ドラクエ9☆天使ツアーズ

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Heroic Woman

2015年07月08日 | ツアーズ SS

(なんだか疲れた…)

シオはつい今しがたの父とのやりとりを反芻しながら、上の村に戻る。

自分は確かに、母の強さを追いかけ、それに追いつきたいと思い、ひたすら武を極めてきた。

母の名に恥じぬように、村の中でも、外でも、一切の妥協を自分に許すことなく高みを目指した。

その自分をミオが追いかけてきているというなら、なぜ、どうして、こんな状況になるのだろう?

と、その光景を目の当たりにして、シオは苦いものをかみ殺した。

 

「あ、シオ姉!今、チョー面白いことやってんだわ!」

 

見ればわかる。

面白いかどうかは別として、と、シオは村の闘技場で馬鹿騒ぎを繰り広げている有様を見て、その中心にいるらしき人物に苛立つ。

紛うことなき末妹と、弱腰おべっか上手の下僕である。

またあいつが口先三寸、周囲を丸め込んでくだらない騒ぎを起こしているのかと思えば。

それに口出しできない脆弱な妹の不甲斐なさを目の当たりにさせられているようで、イライラする。どっちが下僕なんだか!という所か。

闘技場では、4対4で入れ代わり立ち代わり、対戦が行われている。

それが、普段とはまるで違う光景であるのは、まるで対戦ごっこのようだということ。

いったい何をやっているのか、とそれを見守っていれば、延々とレベルの低い戦いが繰り広げられている。

「ねえねえ、シオ姉もやらない?」

と声をかけてきたトーリに、何をやっているのか尋ねれば、トールも駆け寄ってくる。

「すごいよ、賢者って!ダーマのさとり、とかいうのが使えるんだってさ!」

なんだその聞きなれない呪文は。そんな思いは言わずとも心得たように、トーリが続ける。

「転職の呪文なんだって。みそ子が使えるのよ。だから、今あたし、魔法使いなの」

あたしは僧侶、とトールが笑う。

「全員、レベル1の職業になって、その場でやっつけのパーティ組んで対戦してるのよ」

ミオの呪文だけで転職ができるという。なんだそれは、出張ダーマ神殿か。そんなことができるなんて…。

と、にわかには信じがたいが。

なるほど事の次第を見ていれば、誰もが未経験の職業に転職し、村の派閥の垣根も越えて、直感でパーティを組んでいる。

名乗りを上げたら、ヒロが対戦表を作って戦闘開始。勝っても負けても、再び対戦したいなら、またレベル1の職業に転職。

「何それ、つまんなそう!って思ったんだけど」

やってみたら意外と面白くて、皆いつの間にか転職を繰り返しているのだ、と説明を受けているうちに。

「はーい、終了~、終了でーす!」

と、ヒロが闘技場の向こうで声を張り上げているのが聞こえた。

「あーん、あたしまだリベンジしてないのに」

「よっし、抗議に行こう!」

と、双子も、周りの人間も、ヒロとミオのいる場所へ集まっていく。

人の波が好き勝手動く中、その場を離れ自宅に戻ろうと足を運ぶシオにも、様々な声がかかる。

「シオさんの妹、面白い冒険者になったよね」

「変な男引き連れてきちゃってさ、ま私たちにはいい退屈しのぎになってるけどね」

なんて声をかけてくるのも、冷やかし半分、おちょくり半分、決してシオを愉快な気分にさせるものではない。

面白い冒険者じゃなく、強い冒険者として戻ってくるのが筋じゃないのか。

従えるにしたって、「変な男」とか言われるのでなく、なんかこう、もっとこう、…絶対あんな下僕なんかじゃないことは確かだ。

というシオの不満をよそに、妹たちと変な男は、ついさっき戻った家の中で今日の成果を話題にしている。

それぞれにテーブルについて、ミオがお茶を淹れて回って。

何なのあんたたち。夕べは、下僕は納戸で寝ろ、寝室があると思うなとか言ってたんじゃないの。

何仲良く一つのテーブル囲んで、和気あいあいとしちゃってるのよ。

…シオにしてみれば、半日下の村に姿を消していただけで、「どうしてこうなった」である。

この男は油断ならない。口が軽い。そして場の雰囲気を作るのが天才的だ。

昨日から思っていたことだが、外の人間には反発心しかない村の女性が一斉にこの男の口車に乗せられたのだ。

