私の思いと技術的覚え書き

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大径ホイールやロープロフィールタイヤとワンダリング等のこと

2008-06-03 | 車両修理関連
※表題で書き始めたら、下らない長文となってしまいました。タイヤやホイール、そしてサスペンションに興味ある方のみ見て下さればと思います。

 昨今のスポーツタイプ車では、ホイールを18インチとか20インチという大径ホイールとして、しかも35%とか40%といったロープロフィールの幅広タイヤを組み合わせたクルマが増えています。見た目は非常にかっこ良いのですが、色々とデメリットもあります。今回は、その辺りのことを記してみます。  まず、大径ホイールを使用する主目的ですが、これは大容量のブレーキを収納することとなるのでしょう。ブレーキ(当然ディスクタイプ)というのは、クルマの運動エネルギーを摩擦力によって吸収しますが、この際に熱エネルギーに変換させて放熱させます。高速からの急減速や、テクニカルサーキットでの制動の連続する環境では放熱はままならず、ブレーキ自体が持つ熱容量が問題となってきます。この熱容量とは、簡単に云えばディスクプレートの体積で決まるのだと思います。ですから、ディスクプレートはより厚く、より大径である方が有利となるです。一般のクルマのディスクプレートは、ほとんどが鋳鉄製(ねずみ鋳鉄)ですが、レーシングカーや超弩級のスーパーカーでは、より熱容量が大きく、高温時の摩擦特性の良好なカーボン製※のディスクプレートが使用されています。しかし、このカーボンディスクは、低温時に摩擦係数が低いこと、つまりブレーキの効きが悪いという欠点がある様です。現在のF1グランプリマシーンは間違いなくカーボンディスクブレーキですが、オープニングラップでハンドル左右に振りタイヤを暖めると共に、急制動を繰り返してブレーキを暖めているのが判ります。これら理由で、超弩級スーパーカー等に使用されるカーボンディスクブレーキでは、カーボン表面にセラミック層を溶射加工して低温時の摩擦特性を改善している様です。もっとも、このカーボンディスクですが、生産数が少ないこともあるのだと想像されますが結構にコストが高く、1台分(4枚)で数百万程にもなる様です。

 さて、大径ホイールに組まれるロープロフィール幅広タイヤですが、ロープロフィールにすることでサイドウォールの変形が少なくステアリングレスポンスやコーナリングフォースが上がる様に感じられますが、必ずしもそういう訳ではない様です。F1マシーンのタイヤを見れば判りますが、タイヤ幅は非常に広いのですが、扁平率はそれ程のロープロフィールではありません。市販車タイヤで、ロープロフィールにしているのは、タイヤ外径が大きくなり過ぎない様にするのが主目的と想像されます。タイヤ外径が大きくなりますと、ホイールハウスを含めボデー設計の根幹からの設計変更を伴うこととなります。従って、通常サイズのホイール装着車とタイヤ外径をほぼ同じにして、互換性を高めているといったことが理由と想像されるのです。

 ところで、このロープロフィールタイヤでは、タイヤ内部の空気容量が少なく乗り心地が悪化し易いという欠点があります。この改善のため、サイドウォールの剛性を落として乗り心地を改善させています。そんなロープロフィールタイヤのもう一つの欠点として、比較的大きな路面段差を高速で超える様な局面で、ホイールリムを曲げてしまうという事故が起こることがあります。60%扁平程度までのタイヤでは、路面段差の通過でホイールリム部が曲がるということはまずないのですが、35%とか45%とかのロープロフィールタイヤでは、注意が必要なことと感じます。これは、車両保険の事故で時々ある事例なのです。

