レーシングカーでは、フライホイールもだが、クランクシャフトやデフギヤなど、大径の部品ほど、設計寿命を犠牲にしても軽量化を求めている。

 しかし、市販車ではレーシングカーの様に短寿命で、この様な主要部品を取り替えるとなると、経済性がネックになるし、そもそも発進時にやたら回転を上げなければ発進できないなんてことになると、クラッチの寿命も短くなってしまうので、回転系の部品はまずは十分な長寿命を重視し、フライホイールもその車種に応じた発進しやすい重さのバランスを考慮して設計されている。

 なお、トルコンATでは、クランクシャフト後端にはフライホイールと呼ばずに、リングギヤを装着することを主目的としたドライブプレートという薄板が付く。そこには、トルクコンバーターが付き、その内部はATFで満たされるが、この全体重量がフライホイール相当となる。

 さらに補記すると、フライホイールの重量は、一般に車重の重いクルマほど重いものが装着される。だから、乗用車よりトラックの方が、例え同じエンジンでも重いフライホイールを付けているものだ。また、逆に二輪車みたいに車重の軽い車両では、かなり軽いフライホイールが装着されている。

 こんな記述をするのも、チラリと見た自動車評論家だという者の記述に、フライホイールが重いと燃費が悪くなるなんてことが記してあったが、その面での影響はほとんどないだろう。ただ、同じエンジンの一般的なセダンとスポーティカーでは、あえて重量を変えて、ドライブフィールの味付けを変えている場合が結構ある。例えば、BMW・E46とZ4(E85)では、エンジンやサスペンション、ボデープラットフォーム(前後骨格)など結構共通部品が使われているが、まるで異なる味付けがなされている。それは、サスペンションのバネレートとか伴うダンパーの減衰力とか車高の高低もあるが、ステアリングのギヤ比がまるで異なる。エンジンは同じM54径エンジン(2.2、2.5、3.0各L)だが、同じエンジンとは疑うほど空吹かしからしてイナーシャ(慣性)感が異なる。それでも、スペックとしての最大馬力と最大トルクは同値なのだ。

 もの凄く前置きが長くなったが、フライホイールの中にはダブルマスフライホイール(DMF)とかディアルマス・・・、ダンパー付き・・・とかいう名称のものが使われいる車種がある。もちろんフライホイールだから、MT車が前提となるが、最近は機械操作でクラッチを制御するAMT車でもある様だ。これは、フライホイールが1枚ものでなく、2枚に分割されており、その間にスプリング力を働かせる機能を持ったものだ。これはかなり昔から一部に車種に使われていて、私見としては回転振動(クランクシャフトの周速度の変動)が大きいディーゼルエンジンの乗用車が多かったと感じている。この目的だが、単板式の一般的なフライホイールでも、クラッチディスクには、クッションスプリングが使われていたり、AT車の後端のスリーブヨーク部のジョイントはラバーカップリングが使われる主に高級車の部類があるが、何れも理由は同一だろう。ただ、その作用が強いかどうかの差異が、ダブルマス・・・が一番効果的ということではないかというのが私見だ。

 この効果だが、急激なクラッチ接続でのショックの緩和もあるだろうが、それと共に、回転振動を抑えることにより、特定速度による回転系の共振から生じる主にこもり音(低周波音)の低減にあるのではないかというのも、開発設計者に確かめた訳ではないが私見だ。

 このダブルマスフライホイールだが、そこそこ駆動系の基幹部品なので、やたらに壊れると修理費も高額となるので、壊れる事例を見たことはないが、今回初めて見ることになった。クルマは、フィアットパンダの、2気筒エンジンで、TMにAMTの一種となるテュアロジックと名打っているものだ。これまた私見だが、フランス車とイタリア車をそもそも見る機会も少ないが、なかなか個性的なクルマが多く魅力も感じるところだが、どうにも故障が目立つと感じる。それも軽度な電気的な接触不良とかならまだ良いが、とんでもない高額なメカ系がお陀仏になってしまうという事例を見ると幻滅してしまう。この事例も、発進不良からTMを脱着してクラッチ関係のメカ系には異常はないものの、フライホイール部を観察すると、ダブルマスフライホイールの固定側と可動側の心央がずれていることを発見した。この心央にはボールベアリングが使用されているが、どうやらベアリングボールがバラけてセンタリングできない状態になっている様だ。

 ちなみに、フライホイールには、LuKという大きな刻印がありブランド名の様だ。あまり日本では聞かないが、親会社はシェフラーというドイツのベアリングを主体に応用製品を作っているサプライヤーの様で、そのブランドの一つがLukらしい。だいたい、このダブルマスは、ぐるぐる全回転するものではないが、結構な重量のあるマスが行ったり来たりと動く軸受けとしては、ベアリングボールが小さすぎ容量不足と見える。同型車では、類似のトラブルが多いのではと想像している。






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