それは初日の、ただ自分たちに取り入るための苦肉の策かと思い、それなりに見逃していたことではあったが。

今日の、村を巻き込んでのお祭り騒ぎには、何の狙いがあっての事か、と警戒心すら覚える。

普段、双子である自分たち以外には心を許さないトールとトーリが懐いているのも解せないが、

それ以上に普段からかかわりのあるミオに至っては、都合のいいように洗脳でもされているのかと不安になる。

実はこいつがパーティの黒幕なのでは…、と目を光らせているシオには構わず、話は盛り上がっている。

「いーじゃん、明日またやろうよ!ミオの魔力回復したら、また転職し放題なんでしょ?」

よほど未経験の職での対戦が面白かったらしい。

トールが乗り気になっていることで、村の誰もが興奮しているのは想像にたやすい。

「うーん、でももう、みんな一通り職を経験しちゃったんだよなー」

と、何かをたくらむ黒幕野郎、と目を付けられているのを知る由もないヒロが、手元の紙を広げる。

名簿と、転職の履歴、パーティメンバーの記録と、対戦表。

それらをミオと二人で管理して、この対戦を主催していたらしいことは解った。だが。

「別にそれくらい、どうでもいいでしょ?今日の続き、っていうだけじゃないの」

そういうトーリに、シオは今日の対戦を外から観戦していて思うことを、胸のうちにつぶやく。

それじゃ、だめだ。今日のはただのお遊びだから。だから純粋に楽しめただけで。

このやり方じゃ続けても…、そう考えたのと、ヒロが言葉を発したのとが同時だった。

「このやり方じゃ続けるだけで、すぐに飽きられてしまうよ」

その言葉に、トールとトーリがきょとんとヒロを見る。それを受けて、ヒロがミオと顔を見合わせた。

「今日の対戦が盛り上がったのは、全員が初めて、ってところが肝だったんだけど」

「はい、そうですね」

隣同士に座るヒロとミオ、トールとトーリが向かい合う。

「どういうこと?初めてだから、皆、手探りだったわけじゃん?」

「もう大体わかったんだから、次から戦略練ったり構成が決まったりして、より面白くなるんじゃないの」

「うん、それは中身の話で。中身が成熟していくなら、外側はそれよりももっと精巧に頑強に作り上げないとだめだって事」

そう言ったヒロが、テーブルの上に両手で輪を作って見せる。名簿をぐるりと囲むように。

「外側っていうのは、つまり主催のことね。中身は、姉さんたち。姉さんたちは対人戦をよくわかってるから」

次からこうすればうまく行くだとか、この敵にはこんな戦法が相性がいいだとか、構成の弱点だとか、

きっともう解ってきているだろう、とヒロは言う。

「そうなってくると、それは単に職が低レベルだってだけで、普段姉さんたちがやってることと変わらないよ」

「そうかしら?」

「職が違うと、やることは全然違うんだけど」

トールとトーリはまだ解らないようだが、ヒロはよく解っている、とシオは思った。

この村の習性、戦うことに頭脳と肉体の全てを捧げてきたからこそ、小手先のだましは一度しか効かない。

未経験の職、という制限があったからこそ、未知の体験として脳も体も最高の興奮状態になったのだろうけれど。

それは、所詮、お遊びの範疇でしかない。

「姉さんたちは勝つことにすべてを賭けてるから、職が違うことくらい大した制限にはならないでしょ」

だから、これを続けるなら、外側を強化していかなくてはならない、とヒロが続ける。

レベルの制限でもいいし、対戦者の制限でもいい。武器を制限してもいいし、とにかく戦い辛い!という方向にして、

中身である人間がさらに成長する仕組みを作ってこそ、この遊びは、競技として成り立つ。

「と、俺は思ったんだけど」

と、ヒロがミオの意見を聞くように、そちらを見れば、ミオもそれにただ頷く。

それを見ているだけで、やはり、とシオは不安を拭い去れない。ミオはただヒロの言いなりになっているだけじゃないか。

それを、下の村に身を引いたあの二人の言葉を借りれば、「自分を殺して、一歩引いた立ち位置にいる」ということ。

二人の言葉には確かに心ひかれたが、しかしシオの目にはそれほど理想的な関係には見えない。

「うーん?そうかなあ…、制限されて面白いかなあ…」

「レベル10の戦士が、レベル1の魔法使い倒しても面白くならないっしょ?」

