こんにちは、小野派一刀流免許皆伝小平次です
小平次は、今の生業に就く直前、タクシードライバーを4年半ほどやっていたんです
その時のことを、インド放浪記風、日記調、私小説っぽい感じで記事にしていきます
本日は「スーパーアイドル」です
乗車地 国立競技場前
降車地 西八王子駅前
************************
『万シュー』
よく競馬や競艇、競輪などのレースギャンブルで耳にする言葉だ。
そう、万馬券、配当が100倍を超えるときに使われることが多い、タクシーでは、1回で10,000円以上の客を乗せた時に使う。
『万シュー獲ったどー!!』
ちなみにおれの競馬での最高配当は、3,100倍、100円が31万円になる超ド級の万シューを獲ったことがある、が、今回の話とはあまり関係は無い。
ある日、午後10時近く、そろそろ割増時間帯、稼ぎ時になろうかという時間、おれは青山付近にいた。銀座へ戻り、乗禁時間帯(※本文以下の藍字部分参照)、いつもの乗り場に並ぼうと考え、神宮付近を流しながら頭を銀座方面へ向け、車を走らせていた。
神宮外苑、国立競技場付近に差し掛かると、目の前に異様な光景が広がった。
人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人!!
溢れんばかりの大勢の人が国立競技場前にごった返している、カオスな光景だ。老若男女、いや、違う、
女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女、女!!!!
全て女だ、子どもからお年寄りまで、年齢は様々だが全て女だ!怒涛のような女の群れ、その女たちの声、ざわめきが、神宮の夜空に響いている、一体何事が起きているのだろう。
女の群れは縦横無尽、地下鉄方向を目指そうと言う人の群れ、逆方向に向かおうとする群れ、秩序もなく、悲鳴に近いような叫び声も聞こえる、おれは、危険を感じ、どうにかこの群れを脱しよう、そしてあわよくばこの群れの中の客を乗せよう、ゆっくりと、女の群れを交わしながら車を走らせる、そこへ突然、群れの中から若い女が飛び出して来て、おれの車の助手席側のまどを叩き叫び始めた。
『ドアを! ドアを開けて下さい!』
まるで戦場で助けを求めるような勢いだ。おれは反射的に後部座席を開ける、女の仲間の3人が崩れるように乗り込んでくる、窓を叩いていた女は、前のドアを開け、助手席になだれ込んて来た。無秩序な女の群れを、かろうじて誘導していた警備員が大声でおれに向かって叫ぶ。
『ここで! ここで客を乗せないで下さい!』
だがもう後の祭りである、おれはどうにか群れを回避し、外苑下の道路まで下り車を停める。
『西八王子駅までいいですか?』
西八王子、万シュー確定である。とんだ拾いものだ。
おれは喜びを抑えながら、努めて冷静に、
『かしこまりました、西八王子は営業区域外のため、あまり詳しくありませんので、ナビを入れさせて頂きます』
と言ってメーターを入れ、車を出す。
外苑から高速、その後は中央フリーウェイ、
(み~ぎにみーえる、けーばじょーぅ♬、ひーだりぃは、びーるこーうじょー♬)
ご機嫌になったおれは心の中でくちずさむ。
『あんな状態で、とても地下鉄の駅までなんか歩けないよねー』
女たちの会話を何気なく聞いている。
『それにしてもあそこでニノがさぁ…』
『そーそー、意外にすね毛が濃かったよね…』
『マツジュンとショウクンがあのとき…』
『オオノくんとアイバくんのさぁ…』
(ニノ、マツジュン、ショウクン、オオノクン、アイバクン…)
(嵐か!)
(あの、子供から婆さんまで、年齢も関係ない、まるで狂気に満ちた無秩序な女の群れを作った原因は、嵐か!!)
さすが国民的スーパーアイドルである。おれは以前はテレビなどほとんど見なかったが、今の妻と結婚してから、ドラマやらバラエティなど、よく見るようになっていた。今、世間を色々と騒がせているが、嵐に限らず、ジャニーズのアイドルは良く鍛えられていると思っていたし、好感も持っていた。
突然の万シューの贈り物、スーパーアイドルに感謝である、翌年からも嵐の国立競技場ライブの日程は確認し、必ず行くようにしていたが、万シューはこの時一度だけだった。タクシードライバーは、大きなイベント、歌舞伎やライブ、そういう情報収集もとても大切なのだ。
****************************
今の感想と解説
『銀座の乗禁時間』
銀座など、上客が多く、タクシーの競争が激しい場所は、ルールを決めておかないと大渋滞を引き起こし、さらには事故などの危険もあるため、例えば銀座では午後10時から午前1時までの時間帯、複数の決められた乗り場でしかお客さんを乗せることができないのです。『乗禁地域』も決まっていて、それを破り、客を乗せたりして、巡回しているタクシーセンターの監視員などに見つかると、大変なことになります。銀座の他、羽田空港なども決められたルールで乗せなくてはいけません。