和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

おやじは、しろっとして言う。

2021-02-14 | 本棚並べ
小林信彦著「植木等と藤山寛美」(新潮社・1992年)が
帯つき、きれいで、古本で300円だったと思います。

読まないけれども、なにげに、買ってあった。
気になって、植木等の箇所をパラリとひらく。
こんな箇所があります。

「・・ちなみに、『等』という名は『平等』からきている。

植木等にきいた話で忘れられないのは、
ステテコいっちょうの父君が少年だった彼を
仏様の前につれてゆき、物差しで仏様の頭を叩きながら、

『こら、ヒトシ、この音をきいてみろ。
金ピカだけど、中は木だ。金じゃないぞ。
おまえ、寺を継ぐとしても、こんなものを拝んで、
どうにかなると思ったら、大間違いだ。
これだけは覚えておけ』

と諭した話だ。この話は今でこそ知られているが、
初めてきかされた時には、ひっくりかえった。」(p29)

その前にこうもありました。

「植木等の父親がユニークな反骨の士であったことは有名だが、
ここでは触れない。興味のある読者は植木等自身が書いた
『夢を食いつづけた男』(朝日文庫)を読むべきだ。」
(p28~29)

とあるのでした。はい。本棚にその文庫はありました。
うん。『夢を食いつづけた男』の、この箇所を引用。

「昭和34年、フジテレビが開局して・・・・
私は、クレイジー・キャッツの一員として、
日曜から土曜までの昼、この番組に出ていた。

そうこうしているうちに、36年、突然、
『スーダラ節』という歌を歌えといわれた。
私は断り続けた。しかし、とうとうねじ伏せられて、
その年の夏、半袖シャツ、ステテコ、腹巻き、ゴム草履
といういでたちで録音した。

この歌の反響は大きかった。・・・・・
東宝が・・私のところに出演依頼に来た。
なにしろ主役というのだから、私はもう、天にも昇る心持ちだ。

『おい、おやじ。えらいことになったよ。俺、
  «日本無責任時代»って映画で主役を演ることになった』

ところが、おやじは渋い顔で言ったものだ。
『そんな映画、誰が見るものか』
しかし、おやじの予言に反して歌も映画もヒットした。
こうなると、おやじは、しろっとして言ったものである。

『だいいち、«日本無責任時代»というタイトルが面白いからなあ。
それに«スーダラ節»の文句は真理を突いているぞ。・・・・
あの歌詞には、親鸞の教えに通じるものがある』

『へえー、どこが親鸞に通じているんだい』
そう聞くと、おやじは言った。

『わかっちゃいるけど、やめられない。
ここのところが人間の弱さを言い当てている。
親鸞の生き方を見てみろ。

葷酒(くんしゅ)山門に入るを許さずとか、
肉食妻帯を許さずとか、そういうことをいろいろな人が
言ったけれど、親鸞は自分の生き方を貫いた。

おそらく親鸞は、そんな生き方を選ぶたびに、
わかっちゃいるけどやめられない、と思ったことだろう。
・・・・・』 」(朝日文庫・p222~223)

ちなみに、植木等著「夢を食いつづけた男」(朝日文庫)
の副題は『おやじ徹誠一代記』となっており、父親は、
植木等よりも、もっともっと植木等なのでした。

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5 コメント

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Unknown (kaminaribiko2、)
2021-02-14 11:06:00
今日の記事はまた一段と面白かったです。
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親鸞聖人の解釈が面白いです (しゃちくん)
2021-02-14 11:11:18
酒池肉林を隠れて堪能する高層を批判しつつ破門されてからは妻を迎え「南無阿弥陀仏」とさえ唱えれば貧しい者も罪人でさえ救われると庶民にまで仏教を広めた功績はすばらしいですよね。
返信する
日曜から土曜まで。 (和田浦海岸)
2021-02-14 11:46:09
カミナリビコ2さん。
しゃちくんさん。

お二人からコメントいただきました。
ありがとうございます。

引用してると、読んで気づかないことに
気づかされます。
「日曜から土曜まで」とあって、
植木等さんは要するに休みなしで
働いていたのだと気づかされる。

う~ん。増谷文雄氏の道元を
読もうとしていたのですが、
脱線してしまうと、それが面白い
となると、もどるのが億劫になります。

お二人のブログ拝見させていただいて
おります。この頃、水曜日のブログは
休んでいるのですが、「日曜から土曜まで」
というのが気になりました。
返信する
スーダラ節 (きさら)
2021-02-14 22:19:11
クレージーキャッツも
植木さんも 大好きでした。
スーダラ節も 歌ってました。
当時まだ 子供だったので(笑)
お父様も 楽しいお坊様だったのね~
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夢を食いつづけた。 (和田浦海岸)
2021-02-15 10:55:10
きさらさん。
コメントありがとうございます。

植木等さんの顔は、
よく見ると、二枚目なんですね。
つい、印象で見てしまいます。

植木さんが、お父さんを表現するのに
「夢を食いつづけた男」とするのでした。
もう、この題名だけで満腹なのですが。
はい。また、あらためて読んでみます。
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