「え?それは面白いじゃん」

「え?面白いんだ?!」

「弱者は徹底的に叩きのめす!二度と這い上がれないくらいに!」

「…ははぁ…そうですか…」

そういう村ですか、とやりあっているこっちも、あまり建設的な話はできていそうもないが。

ヒロが頭を抱えたのを見て、ミオがトールを見た。

「お姉さんが、レベル1の魔法使いです」

「は?」

「わ、私がレベル10の戦士です」

「なんだと、この野郎」

「私がお姉さんを徹底的に叩きのめしますけど、…面白いですか?」

「面白いわけないだろ!」

そんな状況になったら、後で絶対ぼっこぼこにする!というトールに、あの、例え話ですから…、と気弱な面を見せて。

「あ、あの、それで、武器使用は禁止、っていう制限を付けます」

「んん?」

レベル10の戦士と、レベル1の魔法使いが、丸腰で対戦。

「どっちが勝つか、それはもうレベルとか関係なくて、純粋な強さだと思うんです」

「でも魔法使い、防御すんごいザルじゃん?素手で殴っても倒せると思うけど」

というトールに、でも、と黙って聞いていたトーリが口を出す。

「魔法は遠距離イケルわよ?」

開幕早々、遠距離でぶっぱされたらちょっとわかんないかも、と言って、あたし今日魔法使いだったから、とトーリは笑う。

そうなると、レベル10の戦士がレベル1の魔法使いを徹底的に叩きのめすよりも、レベル1が10に辛勝する方が。

「何倍も爽快感があるような気はするわ」

そういう事いいたいんでしょ?と、確認するトーリに、ミオが頷く。

その隣で、ええー?あたしは絶対上からぼこぼこにする方が楽しいな、というトール。

長年妹たちの面倒を引き受けてきたシオにとっては、双子の意見が割れることも驚きだったが、

その双子と末妹が普通に普通の会話をしている光景も、信じられない思いで見やる。

それは、考えなかったことがないわけじゃない。

ミオが成長して、自分たちに物怖じしなくなれば、いつかこんな日が来るのではないかと思っていた。

4姉妹でテーブルを囲んで、明日はどこへ行こうか、と夜ごと冒険者としての議論を白熱させる。

その足で世界を巡り、母の足跡をたどり姉妹揃って再会を果たす。母はきっと喜んでくれるだろう。

そんな、子供のような夢物語を大事にしていたなんて、妹たちには口が裂けても言えないけれど。

「制限を付けることで、逆に戦い方が何億通りにも変化するってことだよね」

と、ヒロが言えば、あ!そうです!と、ミオが声を上げる。

「私、昨日戦ったとき、3人だったのでいつもと全然違うって思いました」

「あー確かに!最初ミカが前にいないから賢者がすごく自由になってたな、ってのは解る」

「はい」

「ミオちゃんに言われたから、俺は後ろに下がったけど、視界がすっげえ広くて何にでも対応できそうだったもん」

「できてなかったじゃん」

「負けてたじゃん」

「へい、ま、そうなんですけど。それはほら、まだ未熟ってことで」

へら、と笑って双子をかわすヒロを助けるように、それに、とミオが口を開く。

「ヒロ君は前衛だから、いつもなら後衛を補佐する前衛の動きが後衛の役割を前衛として奪ってしまったんだと思います」

「…何言ってんの、この子」

「いや、ちょっと解んないわ」

「ごめん、俺もわかんない」

と、三者に困惑の視線を向けられて、あああスミマセン!と赤面したミオが、ひたすら困窮している。

ミオの言いたいことはわかる。多分それは、戦ったシオも感じていたことだから、戦闘に対する感覚は近いものがあるのだろう。

だが、それにどう助け船を出してやろうか、と考えあぐねた時。

「あの」

と、ミオが顔を上げた。

「私、今、戦闘の指揮をとる勉強をしています」

今までは回復要員として戦闘の流れには口を出さず、前衛が戦闘の流れを組み立てて、それを補佐しているだけだった、と言う。

「後衛って、そういうもんじゃないの?回復が重要でしょ?」

「そうよ、前衛として、後衛に戦闘組み立てられちゃ、やりにくくて仕方ないわ」

「私も、そう思ってました」

しかし、それではパーティ全体の力量がそこで打ち止めになってしまうのだと、気づいたから。

「今では私が戦闘の指示を出しています。あ、あの、もちろん、まだ全然、全然満足のいくようにはできないですけど」

