和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

水先案内人。

2010-08-28 | 古典
黒岩比佐子著「『食道楽』の人 村井弦斎」(岩波書店)を読むと、読みたい本がわかってきます。ということで、

 黒岩比佐子著「『食道楽』の人 村井弦斎」第1刷が2004年。
 岩波文庫の村井弦斎著「食道楽」が2005年。
 岩波文庫の村井弦斎著「酒道楽」が2006年。
「柳田泉の文学遺産 第2巻」(右文書院)が2009年。
この柳田泉氏の文については、p147に、柳田泉氏の遺稿である
「村井弦斎『日の出島』について」を取り上げており、そこで「文学史は大体において文壇史」ということと、村井弦斎との対比に焦点をあてて、鮮やかな柳田泉氏の文の紹介となっておりました。

村井弦斎著「近江聖人」については、
少年時代の愛読書として、様々な作家・著名人の証言をとりあげており、一度は読みたくなるのでした。それがp95~97.

そして、村井弦斎著「HANA」への言及が、p208~続きます。
また、日露戦争の最中に英語版で出版された「HANA]で印象的な箇所はというと、

「・・・彼は『HANA』の中でそうした人種の優劣にはいっさい触れていない。西洋と東洋の違いは文化や生活習慣の違いであり、感情の表し方の違いだと弦斎は示唆している。これが、西洋と日本の『食』の違いの話へと展開していくのが、『HANA』の面白さだろう。なるほど、「食べる」という好意自体は国や人種が違っても変わらない。人間はみな例外なく、生きるために「食べる」からだ。・・・洋食には西洋人の知恵があり、和食には日本人の知恵が生きている。牛肉を食べない期間が長かったからといって、日本人が西洋人に対して卑屈になることはない。また、当時の日本人は中国人を軽蔑して見る傾向があったが、弦斎は中国料理の優れた点もきちんと認めているのである。美味しいものを食べれば、それがどの国の料理であろうと、誰もが幸せを感じる。戦争の話と共に、食べ物や料理の話が登場するという点で、『HANA』はそれまでにないユニークな小説だと思われたのではないか。西洋人にとっては、それまで曖昧なイメージしかなかった日本人が、具体的な「食」というものを通じて、少し身近に感じられたかもしれない。」(P239)


つもって、はびこっているような日本の文壇史・文学史に、まるでトンネルを貫通させてバイパスでも開通したような、そんな爽快感の一冊、それが「『食道楽』の人 村井弦斎」なのでした。新しく始まる文学の系譜。そこへの水先案内人として、黒岩比佐子を得たよろこび。ということで、おくればせながら、この夏の読書の収穫でした。
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