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プレス加工のこと

2011-06-17 | 技術系情報
 プレス加工とは、相対した金型(ダイと呼ばれる)に素材を挟む込み、強い力で押し付けることにより、素材を塑性変形させることにより製品を成形する工法のことです。材料素材としては、主に金属が利用され、連続した大量生産が可能な工法として、大型電器製品から、ビールや飲料缶、そしてクルマのボデーなどまで、多数の工業製品に製造に利用されています。ここでは、クルマのモノコックボデーのことに限定し、知る範囲のことを記してみます。

 プレス加工の加工方法を分類すると、抜き加工、曲げ加工、絞り加工、成形加工などに分類される様ですが、クルマのボデーには、これらプレス加工の要素のすべてを含むと云ってよいと思われます。

 例えばボデー外板を例にとれば、各ドアやボンネットなど、平面的で曲げ加工の要素の大きな部品と、フェンダー部のように、絞り加工の要素が大きい部品があります。特に、絞り加工の要素が大きな部位においては、加工中の圧縮力が働く部位にはシワの発生がしやすく、素材の選択やダイ(金型)の成型での配慮など、苦労も多いものと想像されます。何れにして、乗用車のボデー外板など美観重視の製品は、僅かなシワも品質劣化として商品力を落としてしまいますので許されません。

 なお、ボデーの内板および骨格部位は、外板より一段厚みのある鋼板が使用されることが多いのですが、美観上の要求は外板程に高くはありません。実際、フロアパネルなどを観察してみると、シワなどが生じている場合も見掛けることも多々経験されることです。

 ところで、一般的なスチールモノコックボデーのほとんどには、0.7~1.6mm程度までの冷間圧延鋼板(JIS:SPC)が使用されます。なお、ドアヒンジなど、極一部の部品には、熱間圧延鋼板の3mm以上(JIS:SPH)が使用されます。

 このスチール製ボデーのほとんどを占めている冷間圧延鋼板ですが、JIS規格では以下の様な区分けがなされています。
 SPCC 一般用
 SPCD 絞り用
 SPCE 深絞り用

 ですから、先に述べた様に、製品の形状から要求される特性に見合った、素材特性として、ドアなどはSPCCを、フェンダー部などはSPCDをなどと使い分けているのです。

 また、近年はご承知の通り、高張力鋼板の使用部位は年々範囲を広げています。この高張力鋼板ですが、外板用と内板骨格部用では、素材の特性は大幅に異なっています。外板用は、高張力とはゆえ加工のし易さを重視したもので、熱硬化型塗料による塗装乾燥時の過熱による効果により張り剛性を負荷する、ベークハード鋼板と呼ばれるものです。一方、内板骨格部位は、引っ張り図様さを重視し、衝突時の比強度を上げたり、必用強度を維持しつつ鋼板板厚の薄肉化による軽量化を意図した採用がなされているのです。

 ところで、フロントフェンダーの先端部の形状ですが、最近のクルマでは異形ヘッドランプの採用が一般化しましたから、余り深い絞りの要素は薄れて来たのだと感じます。しかし、昔のクルマでは、丸形とか角形の規格化されたヘッドランプしかなく、フロントフェンダー先端部が袋状にく回り込んでいたり、初代や二代目フェアレディZ(S30&S130)とかフェラーリディノ(246GT)などの様に、複雑な形状のものがあったりしたものでした。これらの場合、多くは別部品(樹脂やアルミダイキャスト)により、プレス成形の困難さを補っていたものです。なお、往年の伊スーパーカーなどは、スチールでもアルミででも、別部品として製作し、溶接して継ぎ合わせていたものでした。

 最後に、プレス加工の要ともいえるダイ(金型)のことに触れてみます。このダイは鋼を主成分とする素材ですが、大量生産による多数回の打撃に耐え摩耗を少なくするため、それなりの硬度が求められます。それを削って、十分な品質の製品を生み出せるような寸法と表面精度が必用となりますがら、昔は手作業主体のハンドツール程度の作業であったことから、大変な手間と時間(コスト)を要していた様です。しかし、今や技術の進歩により、今やクレイモデルから三次元計測機で寸法を計測し、そのデータをコンピュータ処理しNC工作機械に連動させることで、製作が行われているそうです。

余話
 最近は余り聞かなくなりましたが、十数年くらい前まででしょうか、一部の車種(タクシー採用車など)用として、社外品のフロントフェンダーとかが一部に存在しました。確かめた訳ではないですが、これは使い尽くされ摩耗したダイを使用して、社外(国外)で作られた部品と聞いております。当然ダイの摩耗する箇所は、強いエッジ部とかプレスライン部ですから、それらエッジが甘くなり、チリやラインが合わないなどと余り良い評判は聞かなかったものです。



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