前衛が純粋に自分の力だけを発揮することに没頭できるように、いちいち周りの状況を確認しなくても動けるように、

全体を見通せる場所から、ミオが全員の動きを把握して、戦闘の流れを読んで、一つの戦局を操る。

それは、パーティにおいて、シオがこなしている役割と同じことだ。

リーダーであるシオと同じことを、後衛に控えているミオがやってのけているということに、シオも双子も驚く。

「そうすることで、パーティ全体の力と速さが、もう全然違うくらい、変わったんです」

だから、後衛は必ずしも統率力が無用な立ち位置ではない、とわかった。

「ふうん?で?だから何?」

今一つ実感できていないようなトーリの言葉に、ミオが再び窮地に立たされているように口ごもると、トールが手を叩く。

「あー、解ったかも!あたし今日、僧侶をやってみて思ったんだけど」

前衛が戦士と武闘家だったのね、でその武闘家はいつも盗賊やってる子なんだけどさ、と言えばトーリがトールを見る。

「…あたしのこと?」

「違うよ、トーリ別の子と組んでたじゃん、そうじゃなくってさ」

どっちも動きがもたもたしててイラついたから指示出したわけ、と、その場の全員を見渡す。

「なんで僧侶がそんなことしなきゃなんないのよ、って思ったんだけどさ、あたしの方が適役だった、ってことでしょ?」

で、それからは僧侶に従え、というやり方を通していて気づいたこと。

一度僧侶を経験していた子は、こちらの指示を難なく理解する、ということ。

「その戦士と盗賊、盗賊の方が年上で冒険者としても格は上なんだけどさ、戦士やってる子の方が上手いわけ!」

あとで聞いてみたら、僧侶からの視点がよく解ったから指示の意図がすんなり飲み込めた、と言った。

「そういうことでしょ?」

「え?ええー…と、えーと?」

「なによ、違うの?どういう事よ?!」

それには、すかさずヒロが助け舟を出す。

「いやいやうん、そういうことだと思うよ?前衛も後衛も、互いの視野を持つことで動き方が全然違ってくるって事っしょ?」

「は、はい」

「うんそおね」

「そういうのさ、外の世界だと何が起こるかわからないから常に変化し続けていくよね」

と言ったヒロが、机の上の名簿を指さす。

「でもこの村は、闘技場では、そういう変化には乏しいからいずれ戦い方は定石が確立されて、ただの作業になるよ」

それが、今のこの村の現状だ、とシオは思う。

力と力、人と人のぶつかり合いという単純明快な戦いの末の勝敗で決着する。

その風潮に誰もが、どこかで飽いていたのだ。だから、ミオとヒロが企画したこの斬新なお祭り騒ぎに沸き立った。

もちろんそれはそれで、一時の遊戯として終わるならそれもいいけど、とヒロが双子を見る。

「村の定期的な起爆剤としてずっと続けていける祭りにしたいんだったら、もっと企画練らないとね、ってこと」

「うーん、あたしは今が面白いからそれでいいんだけど」

「そうよね、そんな見もしない先の話されてもね」

あまり乗り気でない双子に、シオは苦笑する。何事にもほどほどの現状で満足している双子にはそういうものだろう。

それを惜しむのは、この男の勝手だが。

「えー、勿体ねえ…、定期的に開催して近隣からも人呼び込んで、参加費用とかとったらすごい儲け出そうなのに」

などと不届きなことを言う。

なんなのだ、こいつらは。と、もう何度目かわからないこの言葉だったが、さらに目が点になる妹の一声に。

「あ、世界大会とか開くようになると良いですよねっ」

「世界大会?!」

と、その場の全員が声をそろえたのは無理もない。

「おー、世界大会か。そっか世界中の猛者が、一斉に集まるわけだ。そりゃすげえ儲かるね」

「は、はい、上級職の人もいっぱい来て、もっと複雑にできると思うんですけど」

「なるほど、うん、いいかも。姉さんたち乗り気じゃないなら、俺の村でやろうかなあ…」

「あ、私お手伝いします!ヒロ君の村も有名になっていいと思います」

などと言って、ミオとヒロが盛り上がっている所に、双子たちが参戦する。

「ちょっと待てい!あんたの村はここに負けないくらいの武の村だっての!?」

「え?いや全然」

「それで武の世界大会とか、ちゃんちゃら可笑しいってのよ!」

「…なんで姉さんたち怒ってんの、どーでもいいんじゃねーの?」

