Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

「マンボ」とは言うけれど

2008-07-12 13:28:00 | 自然から学ぶ

 伊那谷自然友の会の講座がこの10日にあって出席した。伊那市駅前の施設で行われた講座には、30人弱の人が集った。飯田市立博物館の講座は、ウイークデーの午後7時から行われるものが多い。自然友の会のものもそうだが、伊那民俗学研究所や博物館主催のものにもウイークデーの夜間というものが多い。近くの人は参加しやすいのかもしれないが、マイナーな講座には人は集らない。わたしも以前頼まれて講座で報告をさせていただいたが、マイナーな講座だけにもともと参加者などそれほどいないと予想された。そしてその通り、10人そこそこという講座になったが、話をする方は頼まれて出向いたものだから、10人程度というのは気落ちするものだ。主催する側もどこかのやらせのように人を集めることもないが、少しは広報して人を集めるくらいの努力をするべきではないかと思うが、わたしの言えることではない。とはいえ、同好会ではないのだから、企画側の配慮は欲しかった。

 今回の自然講座は、飯田市ではなく伊那市で行ったわけだから出前講座のようなものだ。飯田市立博物館の学芸員が帯同して事務局を担うのだから、とくに飯田市が主催している団体ではないが、少し珍しいケースかもしれない。あくまで市立博物館の学芸員は仕事であって、自然友の会の事務局は個人的というわけでもないだろうが、自然系はこのごろずいぶんと上伊那地域に勢力を伸ばしている。「上伊那における水の求め方」と題した松島信幸氏の講座だったが、参加した意図は、横井戸に関するこの地域の情報が得られると思ってのことであった。自然友の会会報の18号(S.63.8.1発行)に松島氏自信が掲載した「伊那谷にも『マンボ』がある」を資料に、伊那市と南箕輪村の天竜川西岸の横井戸と水の求め方について報告された。イラン式横井戸を『マンボ』と日本では呼ぶというが、縦井戸を空気坑として一定間隔に不透水層まで掘り下げ、そこから横へ縦井戸を結んでいくというものがイラン式の横井戸というものという。イランでは最長70kmという長い井戸があるといい、いかに水を求めるための苦労があったかが解る。同様に扇状地の上は透水層が覆っていて、水が地下へと浸透してしまう。水無川という言葉がよく聞かれるが、本当に水がない川もあるが、おおかたは浸透してしまってふだん水が流れていないというものである。ところが雨が降ると一変してしまうわけだが、水を求めようとする側にとってはもっとも恵みの薄い川といえるだろう。

 扇状地面が東西に広い伊那市の天竜川西岸は、こうした透水性の高い扇状地を形成した。したがって、段丘崖の湧水はあっても、扇状地面への水の供給はままならなかった。段丘上の水の乏しい地帯は、かつてはかなりの部分が山林であったわけである。そうした山林を開拓して、耕作地として転換してきた。そこには水を求めての努力が延々と続けられてきたわけである。そんな扇状地面で不透水層まで縦井戸を掘り、中央アルプスの方向に向かって横井戸を掘っていったわけで、そんな井戸がこの一帯にはいくつか残っていたり、跡として残されている。松島氏の作られた一覧を見ると、南箕輪村南殿にある桜ヶ丘横井戸は、明治30年に造られたもので、長さは1620mあるという。この一帯のこうした横井戸は明治30年ころに盛んに造られているようで、こうした方法が伝播した時期なのだろう。縦井戸の深さも、現在はどこにあったものかは定かではないが、大萱に38mという深いものがあったという。それにしても明治30年ころにそうした井戸が掘られたわけであるが、大萱も含め扇状地面にもそれ以前からあった集落がある。たまたま地表にそうした水の湧き出る場所があったのか、それとも川との落差が少なかったため、苦労はしても川から水を運んで生活したのか、いずれにしても扇状地面の集落の歴史に興味が湧くところである。

 さて、前述したようにこの講座午後7時に始まり、終わりは午後9時である。質問の時間が最後に設けられたが、わたしは電車の時間があって退席した。できれば質問をしたい点もあったが、そうした理由で叶わなかった。もちろん講座後に電車で帰る人はわたしだけだっただろう。この会場、マチの中心部にあるが、駐車場が完備されていて、講座に出席された方たちは無料で停められる。もともと公共交通で参加する人などいないのを前提にしているのだろう。おそらく本家の飯田市立博物館の講座でも、そんな参加者は皆無なのだろう。果たしてそうした考え方が正しいとは思わないが、少し配慮の欲しい点である。

 横井戸のことを聞けると思っていたが、後半は農業用水の求め方に終始した。講座内容の要旨のようなものもあらかじめ欲しい、というのが感想であった。最後に、「マンボ」という呼称がこのあたりにあるのかと思っていたが、このあたりでは横井戸という呼び方で正しいようだ。「日本ではマンボ」というらしいが、このあたりではそう呼ばないことから、あまり「マンボ」を前面に出して誇張して欲しくないという印象もあった。

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