第四部 Generalist in 古都編

Generalist大学教員.湘南、城東、マヒドン、出雲、Harvard、Michiganを経て現在古都で奮闘中

誤診学のススメ Diagnostic Error in Medicine 1st Euro に参加してきました。

2016-07-04 20:52:21 | 総合診療
皆様こんにちわ。
現在、学会参加の為にRotterdamにきております。
人生めぐりめぐって、時代は回るとの事で、
まさにシカゴで前回悔し涙を飲み、鼻水を垂らしながら地団駄を踏んだ4年前の雪辱を晴らしに闘いを挑んできました。
 
なんの学会かと言うとDiagnostic Error in Medicineという診断エラーを研究する内容です。
皆様にはあまり馴染みがないでしょう。
 
ですが、実は総合診療医である自分にとっては臨床教育と今後自らの専門として日本の為に頑張ろうと思っている分野の一つでもあります。
 
Mahidolに本コースで在籍している時には筆記や実技テストなどで忙しすぎて全くその余裕が無かったのですが、研修医だったころから参加しております。
 
今回は初のEuro開催(Erasmus MC Hospital)ということでオランダにきております。
いやはや、オランダのこの大学病院の大きさたるや、見たこと無いレベルでした。
 
前回シカゴでの辛い思いをした45分に及ぶMain case conference discussionへの採択連絡が1ヶ月前に届き、会場全体から吊るしあげられるのでは無いかという不安とプレッシャーは中々(きっとこういうものを5回くらいすると何とも思わない程度になるのでしょうね)。
 
 
誤診学と紐解けば、(以前医学書院のJIMに寄稿して掲載してもらっています(下記ごらん下さい。)
 
日本では全く言われていない馴染みが薄い言葉です。
そもそもそういうものを学問として確立するアイデアさえ本邦にはあまり存在していません。英文誌がほとんどですね。
しかし実は、様々な報告や文献が2006年頃から着目されてきており、医療経済学的に10%−25%程度の医療費の損失に匹敵し、尚死亡数の5−10%に及ぶ、また解剖時に診断が異なった事は9%に及ぶなどの報告と見解があったりします。
 
皆様はどう思われるでしょうか?
つまり、高齢化が進み、医療費が増え続け、喫緊の社会問題になってきている昨今、私は今後Key academic fieldになるであろう学問として考えております。そして10年後に自分のようなたった一人の個人の医師が日本という国に対して貢献できる方法になるのでは!?そういうことを考えていたりします。
 
診断のために、いろいろな検査や技術を研究するのは医師はとにもかくにも【大】好きですが、実は医療現場でかなり多くの事に関わっているとされるDiagnostic errorの原因を研究し、減らすことで結果的には前者のようにお金がかかる学問よりも有効な可能性を感じている次第です。
 
もし良かったら、以前私が医学書院様のJIMに寄稿させて頂いた【誤診学のススメ】からの編集前の一部抜粋をお読みください。
 
〜抜粋〜
現在米国は訴訟社会の中、検査偏重、画像偏重の流れはより加速しており、医療費の抑制はままならない状態である。またDiagnostic errorは全医療費の約30%を占めている可能性も示唆されており、そのような中でDiagnostic errorの認知と評価,そして期待が2000年以降徐々に進んできている5,6)。Shojaniaらの報告によると米国における入院時に死亡した剖検例の24%にDiagnostic errorが見られ、予後や転機に直接つながったと考えられるErrorは9%に及んでいたとされた7)。またWinterらの報告でも同様に、ICU患者での剖検5863例でのメタアナリシスの結果、29%にDiagnostic errorを認め、死因に直結するDiagnostic errorは8%に及んでいたとされている。これは全米の入院患者でDiagnostic errorにより年間4‐8万人程度の死亡者が出ている事になると推定され、入院時死亡例の20人に1人は防ぎ得た死である可能性が示唆されるとまで言われるようになってきている8)。これだけ臨床現場においても、医療経済的にも重要な位置を占めながら、Diagnostic errorの実際の把握、検討、それらを減少させる為の大きな潮流はまだまだ不十分である
本邦において誤診と紐解けば、有名な逸話に冲中重雄東大名誉教授の誤診率がある。教授在任中の誤診率が14.2%であると発表した際にベテラン医はその低さに感嘆し、一般市民はその高さに驚愕した内容だ。しかしながら以降、自らの誤診率を公言したり、病院や行政を巻き込んだ大規模研究や評価を耳にした記憶がない。概して、これまでの日本の医療、医学教育の中にもErrorを無くす為の教育は皆無に等しかったと感じている。誰もが自分の不名誉な部分には顔を向けたく無い、また臨床家として病を追求することは極自然な事である。しかし、孫子の兵法書にある「敵を知り、己をしれば百戦危うからず。」の言葉通り、そろそろ敵(病)だけでなく、己(Diagnostic error)についても知る努力をすべき時なのでは無いだろうか。
 
5)Iglehart JK. Health insurers and medical-imaging policy-a work in progress. N Engl J Med. 2009 Mar 5; 360(10):1030-7.
6)Kostopoulou, et al. Diagnostic difficulty and error in primary care – A systematic review. Family Practice.2008. 400-413.
7)Shojania KG, et al. Change in rates of autopsy-detected diagnostic errors over time: a systematic review. JAMA. 2003 Jun 4;289(21):2849-56.
8)Winters B, et al. Diagnostic errors in the intensive care unit: a systematic review of autopsy studies. BMJ Qual Saf. 2012 Nov;21(11):894-902.
 
〜抜粋〜