さむらい小平次のしっくりこない話

世の中いつも、頭のいい人たちが正反対の事を言い合っている。
どっちが正しいか。自らの感性で感じてみよう!

インド珍道中 インド、再び② 『出発』

2024-08-19 | 2度目のインド
(イメージ)


こんにちは

小野派一刀流免許皆伝小平次です

以前連載した『インド放浪・本能の空腹』、あの時のインド訪問から6年後、私は再びインドを訪れました。

会社勤めをしておりましたので、2週間ほどの短い期間でしたが、まあまあ、色々な出来事がありましたので、その時の様子をまた日記風につづって行きたいと思います

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『そうだ!インドへ行こう!』

 と決断してから、おれは親友の前橋という男に電話をかけた。前橋は学生時代からの親友で、ジャンルは違ったが、音楽の仲間でもあった。おれがやっていたのは、まあ、幅広かったが、主にボサノヴァやサンバ、といったラテンジャズ、サンタナのようなラテンロック、時にはファンク系などであった。前橋は、主にアメリカンロックや、ガットギター一本で歌うボブ・ディランのようなスタイルの音楽をやっていた。私生活においても大変世話にもなった男である。
 
 前橋は、おれがどういう理由で心を病み、苦しんでいたかも良く知ってくれていた。だからおれとしてはちゃんと報告をしなくてはいけないだろう、と思ったのである。

『よう、おれさ、前に進むために、またインドへ行くことにしたよ』

『えっ!インド!? そうかぁ…』

 おれがインドへ再び行くと聞いて、前橋が思わぬことを口にした。

『なあ、小平次、インド行くならおれも一緒に行きたいな』

『えっ!?』

『おれ、お前が前にインド行った話聞いて、おれも一度行ってみたかったんだよ、いいだろ?』

『いやだよ』

 おれは即答した。

『なんでだよ!いいじゃないか、一緒に行こうぜ!』

『いやだよ、おれは一人で行きたいんだよ、何でお前と一緒に行かなきゃいけないんだよ、行きたいなら一人で行けよ』

『いや、だってさ、おれ、一度インドへ行ってみたいとは思ってるんだけどさ、インドだろ? ちょっと怖いじゃん、一人じゃ、頼むよ』

 面倒なことになって来た。前橋という男は、外見はロックミュージシャンっぽく、パーマのかかった長髪を後ろで結び、服装などもそれっぽかった。やや反社にも見え、学生時代にはヤ〇ザからスカウトされることすらあった。態度も割と横柄で、気にくわないやつには威圧するような態度を見せることも多かった。そのくせ、こうした局面ではビビリの顔をよく見せた。

 この時より10数年前の学生時代、おれは初めての海外旅行、ヨーロッパへ行こう、と思い立ち、行きと帰りの便だけ決まっていて、その間自由に行動できるフリーツアーに申し込むことを決め、それを前橋に話した。すると前橋が言った。

『いいなあ!ヨーロッパかぁ! おれも一緒に申し込もうかな』

『何でだよ、別のツアーに申し込めよ』

『いや、だってさ、怖いじゃん、一人じゃ』

 見た目と普段の態度、歌う姿からは想像もつかないほどのビビリである。

『一緒に申し込んだとして、おれはスペインに行くけど、お前はどうするの?』

『おれは…、ヨーロッパと言えば、スイスの山々を見てみたい』

『じゃあ、最初と最後だけは一緒で、おれは主にスペイン、お前はスイス、別行動だからな』

『……、わかったよ……』

 こうしておれの初めての海外旅行は、とりあえず前橋と一緒に行くこととなった。
 
 最初の地はドイツのフランクフルト、ここで二泊する予定がツアーに組み込まれていた。ここまでは俺と前橋の他、数人の日本人旅行者と一緒だった。この頃から『卒業旅行』というような言葉が生まれ、大学などを卒業するとき、最後の記念に海外旅行をする若者が増えていた。この時の参加者も、大学2年生だったおれと前橋を除き皆この春大学を卒業するという若者であった。

 初日、早速おれと前橋はフランクフルトの街を散策してみた。ネットもスマホももちろん無い時代、当然翻訳アプリなんかもない、そんなものはまさにドラえもんの世界、想像すらできないものであった。だからおれたちは旅行用のコンパクトな六ケ国語辞典という同じオレンジ色の本を持って来ていた。

