和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

足軽の、ひる強盗。

2020-07-16 | 京都
講談社学術文庫の内藤湖南著「日本文化史研究」(上・下)を
本棚からとりだしてくる。下巻に「応仁の乱について」がある。
ちなみに文庫解説は桑原武夫です。解説のはじまりを引用。

「内藤湖南の名著『日本文化史研究』が読みやすい表記に改められた
普及版として読書界におくられることを心からよろこぶ。
ここに収められたのはすべて講演筆記で、
アカデミックなしかつめらしい構えはないが、
むしろここにこそ内藤学の骨格が最もはっきり
あわられているといえる代表作である。・・・・」

さてっと、講演筆記の「応仁の乱について」は
大正10年8月史学地理学同攻会講演となっております。
そのはじまりの頁に、こうありました。

「・・応仁の乱というものは、日本の歴史にとってよほど大切な
時代であるということだけは間違いのないことであります。

しかもそれは単に
京都におる人がもっとも関係があるというだけでなく、すなわち
京都の町を焼かれ、寺々神社を焼かれたというばかりではありませぬ。
それらはむしろ応仁の乱の関係としてはきわめて小さな事件であります。
応仁の乱の日本の歴史にもっとも大きな関係のあることは
もっとほかにあるのであります。・・・」

はい。このように講演ははじまってゆきます。
いろいろと重要なことがさりげなく語られてゆくのですが、
ここには、『足軽』をピックアップしてみます。

「私はまず応仁の乱というものについて、
若い時分に本を読み、今でも記憶している事について述べます。
 ・・・・・・・
私が始めて読んだときからいつも忘れずにおったことは
『足軽という者長く停止せらるべき事』という一カ条であります。
足軽すなわち武士以下にあるところの歩卒が乱暴するという
ことについて非常に憤慨しているのであります。
 ・・・・・・この応仁の乱のため
この足軽という階級が目立つようになったのです。

 昔より天下の乱るることは侍れど、
 足軽といふことは旧記などにもしるさざる名目也 
  ・・・・・・
 このたびはじめて出来たる足がるは、超過したる悪党なり、
 其故に洛中洛外の諸社、諸寺、五山十刹、公家、門跡の滅亡は
 かれらが所行也。かたきのたて籠たらん所におきては力なし。
 さもなき所々を打やぶり、或は火をかけて財宝を見さぐる事は、
 ひとへにひる強盗といふべし、かかるためしは先代未聞のこと也。

とこう書いてあります。一体応仁の乱に実際京都で戦争があったのは
わずか三、四年の間であります。十年間も続いた乱であると申しましても、
京都に戦争のあったのは三、四年間でありますが、その三、四年間ばかり
の間に洛中洛外の公卿門跡がことごとく焼き払われたのであります。
しかもそれがことごとく足軽の所行でありましたので、そのことが
『樵談治要』に出ているのであります。そして敵の立て籠った所は
仕方がないにしても、そうでもない所を打ち壊しまたは火を掛けて
焼き払い、あるいは財宝を掠め歩くということは偏にひる強盗と
いうべしといっております。そしてこれを取締らないというと政治が
出来んということをいっていますが、これはすなわち貴族階級の人
から見たもっとも痛切な感じであったに違いないのであります。」

 あとに、また引用があります。

「  是はしかしながら武芸のすたるる所に、かかる事は出来れり。
  名ある侍の戦ふべき所を、かれらにぬききせたるゆへなるべし。
  されば随分の人の足軽の一矢に命をおとして、当座の恥辱
  のみならず、末代までの瑕瑾を残せるたぶひもありとぞ聞えし。

ということが書いてあります。その当時の武士というものには
優れたるものがなく、ただ足軽が数が多いか腕っ節が強いか
ということによってむやみに跋扈し、そうして勢いに任せて
乱妨狼藉(らんぼうろうぜき)をしていたのであります。
つまり武士がだんだん修養がなくなって人材が乏しくなり、
そうしていちばん階級の下な修養のない腕っ節の強い者が
勢いを得るようになって来たのであります。それは
一条禅閤兼良なども当時そういう風に感じていたのであります。」

はい。こういう切り口で応仁の乱を掘り下げてゆく講演なのでした。
講演なので読みやすく、一読ハッとしたのですが、重要さに気づかず、
いつか読もうと本棚に眠っておりました。


コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 時代との、つきあい方。 | トップ | 「人間素描」 »
最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (kaminaribiko2)
2020-07-17 01:31:45
こんばんは

足軽の狼藉は最近のアメリカの黒人のぼう
Unknown (kaminaribiko2)
2020-07-17 01:33:13
暴動を彷彿させますね。

すみません。途中で勝手に送信されたので、追伸させていただきました。
内藤湖南とシナ学。 (和田浦海岸)
2020-07-17 10:17:58
kaminaribiko2さん
コメントを頂きありがとうございます。

アメリカの暴動が思い浮かばれたようですが、
どうも、テレビを見てると中国がボヤケてる。
じつは、内藤湖南はシナ学の大家でした。
うん。今度のブログに内藤湖南をとりあげてみます。

コメントを投稿

京都」カテゴリの最新記事