今日は久しぶりに少しだけ真面目になってみようと思います。
大学院も2年目になり、免許も得て低学年の学部生や高校生の元に赴くと必ず聞かれることについてお答えしておかなければならないからです。
それは「医療従事者と一般職の唯一の違い」についてです。
本当はどの職業も価値があると思っていますからあまり、一般職という言葉を使うのは好きではないのですが、あえて医療従事者以外の職種、という意味で一般職という言葉を使わせてもらいます。
実際のところ、お子さんを医療系に進ませた親御さんだって、大変だ大変だと言ってもなかなか信じない方もいます。
実際私自身も大変だなあと思ってはいたけれど、臨床実習に出るまではその大変さの本質の意味を掴めていなかったような気がします。ただ今となっては、「医療従事者は将来安泰ですから、うちの子には是非に」なんて親御さんが言い出すのを聞きますともうそりゃあゾッとしてしまいます。それはなぜでしょうか。
医療従事者はちょっとしたミスで他人を死なせるからです。
もちろん工事現場の作業員だって、クレーンの紐が緩んでものが落ちればということもあるでしょう。
溶接工の皆さんも「そりゃあオレたちも危ないぜ」と言うでしょう。
ですがよく考えてください。
あなた方の日常の仕事に犯罪行為は含まれていますか?
医療従事者は毎日の作業が「免許を免罪符とした犯罪の連続」です。点滴の針を無免許で刺すと傷害罪になります。人をメスで切ったら傷害罪になります。それは、選ばれた人に、特別にトレーニングされた人に与えられる免罪符なのです。そして多くの人たちは医療が安全でなければならないと信じていますし、安全だと信じているから病院に足を運んでくれるのです。その世論がある限り医療従事者はそれに応える義務があります。まぁ少なくとも私はそう思っています。
臨床実習は初めて生身の人間を目の前にする大切なトレーニングです。つまり、学生のうちに医療は安全であるべきという世論に揉まれます。一年生の病院見学の時に「白衣を着たらみんな医療従事者だからな」と免許を持っていないのに言われたのを思い出します。病院見学はともかくも、臨床実習では実際そのようになります。受け持ち患者を持ち、治療計画の立案や療養計画の立案が課題になる場合もあります。その分、少しの失敗も許されませんし、自分でまだ尻を拭くことができないので、もし失敗したら報告しなければなりません。入職後もしばらくの間自分で尻の拭けない状況が続きます。
で、それをしっかりと叩き込み、臨床実習に行ってもらうため、それまでの専門学校なら2年間、大学なら3年間の規則付きの生活が待っています。その中には「それは明らかに今の時代にはそぐわないだろう」というようなものもないではありませんでしたが、ほんのり臨床をかじるようになった今なら、あれは必要なことだったのだと思っています。そうでもしなければたった3年や4年でただの高校生が人の命を預かる人間に育つのは難しいです。
実際、それまでは他の大学生とさして変わらない顔をしていた学生が、臨床実習を終えると精悍な顔つきになって帰ってきます。いい意味で言えば医療従事者らしくなって帰ってくるのです。
当然そんな世界ですから向いていない人もいます。相当な覚悟を持って入ったはずなのに臨床実習で人の命を預かる重さに挫けそうになる人もいます。私もその口でした。最終的に恩師や後輩たちの助けがあってなんとか挫けずに免許を取りましたが、もしも助けがなければ臨床実習を途中で投げ出して尻尾を巻いて逃げたろうと言う自信があります。臨床実習までの過程でそれなりの人が脱落する学校もありますから、非常に向き不向きを選ぶと言っていいでしょう。セクハラとかパワハラとか一般職にもあるようなことを除いても、なかなか厳しい世界です。
あと、親御さんは給与がいいと思っているかも分かりませんが、これもまた恐ろしいことに病院や職種によっては一般職の初任給より安かったりするんですよダンナ……。もちろん職種によっては再就職が簡単だったりというケースもあるので一概にはいえませんが、将来安泰というのは、半分本当で半分嘘です。
そんなわけですので、景気が悪くなると「手に職」で増えることが多い医療従事者希望ですが、安易な医療従事者希望は避けた方が賢明です。あと向いていないと思ったら、大学院生もこれは通じますが、そっからどう頑張ってもやりぬくのは難しいと思うので、新しい道を歩んだほうがいいこともあります。