きさらさんから、コメントをいただき、あらためて
初回の新プロジェクトXを、取上げたくなりました。
新番組は東京スカイツリーから始まっていました。
思い浮かんだのは、幸田露伴著『五重塔』でした。
そういえばと『幸田露伴の世界』(思文閣出版・2009年)をひらくと、
すっかり忘れてたのですが、佐伯順子さんがとりあげておられました。
「 『五重塔』という『プロジェクトX』ー前進座『五重塔』と・・ 」
というのが題名です。
はい。今回はこの佐伯さんの文を紹介したくなりました。
ここで、はじまりに佐伯さんは目的を掲げておりました。
「 今回の考察の目的は、主に三つあります。
一つめは、明治文学の昭和・平成期における受容、
二つ目は、小説と舞台の比較、
三つ目は、文学と社会との相関関係です。 」(p124)
うん。端折っていきます。
はじめには今までの舞台公演の回数が一覧できるようになっていました。
つぎに、
「露伴の原作『五重塔』のプロットの特徴は・・・この物語は
現代風にいえば、建築コンペの話という見方もできるかも 」(p127)
肝心な箇所はここかなあ。と思えるのを少し長く引用。
「・・・建築家の名前は残るけれど、
現場で力仕事に携わる土木マンの固有名詞は普通残らない。
・・・そもそも、名を残したいという意識が希薄です。
けれど、その≪ 無名 ≫の現場の人々にスポットをあて、
固有名詞として物語化してメディアにのせたのが『 プロジェクトX 』であり、
それと共鳴する舞台『 五重塔 』は、いわば無名の土木マンの
集合名詞のような形で十兵衛(露伴の五重塔の主人公)という
キャラクターを突出させたといえないでしょうか。
『 社史や資料を見ても、事業の規模や開発のプロセスはわかっても、
個人がどの場面に取り組んだとか、まして、
≪ どのような思いを抱いて取り組んだ ≫
といった記録はほとんど残されてい 』ないので、
『 著名人が登場しない地味な番組 』でも、
『 一般人が歩いた軌跡を追う 』ことを意図したという
『 プロジェクトX 』は、
高度成長期を支えた多くの≪ 十兵衛たち ≫に光をあてたのです。
この舞台が『全国の建築関係者』に
共感されるのも自然ななりゆきかと思われます。 」(p152~153)
はい。ひきつづき引用をしておきます。
「 一時期、教科書にも採用されていた露伴の『五重塔』は、
明治の文明開化期以降の日本の近代化、さらには、
戦後の日本社会の成長の原動力となったメンタリティを体現しており、
それゆえに、名作として評価され、舞台化でも好評を博して
現在にいたっています。
私自身、日本文学の講師として勤めた最初の職場で、
一回生向けの基礎ゼミで『五重塔』を講読し、
その流れるような文体の妙に魅せられました。
また、私利私欲をのり越えて同じ仕事をまっとうしようとする源太や、
職人肌の十兵衛の人物造型も巧みで、名作であるには違いないと思います。
特に暴風雨の場面は、講読すると圧倒的なリズム感でとても感動的です。
『プロジェクトX』の、田口トモロオさんのナレーションや
中島みゆきのテーマ音楽が人気になりましたが、形式は違えど、
耳に訴える感動話という意味では、現代の講談ともいえます。
特に前進座の舞台は、原作中の登場人物の格差や
ジェンダー・ステレオタイプを視聴覚的な形で
より印象づけ、感動的なアーキタイプに近づけて、
『 五重塔 』の名作としての普及に貢献したといえます。
アーキタイプの造型は舞台という芸術形式自体の傾向でもありますが、
幅広い層に≪ 名作 ≫として支持されるに欠かせない条件ともいえます。
・・・・・・・・・ 」 ( ~p153)