vagabond の 徒然なるままに in ネリヤカナヤ

エメラルドグリーンの海,溢れる太陽の光,緑の森に包まれた奄美大島から,乾いた心を瘉す写真をお届けします。

異文化交流の成果の再認識~国芳 暁斎 なんでもこいッ展だィ!を見て

2005-01-22 23:15:43 | 美術
まことにふざけたタイトルの展覧会である。が,内容は,ステーションギャラリーで開催されたものとしては,10数年前のバルテュス展に匹敵するのではないかと思えるほど充実した展覧会であった。今回も23日の閉幕を間近にした駆け込みでの鑑賞。

この展覧会では,各分野ごとに,歌川国芳と河鍋暁斎(きょさい)の作品を対比する形で展示されている。
暁斎では,「新富座妖怪引幕」(酒を飲みながら4時間で描き上げたというもの。上の写真参照),「地獄太夫と一休」(サンゴ,「壽」の文字等のお目出度い要素で彩られた地獄絵という,まことにアンビバレントな模様の着物を羽織った地獄太夫の脇で,骸骨がロックンローラーっぽいスタイルで三味線を弾いており,その上で一休が乱舞している!)等,繊細かつ大胆で,しかも少しだけグロテスクな要素もあるという暁斎も魅力満点。

が,今回感心したのは,国芳の日本画の常識を遙かに超越した構図の大胆さとその色遣いである。
まず,最も有名な「宮本武蔵と巨鯨」(上の写真参照)。巨鯨のデフォルメされた形状,画面をはみ出すばかりの鯨の巨大さと余裕の笑みさえ魅せる口元,上下で対照的な波のスパン,そして武蔵の突き刺そうとする剣の角度。圧倒的な構成力を感じる。生命力が溢れ出ている。
そして,「鬼若丸と大緋鯉」で見られる,大緋鯉の尋常ならざる表情と,その動きに併せて弧を描いてうねる水の流れ。何を描きたいかという「つかみ」の凄みを感じる。
さらに,私が今回の展覧会で最も圧倒されたのは,「相州江之嶋の図」と「近江の国の勇婦お兼」。
「相州…」は,湘南江の島を描いたものであるが,今では情緒がありながらも少しふやけた感じを抱かせる江の島とは似ても似つかない。異常に盛り上がった奇怪な形状と毒々しい隈取り,そして,江の島の大きさと比べてとても小さく描かれた人影。国芳は,江の島の姿と存在に心底圧倒されきったのであろうか。この作品同様,「東都かすみが関の図」も,すさまじいデフォルメがされていて,とてつもないローアングルから描かれ,大空の無限の広さを感じさせる作品。
「近江の…」はさらに凄い。お兼が暴れる馬の綱を下駄で踏みつけて取り押さえるというモティーフ自体がぶっ飛んだ作品だが,この大空の果てしなく青い色,そして馬の克明な描写。絵の上手さでは足下にも及ばないが,私はそこにダリの荒ぶる精神と色遣いとを感じた。

国芳は,『苦心して集めた西洋画や絵入新聞などを大切にしていて,訪れる人に見せ,自慢かたがた,自分はこれに倣おうとするがとても及ばないと嘆息したという』(辻惟雄「奇想の系譜」(ちくま学芸文庫)より)。これら並外れた作品は,幕末の不穏な情勢を背景に,国芳の特異なキャラクターと,苦心して集め吸収した異文化のエッセンスとが有機的に合成して出来上がったものだと思う。日本画の中でも,歴史の流れのダイナミズムさえ感じさせる希有な作品群である,と思う。
国芳は,反体制的なハングリーさと諧謔趣味も持ち合せており,多数の風刺画等を残しており,これらも本展覧会で楽しめる。

以下,HPより。
勇壮な武者絵をきっかけに,幕末の浮世絵界で大活躍した浮世絵師,歌川国芳(1797-1861)。国芳は初代歌川豊国(1769-1825)門下にありましたが,北斎に私淑し,勝川派,琳派などに学び(『浮世絵師歌川列伝』中公文庫より),これを糧として自らの作風を確立していきました。武者絵はもちろん,風刺画,美人画,歴史画,風景画と幅広い分野で精力的に活躍し,役者絵や風刺画など,浮世絵に対する幕府からの規制が激しくなるなか,機知に富んだ作品を発表し,庶民の喝采を浴びました。国芳は一門を築きあげ,そこからは芳幾・芳年などの優秀な弟子が育ち,その系脈は水野年方(としかた),鏑木(かぶらき)清方(きよかた),伊東深水(しんすい)と,昭和期まで続きました。
一方,狩野派の号をもち,正統な画歴をもつ河鍋暁斎(1831-1889)は,国芳門に6歳で弟子入りした経験があります(のちに暁斎は『暁斎画談』で楽しげな国芳門の様子を紹介しています)。9歳からは狩野派門に学び,19歳で狩野派の号を得て,その仕事で名をあげました。しかしこれにとどまることなく多彩な分野で活躍したのは,国芳門での経験があったのではと推測されます。暁斎は,内外を問わず絵を研究し,画鬼と称され,活発に制作,その名は明治期前半において,富裕層から庶民まで,抜群の知名度を誇りました。また,日本国内だけでなく海外にも知られ,例えば弟子のなかには近代日本建築界において,強い影響を及ぼしたジョサイア・コンドル(1852-1920)もいました。
本展は両絵師の作品を,1.役者似顔絵,2. 武者絵・風景画,3. 戯画・風刺画・動物画4.画稿類,5. 美人画とテーマといったに分けて比較検討するものです。
それぞれの絵師の特徴を生かし,浮世絵版画を縦3枚につなげる珍しい国芳の版画や,暁斎の横17mに及ぶ妖怪引幕,猫好きで有名な国芳の猫を描く版画や,暁斎の百円という当時の破格の高値で買い手がついた,あの鴉の肉筆画など,盛りだくさんの贅沢な内容になっています。