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小室哲哉 初公判 (2)

2009-01-21 | -日々の生活-
《融資を前に、小室被告との面会を求めた被害者。供述調書は、小室被告との顔合わせに至る経緯を明らかにしていく》

 検察官「木村被告は『小室もあなたと会いたいと言っています。一度、東京で小室と会う時間をつくってくれませんか』と言ってきました。これを聞いて私は『小室は本気だ』と思いました。先ほども申しましたが、私は金貸しではなく投資家。小室被告の800曲を買い取るというのは確かに魅力的な話でした。10億円で買い取ったとしても、印税収入などで20%もの利回りがあり、十分ペイできると思いました」

 検察官「また小室サウンドは世間に広く認知され、ネームバリューや相応の価値があるのは事実です。また著作権というものについても、貸与権や譲渡権など、さまざまな種類があることも知りました。例えば、中国語に翻訳して巨大な中国のマーケットに売り出したり、90年代に青春時代を送った人たち向けにベスト盤も選定できる。800曲を所有する音楽出版社を立ち上げることも考えられる。大手広告代理店が17億~18億円の査定をしているのだから、10億円でも十分だと思いました」

 検察官「平成18年7月ごろ、普段私が相談している投資顧問会社の方に意見を聞いたところ、『利回りだけでもかなり面白い。前妻の差し押さえをただちに外すのが肝心だ』とのことでした。僕が出せる金額はせいぜい10億円ぐらい。『小室さんの意思を確認したい』と話すと、木村被告は『小室に一筆書かせてお送りします』と言ってきました。その後、ファクスが来て、木村被告は『小室本人が書いたものに間違いありません』と。そして平成18年7月30日、東京・芝公園のホテルで小室さんと会いました」

 《被害者の供述調書の1通目の朗読が終了。続いて2通目の朗読が始められた。小室被告はこの間、終始まっすぐ前を見据えて検察官の言葉を聞いていた》

 検察官「ホテルの1111号室で、小室さんとトライバルキックスの社長、木村被告と会いました。この部屋はスイートルームで、ベッドなどは撤去されて1部屋は会議室、もう1部屋には応接セットが置かれていました。小室さんは『音楽プロデューサーの小室です。今日はDVD撮影を抜け出してきたので30分しか時間がとれませんが、よろしくお願いします』とあいさつしました。テレビで見ていた著名人に他ならなかった。腰が低くて偉ぶる様子もなく、服装もカジュアルだったが、ピュアな魂の中から大スターのオーラが出ていて、『こういう人には本音の話をしなければ』と思いました」

 検察官「小室さんは『あなたのことは社長や木村から聞いています』と話しました。私は、このホテルも、確か小室さんが披露宴を挙げたホテルもプリンスホテルの系列だったことから、『小室さんは西武グループと関係が?』と聞きました。小室さんは『ええ、僕は(西武鉄道グループの総帥だった)堤義明さんやそのご長男と懇意にしていて、大規模なプロジェクトを進めておりまして。この部屋も、堤さんが無料で提供してくれたんですよ』と言いました。ほかにも、(世界的なメディア王の)ルパード・マードックとも交流があると話していました」

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《被害者の供述調書は、小室被告と“差し”で著作権の譲渡の交渉が進められた場面に移った。この間、同席していたトライバルキックスの社長と木村被告は、主に聞き役に回っていたという》

 検察官「小室さんが『資金繰りが苦しく、作曲に集中できない。まとまった融資をしていただけないかと思いました』と話したので、『私は金貸しではないので、融資には応じられません。ただ、著作権の売買には興味があります』と伝えました。すると小室さんは『806曲の著作権はすべて僕にありますから、10億円で買っていただきたい』と要望してきました。私が『小室さんにとって魂じゃないですか』と言ったら、小室さんは『確かに魂です。先輩からも反対されています』と話す一方で、『(前妻による著作権の)差し押さえを早く解除し、前妻とのごたごたした関係を一刻も早くなくしたい』『僕もクリエーター。過去の作品に未練はありません』と言いました」

 《検察官を見据えたまま、じっと聞き入る小室被告。硬い表情を崩さず、時折まばたきをするのがかろうじて確認できる。この後、被害者と小室被告との会話は前妻との関係に移る》