「どうでもいいけどうちの村の十八番を横取りされると腹立つわ!」

「そうよ、だてに村の猛者が世界中に散ってるわけじゃないのよ!舐めんじゃないわ!」

その双子の言葉には、シオも思わず目を見張る。

こんな双子なりにも、この村に対する愛着と誇りがあったわけか。あまりにも意外すぎて、どう考えればいいかわからない。

と、完全に傍観しているシオに、双子が噛みついてくる。

「ちょっとシオ姉、こんな暴挙許されて言い訳?!」

暴挙も何も、まずあんたたちはまだ何も起こしてないでしょうに。

「ここで立ち上がらないと、シオ姉の、コハナの誉れとしての名が廃るわよ?」

そうやってすぐ人任せにしないで自分たちで何とかすることを覚えなさいよ。

鼻息の荒い双子の弁は軽く内心であしらって、それでもその場の全員の視線を受け止める。

それぞれに何かを期待するかのような目は何なのだ。

「双子。まずアンタたちはそれを任されて、やれるわけ?」

「もちろん、シオ姉の一声で村中大賛成よ」

「そうよ、シオ姉の一声は偉大なのよ?」

だめだわ、これは。

「ミオ、あんたは?」

「わ、私?私はー…」

「世界大会とか言ってたのは、何なのよ」

「私、は、…そういう場所が村にあったらいいな、って思っただけで…」

そういう、とは、どういう場所だ。

「あの、仲間を統率する戦士、っていうのはできないけれど、戦闘を統率する僧侶だったらできる、とか」

カリスマある武闘家にはなれないけれど、仲間の窮地によって攻守どちらでもこなせる旅芸人にはなれる、とか。

と、いくつかたとえを上げて、ミオは顔を上げる。

そんなふうに、自分が得意なことを発見できる機会なんて、狭い世界では簡単に訪れることはないから。

「自分で自分の可能性を広げられるような、そういう制限のある場所が村にあったらいいな、って思ったんです」

それは世界中を見てきた今だからこそ、この村にあることが相応しいような気がして、とミオは言うけれど。

「え?これそんな複雑な話だっけ?」

「みそ子、あんた一人、なんか違う方向に行ってるわよ?」

そう双子に突っ込まれて、スミマセン、と恐縮している姿に。

ああ、そうか。と思う。

思慮深い。自分を殺して、一歩引いた立ち位置にいる。…あの二人が言っていたことが、解ってくる。

シオは今、ただひたすら内向的で人との争いごとを苦手としている妹の、内なるものを見ているのだと思った。

「でもそれがヒロ君の村興しにもなるなら、それが実現出来るように私、武の育成に頑張りますから」

ミオにも闘争心がないわけではないのだ。

ただ、シオの持つそれとは全く違った形で、シオには思いもよらない方向へと、発揮されている。

だから、だれも気付かない。

「うん、頼りにしてます」

と言うヒロと顔を見合わせて、ほのぼの笑いあっている姿からは想像もできないけれど、確かにある。

確かに息づいている、それが今やっと、成長を始めているのだ。

だからこそ、今目を離すことは得策ではない。

「ミオちゃんは経験者だから、俺なんかより良く解ってるだろうし」

「だーかーら、それを許さないって言ってるの」

「どーなのよ、シオ姉!」

双子の抗議に、ヒロがまたへらっと笑顔を見せる。

「いやー俺の村、開催以前にまず道つくったり橋かけたりしないと人これねー村だから」

お先にどうぞ、などとたわけたことを言うのには呆れるしかない。

まったくろくでもない仲間を捕まえたものだ。

シオは夕飯前、妹たちとヒロが離れ一人になった隙を狙い、何を企んでいるのよ、と問い詰める。

今日の村中を巻き込んでのお祭り騒ぎ、あれにミオを言いくるめて何の理があるのか。

そういえば、ヒロはまるで悪びれもせず、口を割った。企みなら二つ、と。

「姉さんたちの、意識改革、ができたらな、ってとこで」

この村では後衛の地位は割と軽んじられているようだったので、回復要員はただおとなしく控えているだけの職ではない、

ということを出来れば全員に経験してもらいたかった、と言う。

武の村だから、前衛が至上の職だと言われるのは良い。

だが思い込みだけで後衛の立ち位置を、パーティのオマケのように認識されているのではミオが報われないと思った。

「あとは、まあミオちゃんが村に戻りやすいように」

