Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

伊那谷研究団体協議会のこれから

2008-07-10 12:24:04 | 歴史から学ぶ
 「飯田下伊那」地域研究団体協議会は、「伊那谷」と冠を変えて新たに進み始めた。そんな最初の年である11年目において、伊那谷学を提唱して「伊那谷らしさ」を掲げて平成19年の暮れにシンポジウムを開催し、その報告をまとめたものが、『伊那』の最新号に掲載された。「『伊那谷らしさ』に視点をすえて伊那谷学に近寄る方法をさぐる」というのが目的だという。

 飯田下伊那という地域から伊那谷という地域にその視野を広めたことについては、わたしがふだんから言っているように、飯田下伊那地域がこれまでの歴史的な流れから北を指向するのではなく、南へとアプローチをするなかでその独自性というか一線を画してきたことからすれば評価できることだろう。ただ、この伊那谷学という指向の原点には、自然系、いわゆる伊那谷自然友の会の活動が大きな力になっていることは否めないわけだ。このごろの同会の活動は、飯田下伊那地域はもとより、上伊那地域での活動も活発である。自然という捉えは、むしろ地域限定というよりは、もっと広範なものなのだろう。だから「飯田下伊那」という限定では天竜川流域という視点ではなかなか狭すぎるし、南アルプスなどといった山岳地帯を捉えれば、ことその範囲だけの視点ではなくなる。そんなこともあってその活動の中心的な自然系の活動が、視野を広める大きな要因になったのだろう。果たしてそうした動きに沿いながら、もっと伊那谷という広範な世界で協議会が役を果たしてゆけるのかどうかは、これからということだろう。

 ところで「伊那谷らしさ」などという漠然な捉え方をしようとすると、なかなか具体的なものは見えてこない。それぞれの研究発表というものは、そんな視点において発表することはなかなか難しい。むしろ発表後の全体研究会の討論にそれは集約されるものだろうと、その部分に注目してみた。やはりというか仕方ない面もあるのだろうが、つまるところ「伊那谷らしさ」は何ら見えてこない。伊那谷らしさを捉えたものとしては、やはり天竜川上流工事事務所が主催で行われた「伊那谷を語ろう会」がもっとも注目できる。それぞれの地域から集ったリーダーたちの捉え方は、実に現実的な課題、あるいは伊那谷の中の多様な視点、考え方を表している。こんな内容の研究会が繰り返されていくと、なかなか興味深いもので、またそうしたさまざまな考え方を聞きたいものである。まず一つ目として、どれほどこの地域がそれぞれの考えを理解していないかということを認識することができ、次いでその認識はなかなか理解しがたいほど歴史上の障害があるようにも見えてくる。果たしてこの地域はひとつなのか、そんなところをまず原点において、広範に捉えると違うようで違いのないものも見えてくる。おそらく局地的な活動をしている人もいれば、伊那谷というエリアで活動している人もいたり、もっと広範なエリアで活動している人もいる。そこにさまざまな生き方をしている人たちが思うところを述べることで、それはかなりの成果をあげていくと思っている。

 漠然としているだけに、小林正明氏(伊那谷自然友の会)は「そもそもどういうものなのか、共通の理解をしていないと、「らしさ」という言葉が生かされる情況にはならない」と指摘し、また寺田一雄氏は「いいことばかり見つめようとするのはどうか」と指摘する。全体研究会が何ら当初の意図を反映していないのは、この両者の指摘に表れている。伊那谷らしさを問うのなら、まず今までのそれぞれの思う伊那谷というエリアを語ってもらう。それを整理した上で、それぞれの研究課題が伊那谷というエリアでどういう位置づけなのかを理解してもらい、その上で進めていく必要があるだろう。そして、「いいことばかり」言ってもだめなのである。寺田氏の言うようにみんな集ってよい点ばかり、あるいは貴重な点ばかり語っても「らしさ」などというものは表現できないのである。いずれにしても広範な視点を語る方法はいろいろあるだろうから、今後どう企画していくかということになるだろう。そして伊那谷をうたうのなら、飯田を出て会議を開くことも必要だろう。
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