 検察官「私は妊娠中に浮気された小室被告の前妻の思いを察し、『私なら、うんとは言いません。1日でも長く差し押さえして、嫌がらせしてやろうと思います』と話しました。すると小室被告は『前妻とは5億円をキャッシュで払い、差し押さえを解除してもらうことで話はついています』と答えました。さらに『806曲の著作権は僕にあります。僕は音楽出版社からインディペンデントしていて、僕の手元に残してあります』『806曲フルセットであることに価値があるんですよ』と続けたのです。著作権を譲り受けられるよう前妻の差し押さえを外すということだったので、私は『分かりました。私のほうですべて買い取りましょう』と応じました」

 《著作権の譲渡をめぐる交渉はこれで終了。その後は交渉に要した4倍ほどの時間の間、雑談が交わされたという。被害者がそのときの心境を語っている》

 検察官「小室被告は『30分しか時間が取れない』と言っていたのに、雑談に何倍もの時間をつくってくれたことに感謝しました。最後に確認しておきたいことを聞かれたので、『(差し押さえのない)きれいな形で著作権を譲渡していただけるのですね』と念を押しました。すると、『僕も世間で名の売れた男。逃げも隠れもしません』という答えでした」

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《続いて検察官は、平成18年8月7日の被害者と小室被告との2回目の面会の経緯について記された、被害者の供述調書の読み上げに移った。静まりかえった法廷で、朗読は淡々と続けられていく》

 検察官「小室被告と初めて会った後の7月末か8月上旬だったと思いますが、木村被告から電話をもらいました。『10億円のうち先に1億5000万円を払ってくれませんか。前妻による著作権の差し押さえを外すための頭金ということで、確実に前妻に支払いますから』という内容でした」

 《小室被告は、みけんにしわを寄せた険しい表情のまま》

 検察官「その電話の話を私は信じ、『一部を振り込むようにします』とお返事しました。私はこの件について最後まで木村被告に仲介役を務めてほしいと思いましたので『木村被告の会社の口座にお金を振り込みたい』と言いました。木村被告からは『うちの会社の口座に1億5000万円もの振り込みがあれば税務署から疑われるので、チラシの発注があったことにして、その売買代金ということにしてもらえませんか』と提案があり、その方法で振り込むことになりました。チラシの発注というのはもちろん経理上の口実で、実際は著作権譲渡の売買代金の一部です」

 《1億5000万円という大金の振り込みを、電話1本で依頼してきた木村被告。具体的な振り込み方法についての被害者の言葉を、検察官は淡々と読み進めていく》

 検察官「その後、8月2日に木村被告からメールが届き、そこに振込先の口座番号が書かれていました。私は翌日の8月3日午前、妻名義の口座から8000万円、私の会社名義の口座から6000万円を会社の別の口座に振り替え、もともとその口座にあった残額と合わせた1億5000万円を、木村被告から指定のあった口座に振り込み送金する手続きをしました。手続きは午後3時直前だったので、銀行の説明では『送金は明日になります』ということでした」

 検察官「しかし、翌日、私は送金される前に送金手続きを停止しました。というのは、私はこれまで、お金を支払う前には必ず書面上で仮契約などを交わすことにしていましたが、この1億5000万円については書面上の合意を交わしていなかったからです。その後、木村被告に電話して『1億5000万円はいったん送金手続きをしたが、停止しました。やはり小室さんとの間で話を書面にした上でお金を振り込むことにしたい』と伝えました」

 《1億5000万円の振り込みが不調に終わり、小室被告と被害者は8月7日に再び会うことになる。場所は、7月30日の最初の面会の際と同じホテルの部屋だった》

 検察官「再会したとき、小室さんからケース入りのCDを渡されました。小室さんは『前回お会いして、あなたが誠実な方だと分かりました。信頼できるあなたのために曲を作ってきました。世界で1曲です。この中に入っています』『(小室被告が作曲し、浜田雅功さんが歌った)“WOW・WAR・TONIGHT”のさびの部分が好きだとおっしゃってたので、その部分を入れています。曲名は“ディペンデント”で依存というような意味ですが、今回、僕の806曲を買い取っていただくことになりましたので、こうした名前にしました』と言いました」

 《小室被告が言葉巧みに被害者を信用させていく場面を読み上げる検察官。小室被告は沈痛な表情で検察官をじっと見つめるだけだった》

 検察官「私が小室さんからCDを受け取るのを横で見ていた木村被告は『世界の小室があなたのために作ってくれたんですよ。すごいじゃないですか』と言いました。小室被告も『僕はあなたみたいな大切な方に曲をお作りしたんですよ』と言ってくれて、私は正直、非常に感動しました」

