tyokutaka

タイトルは、私の名前の音読みで、小さい頃、ある方が見事に間違って発音したところからいただきました。

書評:松村昌家編『『パンチ』素描集』 (岩波文庫 1994)

2005年07月20日 22時56分08秒 | カルチュラルスタディーズ/社会学
もともと私は西洋史を勉強しようとして大学進学を考えていたが、そのイメージとなったのは、19世紀のイギリスである。更に詳しく見てみると、政治史や経済史ではなく、文化史的な方面に興味を持っていた。そのような背景には、1990年の前後に日本の学界で盛んに取り上げられるようになった「アナール学派」の影響が非常に大きいが、更に根本を見ていくと、小学生のときに読んだ、「シャーロックホームズ全集」の影響のほうが大きいかもしれない。後年、NHKで実写版をみるが、あれも面白いものだった。

私が抱いていたイメージがぶち壊されたのは、大学に入ってからである。いろいろ本を読んでいると、イギリスは完全な階層社会であるが、ロンドンなどは大多数を占める最下層の作り上げた町だけあって、非常に汚く、不衛生な都市であった。後年、歴史人口学とジェンダーを専門にされている先生から直接講義を受けることが出来たが、人口の移動の最終目的地が都市である場合、年齢が若ければ若いほど早死にしやすく、年齢が高くとも、すぐに死ぬような場所であったそうだ。早い話が、都市へ死にに行くようなものだとも言われていた。19世紀のロンドンも同じく、この町は数度のコレラの発生で、人口の急激な減少を経験している。

本書は、1841年に創刊し1992年に廃刊となった大衆雑誌『パンチ』に取り上げられたイラストを、初期の30年に限って掲載し、解説を加えている。本誌は、日本で言うところの「フォーカス」や「フライデー」に相当するものであるが、世間のあり方に批判的な文章は、当時、どのような光景が広がっていたのかを非常に良く伝える。子供の情景という項目がある。絵が主体の本なのでニュアンスが伝わりにくい中、これが一番文章になっている。
「おじいちゃんモクもっている?」
「え、なんだって坊や?」
「モクだよ。つまり葉巻タバコだよ」
「いや、とんでもない。そんなものは今まで口にしたこともないよ。坊や」
「ああ!それじゃ今さらはじめない方がいいよ。」

対して、今の日本と変わらないかもしれない。