和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

いわばむだです。

2023-05-21 | 本棚並べ
「須田剋太『街道をゆく』とその周辺」(1990年)。
主催は、大阪府・大阪府文化振興財団・朝日新聞社。
はい。これも展覧会のカタログです。
大阪展・名古屋展・高松展・東京展と各地で展覧会をした際のカタログ。
ここに、司馬遼太郎さんが寄稿されております。
題して「 20年を共にして――須田剋太画伯のことども―― 」。
「私は、須田さんの永眠を、モンゴル高原の首都のホテルの一室でききました。」
というのが最初の一行です。
「街道をゆく」の原画にふれた箇所が印象深い。

「 装画はどうしましょう、という話のとき、・・
  担当だった橋本申一さんに、どなたか候補のお名前をあげてください、
  というと、須田剋太さんはどうでしょう、といわれたのです。
  ああいいですね、と即座にきめました。  」


「 『原画は、こんなに大きいんです』
  と最初の絵ができあがって早々、橋本申一さんがやってきて、
  閉口した表情で言いました。

  だいいち凸版として使う絵は、印刷されたときの面積とほぼ
  同じ大きさで描くとうまくゆきます。伸縮の度合いがすくないからです。

  また黒の濃淡で描くと、凸版効果がうまくゆきます。
  というより、黒の濃淡ときまったものなのです。

  ところが、須田さんの原画は、色で描かれているのです。
  色は印刷には出ないのですから、色彩をつかうのは、いわばむだです。

  しかしながら愚直なほどに自己に忠実なこの人は、
  自分を納得させるために色面で構成したのです。

  くりかえしますが、印刷ではモノクロームでしか出ないのです。
  写真でいえば、カラーフィルムで撮って白黒で焼くようなものでした。

  このやり方が、17年間、千数百点、すこしも変わりませんでした。
  おどろくべきことでした。

  『街道をゆく』の須田さんの絵は、そのようにして、
  須田絵画のなかでもとくべつなものでした。

  えのぐは、フランスでいうグワッシュ(gouache)
  というものがつかわれています。
  水とアラビアゴムと蜜などを加えた濃厚で不透明な水彩絵具です。

  最初から最後までそうでした。
  用紙は固く、ご自分でつくられたのかどうか、
  ふつうのケント紙を三枚ほどあわせたくらいの厚紙です。

  凸版でのできばえはまことにいい感じでした。・・・
  一点ごと惚れぼれしましたし毎号雑誌をみるのが楽しみでした。

  須田さんは旅をしているうちに、
  『 しばさん、これ、やめないでおきましょう 』
  と言いはじめたのです。
  これとは、『街道をゆく』のことです。・・・・      」


はい。須田画伯の装画をみながら、この文を読めるのは、
また、格別なものがありました。



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