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《被害者の供述調書の朗読はさらに続く。“世界のコムロ”から曲をプレゼントされ、感動した被害者は著作権譲渡の話を進めることを決意する。小室被告は座り続けて肩が凝ったのか、たまに首を左右にひねるほかは、じっと前を見つめたまま。小室被告の右隣に座る弁護人は書証をめくりながら検察官の朗読を確認し、左隣の弁護人は机に置いた紙にメモをとる。弁護人席に並んだ3人の様子は三者三様だ》

 検察官「私はその後、著作権が譲渡できることに間違いないかどうかなどを再度、確認しました。すると小室被告は『問題ありません。806曲すべて譲渡できます。ただ、前妻の差し押さえを外すために5億円が必要なんです。もう前妻とは話が付いているんです』と言いました」

 《金策に必死な様子がうかがえる小室被告。被害者は、音楽家が著作権を手放すことの重大性を指摘し、懸念を示す。すると小室被告は…》

 検察官「私が『本当に806曲を売っていいんですか?』と尋ねると、小室被告は『10億円で買ってもらえるのがうれしいんです。今の10億円は僕にとって100億円の価値があるんです』と答えました」

 《続けて小室被告は、自らの楽曲がいかに価値あるものかを被害者に力説する》

 検察官「小室被告は『今後は曲のネット配信が主流になります。そうなると印税も2~3倍になります。僕はすでに新曲もたくさんあるし、今の806曲と合わせるとすぐに1000曲になります。ソニーは、僕の曲には30億円の価値があると言ってるんですから』と言いました」

 《小室被告から買った著作権をもとに、音楽ビジネスを展開しようと考えた被害者に対し、小室被告は『知り合いがたくさんいますから』と後押しすることも約束。小室被告は『ありがとう』と礼を述べると、別れ際には固い握手を交わしたという》

 検察官「続いて甲4号証は…」

 《引き続き4通目の被害者の供述調書が読み上げられる》

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《検察官が読み上げを始めた4通目の被害者の供述調書では、被害者が小室被告のために資金を移動させて木村被告の口座に振り込んだ経緯や、その後、木村被告から合意書面の案がメール送信されてきたことなどが証言されていた》

 検察官「平成18年8月7日、木村被告から私にメールが送られてきました。平成18年8月6日までにジャスラックの管理となった806曲の音楽著作権を譲渡することや、この著作権の活用の際には小室被告が最大限の助言を行うことなどが記されていた。806曲の著作権そのものが売買の対象となっており、印税を受け取る権利に限定されるものではないということが改めて分かりました。そして8月下旬ごろ、小室被告の印鑑が押された合意書の原本が送られてきました。木村被告からのメールとまったく変わりのない内容だったので、私も署名なつ印しました」

 《小室被告は正面を向いたまま。まばたきする以外は一切動かない》

 検察官「その後、8月下旬ごろ、木村被告から私あてに契約書案のメールが届きました。この中の『本件著作権における契約上の地位』という、これまでに出てきていない表現が引っ掛かりました。著作権が、私に二重に譲渡されるものではないかと思ったからです。そこで私は8月下旬、木村被告に対し電話で『“本件著作権における契約上の地位”という言葉の意味が分からないのですが』と尋ねました」

 《契約内容に疑念を示した被害者。しかし、その疑念は木村被告の巧みな言葉に、あっさりとごまかされる》

 検察官「木村被告は『ああ、単なる契約上のひな型か何かの表現でしょう。取り交わした合意書の通りですから。私が保証します』と答えました。私は小室被告ともこうした話を交わしていたので納得し、その後、8月29日ごろ、木村被告の会社の口座に3億5000万円を送金しました。『振り込みました』と木村被告に電話すると、木村被告は『小室にそっくりそのまま渡します。そして小室は(著作権の差し押さえを解除するために)前妻へ渡します。何か問題があったら言ってください』と答えました」

 《検察官の朗読にじっと耳を傾けていた小室被告の視線が、一瞬だけ宙を泳ぐ。合わせて5億円もの大金を振り込むことになった被害者の調書には、次の言葉が続けられていた》

 検察官「3億5000万円を振り込む前、私は、大ヒットやミリオンセラーを飛ばした小室被告から、ドル箱ともいえる著作権を譲り受けることができると信じていました」

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《著作権の譲渡を受けられるものと信じて、5億円を振り込んだ被害者。供述調書の内容は、その期待がもろくも裏切られた経過に移った》