遊びでも、お祭りでも、これが定期的に開催されるなら、ミオの賢者としての能力は重宝されるだろう。

村を離れても居場所がある、乞われて歓迎される、そういう役割をミオが旅の間にでも心のどこかで意識していることで、

もっと頻繁に、気楽に、村に戻れるのではないかと考えた。

「そんなとこ、ですかね」

というヒロの言葉は、そのちゃらけた見かけによらず、一途に真摯で、普段からミオのことを思いやっているのは明白だった。

自分たちが理解しあっていれば解ってもらわなくても良い、と言っていた二人と。

自分が解っているからこそ、理解してもらいたい、と言うヒロと。

まるで違う考え方なのに、どちらもミオと言う個人を尊重している姿勢は違えることのない現実。

姉として、自分はそれを出来ていただろうか。いや、血のつながりがそれをさせなかったのではないか。

姉と妹、という関係がミオを、自分とは別の、独立したただ一人の人間として見れていなかったのではないか。

そんな思いを味わわされ、ますますこの仲間たちが嫌いになりそうだ、と唇をかみしめるシオに、ヒロがおどける。

「あとは、村興しが現実になれば、主催報酬として何らかのゴールドが懐に入れば尚良し!」

その笑顔には、ただ呆れるしかない。後悔が馬鹿馬鹿しくなるほどの悩みのない能天気さにどうでもよくなる。

冒険者として名乗りを上げて、その目的が村興しだなんて、いい笑いものでしかないわ、とため息をつくが。

村中に笑われても、それでもミオはもう泣いて逃げ帰ったりはしないだろう。

ろくでもない仲間がいて、ろくでもないことをしでかして、それで満ちたりるというならそれもいい。

あの父ですら安心しているのだから、間違いない。

そうさせてくれる仲間たちと世界中のどこへでも行って、好きなように名を上げてくればいい。

情けなくても、みっともないことでも、シオだけがそれを叱ってやれるのだから、問題ない。

そうか、困った妹たちを叱り飛ばすために、自分はまだまだ上を目指していかなければならないのか。

(それでいい)

はるか高みを、その孤独を、妹たちの成長が埋め合わせてくれる。

この村は、始まりの地。

試練の旅から戻ってきて、また新たな始まりの世界へと旅立っていく。

それぞれの、志をもって。

 

 

 

 

 

見送りの日。

「どうでもいいけど、もっと頻繁に顔見せなさいよ」

と、シオが言えば、驚いて飛び上がる勢いで、ミオが返事をする。

「ス、スミマセン!!」

気を付けます、とまで言われて、別に叱ってるわけじゃないんだけど、と知らず苦笑する。

それにもまた、スミマセン、と返してくる。条件反射なのか頭まで下げるのを、片手で無理やり上向かせ。

「ほんと、出てったら出ていきっぱなし、ってね。母さんそっくりね」

そんなところは似なくてもいいのよ。

「え、…っと」

「父さんが寂しがるから」

近くに寄ったら顔くらい出しなさい、と言ってやれば、はい!と笑顔を見せた。

そうして待ち構えている仲間の元へ一目散に駆け寄っていく後姿に、胸が突かれるような痛みを覚える。

寂しいのは、父よりも自分なのか。と考えて、即座に首を振る。

「いやだ、歳かしら」

などとつぶやいた背後から。

「独り言いうようになったら、そりゃもう立派な歳だよ」

「だから早くお婿さん捕まえないと、ますます老化の一途よ?」

と、哀愁の一幕さえも吹っ飛ばす憎たらしさで、双子がからかいの声を投げる。

「うるさいのよ、アンタたちは!さっさと旅に出なさいよ!」

「やーよう、シオ姉がちょっと感傷的になってるもん!」

「そーよう、あたしたちはまだもうちょっといてあげるから安心してよ!」

ありがた迷惑!

ただひたすら、ありがた迷惑!!

「シオ姉、父さんとこでご飯食べて帰ろうよ」

「今ならシオ姉の好物作ってくれるわよ」

なんなの、なんで皆してちょっとかわいそうな姉、とかいう扱いになってんの!

腹立たしい!と踵を返す。

小生意気な双子が手招く、父の待つ家へと向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハチャメチャ若草物語…ちゃんちゃん♪

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