和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

高浜虚子著「俳句はかく解しかく味う」。

2006-10-29 | 詩歌
高浜虚子著「俳句はかく解しかく味う」(岩波文庫)の感想を書いてみます。
というか、レビュージャパンの総合BBSで「雨について」のコメントを楽しんで書き込んでいたからか。この本を読んで「五月雨」の箇所が印象に残ったのです。
思い浮べたのは、山折哲雄さんの言葉でした。
「私は、日本人の感情を理解するうえで梅雨の季節がもっとも大切だと考えています」
これは齋藤孝・山折哲雄著「『哀しみ』を語りつぐ日本人」(PHP)という対談本の中での言葉なのでした。

では、本文に引用されている五月雨の俳句を順番に引用してみます。

 笠島やいづこ五月のぬかり道   芭蕉

この句を、高浜虚子はこう語ります。
「この句は『奥の細道』中に在る句で、次のような文章がある。『奥州名取の郡(こおり)に入りて中将実方の塚はいづくにやと尋ね侍(はべ)れば、道より一里半ばかり左の方笠島といふ処にありと教ふ。降り続きたる五月雨(さみだれ)いとわりなく打過ぐるに。』即ちこの文章にある通り、旅行のついでに芭蕉はこのあわれなる歌人のあとを弔おうと思ったけれども、何分五月雨が降りしきって不本意ながらも行けなかったのである。・・・」
そして
「芭蕉の句が五月雨の句であったのを縁にして、元禄以来の五月雨の句を少し評釈して見よう」とつづきます。では、あとは句のみを虚子の引用順にならべてみます。

  五月雨をあつめて早し最上川   芭蕉

  五月雨の雲吹きおとせ大井川   芭蕉

  五月雨に家ふり捨ててなめくじり  凡兆

  髪剃(かみそり)や一夜に錆(さび)て五月雨(さつきあめ) 凡兆

  馬士(うまかた)の謂(いい)次第なりさつき雨  史邦(ふみくに)

  縫物や著(き)もせでよごす五月雨  羽紅(うこう)

  五月雨や夜半(よわ)に貝吹くまさり水  太祗(たいぎ)

  つれづれと据(すえ)風呂焚くや五月雨  太祗

  塩魚も庭の雫(しずく)や五月雨     太祗

  五月雨や大河を前に家二軒        蕪村

  湖へ富士をもどすや五月雨        蕪村

  五月雨や仏の花を捨てに出る       蕪村

  五月雨や滄海(あおうみ)を衝く濁水   蕪村

  五月雨や水に銭ふむ渡し舟        蕪村

  五月雨の猶も降るべき小雨かな      几董(きとう)

  五月雨や船路に近き遊女町        几董

  五月雨の合羽(かっぱ)つつぱる刀かな   子規

  椎の舎(や)の主(あるじ)病みたり五月雨 子規

  病人に鯛の見舞や五月雨          子規

この句は虚子の評釈を引用してみましょう
「これは前の句と違って、同じ病人を叙するにも陰鬱に一方を言わず、その陰気な中へ或処から病人へ見舞と言って美くしい鯛を見舞に届けたというのである。その鯛のために一点の打晴れた陽気な心持を呼び起すところがこの句の生命である。」

  五月雨や晴るると思ふ朝の内       格堂

  川越しの小兵(こびょう)に負はれ五月雨 紅緑(こうろく)

  五月雨の漏るや厠(かわや)に行く処   寒楼

ここで、虚子は断っております。
「・・要するにここに挙げた近代の句は芭蕉や蕪村やの大景の句に相当するほどの価値のあるものはないと言ってよい。・・・手当り次第に取り出したので、代表的の句とするには足りないのである。それに反して芭蕉、蕪村等の句は代表的の句である。・・」

こんな風にして俳句を並べながらひとつづつに評釈をしていきます。
この文庫の解説は大岡信。
ちなみに「近代日本の百冊を選ぶ」講談社(1994年)に
虚子の本が二冊選ばれておりました。
高浜虚子編「新歳時記」と高浜虚子著「五百句」と、
どちらも大岡信が本の解説をしておりました。
私は山村修著「狐が選んだ入門書」に、選ばれていたので、それをきっかけにして、この本を読んでみました。この本の紹介の言葉の最後を山村さんはこうしめておりました。
「虚子はおそらく天性の啓蒙者でした。・・俳句を知る人には、きっと初歩の初歩というべきことでしょう。しかし虚子はそんなこともまったく面倒がらず、むしろみずからたのしんでーーーという風情で私たちに説きながら、そこからされに右のように一歩進んで、俳句の醍醐味をしめしてくれます。」

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