 最後に、幅広タイヤのことを記してみます。タイヤ幅を広げる目的は、加減速や旋回時の運動性能、つまりグリップを良くするためだということは誰でも直感的に判ることだと思います。しかし、一般の摩擦力の計算式では、摩擦係数(μ)と垂直加重(kgf)で、摩擦力は決まります。ここにはタイヤの幅は出てきません。一般の摩擦係数(μ値)の表を見ても、主に路面の状態毎の値は掲載されていますが、タイヤの種別やその幅に応じたμ値は掲載されていません。以前の記事にも書きましたが、特にスポーツ用途でない一般の市販タイヤの乾燥アスファルト舗装路面における摩擦係数(μ)は、0.7程度であるとされています。一方、スポーツ用途の市販タイヤでは、0.9~1.0まで高まると云われています。そして、レーシングタイヤで(ドライ用スリック)では1.4程度と云われています。この、幅広タイヤでグリップ力が高まる理由ですが、トレッド面(路面に接する面)の面積が広がることにより面内剛性という値が高まることにあるそうです。これにより実効値としてのμ値が高くなると考えれば、理解し易いと思います。

 さて、幅広タイヤは強力なグリップ力で高速度での旋回を可能としますが、良いことばかりではありません。その欠点ですが、前輪に使用した場合ですが、まずステアリング操作力が大きくなることがあります。しかし、現在のクルマではほとんどパワーステアリングが装着されていますから、これは欠点にはならないのでしょう。レーシングカーでさえ、昨今はほとんど電動パワーステアリングが装着されています。次に、ワンダリングを生じやすいという欠点について記してみます。

 ワンダリングとは、ハンドルがフラフラとすることを云います。主にその様な症状が生じ易い局面としては、路面に轍が付いている場合などに多いといえます。アスファルト路面では、高温の夏期期間中に、大型貨物車等の重量が大きなクルマが停止する交差点付近や、交通量の多い幹線で結構に轍が生じています。この様な路面で幅広タイヤほどワンダリングが生じやすいものです。もっとも、同じ幅広タイヤでも、タイヤの断面形状の設計によってワンダリングの生じ易さは異なります。簡単に云ってしまえば、タイヤ断面の角が丸くなく角張っているタイヤほど、ワンダリングは生じやすい様です。それと、サスペンションの各アーム類の長さや角度の設計(ジオメトリーと呼びます)によっても、生じ易さはだいぶ変わると想像されます。これも簡単に云えば、スクラブ半径(キングピン角(S/T転舵角)とタイヤ中心線の路面接点上の距離)が小さいほど、生じ難いのだと想像されます。

 また、幅広タイヤはスポーツ車用タイヤでもありますから、摩擦係数も一般用より高い値に設計されています。これはトレッド表面のゴム材質(コンパウンドと呼ぶ)をより柔らかくして路面の微少な凹凸に追随して粘着する様にしているのだと想像されます。それとレーシングタイヤでは当たり前ですが、タイヤ表面温度を上げて、トレッド表面のゴムを柔らかくして粘着力を向上させて摩擦係数を高めています。市販車高性能スポーツ車用タイヤでも、レーシングタイヤほどではないにしても、類似の特性を持たせたタイヤも出ている様です。これら、高性能タイヤは、摩擦係数が高いのは良いですが、反対に摩耗し易いということで寿命が短いという欠点を持ちます。NSXも相当にタイヤ寿命は短かった様ですし、新型GT-R(R35)も、相当短い(2万キロ持たない?)のではと想像されます。GT-Rのタイヤは、パンクしても走れるラン・フラットタイヤ仕様でもありますが、たぶん4本交換で50万程度を要するのでしょう。

※カーボンディスクのカーボン材ですが、通常のCFRPはカーボン繊維をエポキシ樹脂で固めたコンポジット材ですが、これと異なりカーボン繊維だけを超高温で焼き固めたレンガの様な素材となります。通常C/C材とか表記します。ディスクだけでなく、超高温に耐えることから、スペースシャトルのノーズコーンとか主翼前縁に使用されたりしていました。シャトルは大気圏突入で最大速マッハ22にもなり、空気との摩擦熱でプラズマ状の炎に包まれ降下します。機体下面のすべてもC/C材よりレベルは下の断熱タイルで覆われますが、打ち上げ時の液体燃料タンクの着氷が衝突し、タイルの欠落が生じたことが、その終焉となりました。

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