6月の最終土曜日、横須賀のtranesheppさんを訪問してきました。ご一緒は、旧philewebのお仲間のニッキーさん、中年組の高倉健さんです。philewebコミュティは解散しましたが、皆さんそれぞれにSNS等を通じて、オーディオ交流を続けられています。今回は、ニッキーさんからお誘いをいただきました。交流の輪が広がることは大歓迎です。もっとも、この世界が狭いことも実感もします。tranesheppさんは、神奈川オーディオクラブの交流会に参加されことがあるようです。またLotus Rootsさん、ベルウッドさん、いたちょうさんも既にtranesheppさん宅を訪問済でした。
さて横須賀に行くのはいつ以来でしょう?灯台下暗しで、同じ神奈川県内ながら、なかなか訪れる機会がありません。コロナ禍の三浦アルプス登山で、横須賀海軍施設を見下ろしたのが3年前です。実際に横須賀の地を踏んだのは、神津島の天上山に登るために、久里浜からジェット船に乗って以来となります。となると8年ぶりです。時間経過の早さを実感します。最寄りの馬堀海岸駅で集合し、本場のインドカレーで昼食としました。大きなナンに驚きましたが、ほうれん草のルーが美味しく、むしろ、足りないくらいでした。
お宅についてから、まず1Fのリビングルームに通していただきました。tranesheppさんのメインシステムは2Fにあるのですが、少なくとも4つのシステムが1Fにありました。ビンテージSPを現代機器で鳴らすのは共通しているようです。あと目についたのは木製のラックです。機器とラックを一体化させ、一心同体化することで振動を抑えるような話でした。ラックはD.I.Y.です。1Fで耳慣らし兼ねて、いくつかのシステムを聴かせていただきましたが、相対的に音に柔らかさを感じた、タンノイのシステムが好みでした。
続いて2Fのメインシステムへ。天井は3m以上あり、戸建ての2階のシステムとしては、かなり広い部類に入ると思います。そして、本日の目玉であるエレクトロボイスのパトリシアン600です。これまでタンノイ、JBLのビンテージSPを聴く機会は何度もありましたが、エレクトロボイスは初めてかも知れません。1950年代の名機で、ウーハーの口径は46cm、4つのホーンが高域を担っています。元来、モノラル用で、コーナー置きだったようですが、低域のかぶりを嫌い、敢えて壁から離しています。
メインシステムでは、アナログを聴くのが基本とのことでした。EMTとガラードのプレイヤーを使い分けされていますが、この日はEMTメインで聴かせていただきました。実際、音を比べるとEMTの方が音に芯があるように感じられました。カートリッジの差も含んだ話だと思われます。EMTのプレイヤーも振動対策されているようでした。デジタルは、1F同様、ソウルノートのCDプレイヤーを使われています。この点では、ご同席のニッキーさんも同じですね。システム中、唯一の現代機でしょうか。
アンプ群です。プリアンプはマランツ#7です。ビンテージのアンプの中では、比較的目にすることが多い機種です。パワーアンプは知り合いのエンジニアの方に作っていただいた真空管のモノラルアンプを使われていました。出力管の入手に関する、ご苦労も伺いました。
実は2階の部屋にはもう1システムあります。本日6つ目のシステムです。SPがマッキントッシュXRT-18 、プリメインアンプとCDプレイヤーがJBLという珍しい組み合わせです。敢えて普通とは逆を行かれたことです。マッキントッシュの背の高いSPと言えば、横浜のMさんを思い出します。tranesheppさんは横浜のMさんとも交流があるそうです。昨年のレコードを聴く会の後の感想戦でtranesheppさんの話題が出ていたことを、思い出しました。
tranesheppさんはジャズがメイン、特にフリージャズを好まれるそうですが、この日フリージャズはさほどかからず、王道的なアルバムをかけていただきました。決して高価な盤ではありませんが、大変、鮮度感あふれるソニー・ロリンズ、アート・ペッパーを堪能しました。tranesheppさんはクラシックも聴かれます。ベートーヴェンの第9番には、様々な楽器が含まれている上、声も入っているので、リファレンスとして使っているそうです。フリッチャイ指揮のベルリンフィル、バリトンがフィッシャー=ディースカウの有名な演奏です。
まず全てのシステムに共通しているのは、比較的大きめの箱型SPを平行配置している点です。いわゆるSPを消すような音場形成では無いのですが、音楽が開放的に部屋に満ちるのが、素晴らしいですね。使われている機器から想像されるより、ずっと現代的な音の印象を持ちました。46cmのウーハーを聴く機会は滅多にありません。膨らむことなくよく制動されていたと思います。若干お酒も入っておりましたが、ソニー・ロリンズやアート・ペッパーの実在感に、圧倒される感じがありました。
途中、開いているコンセントを塞いだり、解放したりする実験がありました。それだけで音が曇ったり、晴れやかになったりする実演でした。このような細かい点の調整を積み重ねてきた上で、現在の音が成立しているのだと思います。ラックと機器の一体化、機器の5点支持など、独自の工夫されていますが、全て耳で取捨を判断という点で一貫しています。理系でしょうかと、伺ったところ文系しかも対極的な学部とことでした。対策に走らずに本質を攻める姿勢は、趣味のみならず仕事で培われたものかな、と想像しました。
「音は、最後は出来高」という明確なメッセージもありました。そう言い切れるほど、私は経験が足りてませんが、確かにそうだなと納得して、オフ終了となりました。近所の町中華で、奥様も交えて軽い二次会となりました。やっぱり中華にはビールが良く合います。歓談の後、散会となりました。このような機会をいただいたtranesheppさんご夫妻、紹介いただいたニッキーさん、ご同席いただいた中年組の高倉健さん、に感謝いたします。梅雨の晴れ間の、楽しい横須賀の午後となりました。