 検察官「私は5億円を支払えば、小室被告と前妻との間で著作権の差し押さえが解除されると信じていました。関連会社の借金返済に充てられると知っていたら支払いませんでした。私は5億円を支払った後、カナダ旅行に出かけ、帰国したときには差し押さえが解除されていると思っていました。しかし、帰国しても事態は進展しておらず、小室被告は『もうすぐ終わりますから、もう少し待ってくれ』と繰り返すだけでした。そして平成18年9月、木村被告から『全額すでに小室の資金繰りにあててしまいました』と聞かされ、がく然としました」

 《真相を聞かされた被害者は当然ながら、5億円の返還を求める。ここで小室被告が返還に応じていれば、逮捕に至ることはなかったのだが…》

 検察官「私は再三にわたって返還を求めましたが、小室被告は『前妻と連絡が取れない』などと時間を引き延ばすような発言で、代理人の弁護士を次々と変えて交渉窓口を変えてきました。トライバルキックスの社長は『木村が悪い、木村が使い込んだ』、木村被告は『小室から取り返してくれ』と言います。私はだまされたことが分かったので、これではらちがあかないと思い、小室被告に『詐欺罪で告訴する』と伝え、小室被告の関連会社や妻のKEIKOさんの実家にも電話しました」

 《結局、このトラブルは法廷にもちこまれることになる》

 検察官「小室被告は私に対して債務不存在の確認と慰謝料1億円を求めた民事裁判を起こし、私も直ちに反訴しました。訴訟は20年7月に小室被告が5億円と慰謝料1億円の計6億円を支払うことで和解が成立しましたが、その後、3回にわたって計900万円が支払われただけでした」

 《4通にわたった被害者の供述調書の読み上げは、これで終了した》

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 《被害者の供述調書に続き、平成14年3月に離婚した小室被告の前妻の供述調書が読み上げられた》

 検察官「小室被告と結婚し、長女を出産した平成13年5月ごろから、小室被告は急に外泊することが多くなりました。そのことを私が追及すると『浮気している。相手とは別れることができない関係にある』と言われました。私はそのショックで鬱状態となり、長女とともに実家に戻って離婚を決意しました。その後、弁護士を通じた離婚協議に入り、長女の親権と養育費について協議することになりました」

 《前妻との離婚の経緯が読み上げられても、ほとんど表情を変えない小室被告。だが、長女の話が出ると、わが子への自責の念からか、伏し目がちになった》

 検察官「離婚に際し、小室被告は平成14年3月から15年3月までの間に3回にわけて合計3億7780万円の慰謝料を支払うとともに、長女が成人になるまで、毎月200万~390万円の養育費を支払うことになりました。協議離婚が成立したのは平成14年3月です。しかし、その後15年からは慰謝料と毎月の養育費の支払いが滞るようになりました。どう対処していいのか分からずに弁護士に相談し、平成17年に著作権使用料分配金請求債権の差し押さえを求める訴訟を東京地裁に起こしました。このため、ジャスラックを介して使用料分配金から養育費をもらうことになりました」

 《前妻の供述調書からも、小室被告が徐々に経済的に追いつめられていく状況が明らかになっていく》

 検察官「平成18年春ごろに、養育費を一括で払いたいと小室被告が申し出ているとの連絡が弁護士から入りました。しかし、その後一切連絡は入らず、養育費を一括で支払うという話は進みませんでした。こうした小室被告に、慰謝料の残金も滞っているのに、著作権の差し押さえの解除に同意することはありえません。しかし平成20年4月以降には、小室被告が税金を滞納したために、音楽著作権使用料分配金が差し押さえされたことを弁護士から告げられました」

 《小室被告に対する前妻の怒りと不信感は頂点に達する。調書につづられたその言葉に、容赦はなかった》

 検察官「平成20年4月以降、慰謝料は支払われていません。平成13年12月以降、小室被告には会っていないどころか、電話もメールもありません。長女にも、一切連絡はありません。だから、差し押さえを解除することについても話す機会はありませんでした。差し押さえを解除するという、小室被告を助ける信頼関係があるはずもありません」

 《前妻の供述調書の読み上げは正午ごろに終了。裁判長は午後1時10分まで休廷すると告げた》
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