毎日新聞2020年11月1日 07時00分(最終更新 11月1日 08時28分)
大野友嘉子
元TBS記者の山口敬之氏から性暴力を受けたと訴えるジャーナリストの伊藤詩織さんが、山口氏から名誉毀損(きそん)の疑いで告訴され、書類送検されたというニュースがネット上で流れている。
今後は検察庁が起訴するか不起訴にするか判断するが、ネット上では「私は初めから、あの女性の言っていることは変だと思ってました」などと名誉毀損の成立を決めつけるような誤った書き込みが多くみられる。告訴後の書類送検は、どういう意味を持つのか。それに関する報道はどうあるべきなのか――。【大野友嘉子/統合デジタル取材センター】
伊藤さんへの性暴力を巡っては、民事と刑事の双方で争われてきた。民事では、伊藤さんが訴えた損害賠償訴訟で、東京地裁が2019年12月、「性行為に同意はなかった」として山口氏に330万円の支払いを命じる判決(その後、山口氏側が東京高裁に控訴)を出した。山口氏側も、伊藤さんから名誉を傷つけられたとして訴えていたが、これについては地裁が訴えを棄却した。
一方、刑事では、週刊新潮の報道によると、伊藤さんの訴えをもとに山口氏に準強姦(ごうかん)容疑で逮捕状が出ていたが、逮捕が急きょ取りやめに。その後、山口氏は書類送検されたが、不起訴処分になった。山口氏は、伊藤さんに名誉を傷つけられたとして告訴していた。
山口氏は今年10月25日、フェイスブックに「【伊藤詩織氏の書類送検について】表題の件、お問い合わせが多く寄せられているのでこの場を借りてご説明します。伊藤詩織氏が書類送検されたのは事実です」などと投稿。「『ウソや捏造(ねつぞう)や根拠のない思い込みを世界中で繰り返し発信して、私の名誉を著しく毀損し続けている』として2019年6月、伊藤さんを名誉毀損の疑いで警視庁に刑事告訴。同年7月に受理され、今年9月28日に書類送検された」と記していた。投稿は29日までに閲覧できなくなっている。伊藤さんの代理人によると、伊藤さん側も書類送検されたこと自体は認めている。
問題は、書類送検という言葉が独り歩きし、山口氏が主張する名誉毀損が認められたかのようにとらえる人が出ていることだ。
伊藤詩織さん、書類送検…元TBS記者が虚偽告訴などで刑事告訴
10/26(月) 14:25配信
弁護士ドットコム
警視庁(K@zuTa/PIXTA)
ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者の山口敬之さんから性暴力被害を受けたと訴えた事件に関連して、伊藤さんが書類送検されていたことがわかった。関係者によると、まだ最終的な処分は出ていないという。
1審で勝った伊藤詩織さん
●現在、民事訴訟がおこなわれている
伊藤さんは、2015年4月に山口さんから性暴力を受けたと被害を訴えて、山口さんが同年8月、準強姦罪(当時)の疑いで書類送検されたが、山口さんは2016年7月、嫌疑不十分のため不起訴処分となった。
伊藤さんは2017年9月、慰謝料などをもとめて東京地裁に提訴。山口さんは名誉毀損だとして反訴したが、東京地裁は2019年12月、山口さんが合意のないまま性行為に及んだと認めて、山口さんに330万円の支払いを命じた。
現在、山口さんが不服として控訴している。
●山口さんが刑事告訴していた
こうした状況の中、山口さんは10月25日、自身のフェイスブックを更新して、伊藤さんが書類送検されたことは事実だなどと投稿した。
投稿によると、山口さんは2019年6月、伊藤さんが虚偽の犯罪被害を捏造して警察や裁判所に訴え出たうえに、「デートレイプドラッグを盛られた」などと名誉を傷つけたとして、警視庁に刑事告訴していた(同年7月正式受理)。
容疑は、虚偽告訴と名誉毀損で、警視庁から、ことし9月28日に書類送検されたという連絡があったという。
伊藤さんは9月23日、自身のフェイスブック上で「今月は突然、警視庁から虚偽告訴、名誉毀損罪で取り調べを受けた」という内容を投稿していた。
●原則として、捜査事件はすべて送検される
そもそも書類送検とはどういうものなのだろうか。刑事訴訟法には次のように書かれている。
「司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない」(同246条本文)
要するに、警察は"原則"として、捜査した事件はすべて送致(送検)しなければならないのだ。このうち書類送検は、捜査対象の人を逮捕せずに、捜査書類だけを検察官に送致する手続きをいう。
また今回のような告訴事件について、刑事訴訟法には、次のように書かれている。
「司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない」(同242条)
書類送検されたあとは、起訴するか、不起訴処分(嫌疑不十分・起訴猶予など)とするか、検察官が判断することになっている。
【編集部より】刑事訴訟法242条について加筆しました(2020年10月26日17時35分)
弁護士ドットコムニュース編集部
「日本の秘められた恥」 伊藤詩織氏のドキュメンタリーをBBCが放送
2018年6月29日
BBCは28日夜、強姦されたと名乗りを上げて話題になった伊藤詩織氏を取材した「Japan's Secret Shame(日本の秘められた恥)」を放送した。約1時間に及ぶ番組は、伊藤氏本人のほか、支援と批判の双方の意見を取り上げながら、日本の司法や警察、政府の対応などの問題に深く切り込んだ。制作会社「True Vision」が数カ月にわたり密着取材したドキュメンタリーを、BBCの英国向けテレビチャンネルBBC Twoが放送した。
番組では複数の専門家が、日本の男性優位社会では、被害者がなかなか声を上げにくい状況があると指摘した。伊藤氏はその状況で敢えて被害届を出し、さらには顔と名前を出して記者会見した数少ない日本人女性だ。
伊藤氏は2015年4月に著名ジャーナリストの山口敬之氏に強姦されたと、警察に被害届を出した。最初の記者会見を開いたのは、2年後の2017年5月。山口氏の逮捕令状が出たにもかかわらず逮捕が見送られ、証拠不十分で不起訴処分となったことへの不服を検察審査会に申し立てたという発表だった。
番組は、伊藤氏が「すごい飲み方」で泥酔して吐いた、ホテルでのその後の性行為は同意の上でのことだった――という山口氏の主張や反論とあわせて、伊藤氏自身が語る2015年4月の経緯を、現場となった都内のすし店やホテルの映像などを差し挟みながら、詳細に紹介した。当時以来初めて現場のホテルを訪れた伊藤氏が、こわばった表情でホテルを見上げた後にしゃがみこみ、「これ以上ここにはいられない」と足早に立ち去る姿も映している。