 前橋が不安そうに言う。

『なあ、ドイツ語でさ、スミマセン、とかってなんて言うのかな、英語の『Sorry』、とか『Excuse me』みたいなの、けっこう使うと思うんだよな』

『英語でいいんじゃないの?』

『いや、やっぱここはドイツだし、後でパリとか行った時も、フランス人とかって英語で話されると嫌がるとか言うじゃん、ドイツもそうなんじゃないかな』

 前橋は六ケ国語辞典を開き、ドイツ語の『Sorry』などに当たる言葉を調べ始めた。そして見つけたのが『Entschuldigung(エントシュルディグング)』と、やや日本人には難しく感じる発音のようであった。前橋は六ケ国語辞典を開き、食い入るように『Entschuldigung』を見つめながら、繰り返し『エントシュルディグング、エントシュルディグング、エントシュルディグング、エントシュルディグング』とつぶやきながら歩いていた。

 と、その時、前から歩いてきた大柄のドイツ人とぶつかってしまったのだ。まさにその瞬間、前橋の口をついて出た第一声が。。

『あ、すみません!』

 何と日本語!!その光景を見ておれは大笑いをしてしまった。

『前橋!! 今だよ、今! まさに今の瞬間にエントシュルディグングだよ!! 今のような時のために本見ながらつぶやいてて、それで人にぶつかって、なんで、あ、すみません? なんで日本語!?』

『いや、、、、なんか咄嗟に……』

 そう、前橋とはこういう男なのである。

 初日の夜は、一緒にやって来た日本人グループで食事に行った。何といってもフランクフルト、ソーセージを食いながら、ビールを飲む、楽しいひと時であった。

 翌日は、近隣に有名な古城があるとのことで、皆でその古城を見に行くことになったが、おれは一人参加をしなかった。その城に興味は無かったし、スペインではグラナダのアルハンブラ宮殿、マドリードにあるピカソのゲルニカ、を見に行きたい、それ以外は短い時間であってもその街の『日常』を体験したい、という希望が強かった。だからおれは早速単独行動を取り、スーパーに立ち寄り食品売り場などを眺めたり、実際にパンを買って食ってみたり、当てもなく市電に乗って見たり、郊外の動物園にいる白い虎を見に行ったり、そんな中で道に迷い、頑固そうなドイツじいさんに助けてもらったり、『日常』を満喫したのであった。

 二日目の夜、食事を終えたおれと前橋はホテルの部屋に戻った。いよいよ明日、前橋はスイス、おれはスペインのバルセロナに向け列車の旅を始める、ところがである。前橋が言った。

『なあ、小平次、おれさ、やっぱりおれもお前と一緒にスペインに行こうかな…』

『はあ? なんで?』

『なんかさ、やっぱり一人は不安だよ…』

『あのさ、そりゃおれだって初めての海外旅行だから、不安はあるよ、でもさ、お前はスイスの山々を見たいんだろ? おれに合わせて旅行して、こんな旅行生涯で何度もできる事じゃないと思うよ、自分が見たいもの、行きたい場所、行かなかったら後で後悔すると思うよ、絶対にスイスに行った方がいいよ!』

『うーん、そうかあ、うーん、そうだよな…。』

 大学を卒業後、前橋がギター一本で歌うライブへ何度か行った。野性味の溢れる野太く声量のある声、それでも繊細な歌詞、不覚にも涙ぐみそうになったことすらあった。この旅行に来ても、トランジットで寄った香港、フランクフルトの空港、おれは税関の荷物検査などすんなり通れたが、前橋はその外見からか、一々隅々まで調べられ長い時間質問を受ける、そんな男であったが、こういう時は本当にビビリなのである。

 それでもどうにか前橋を納得させ、おれは翌日、バルセロナへ向けて列車に乗ったのであった。



『なあ、頼むよ、インド、おれも一緒に連れてってくれよ』

『わかった、わかったよ、インドへ一緒に行こう、でも約束してくれ、旅程は全部おれが決めるし、飯をどこで食うか、どこのホテルに泊まるか、全ておれが決める、いやだったら単独行動を取ってくれ、おれは自分の決めた旅の仕方を、お前に合わせることは一切ないけど、それを約束してくれるか?』

『おう!わかったよ! 全部お前に従って旅するよ!』

 こうしておれと前橋、インド珍道中が始まることとなった。

 予定は二週間、おれは上司に有給を申請した。たまたま運もあって、営業成績で全国トップを獲っていたおれは、すんなりと休暇申請書にハンコをもらった。

 すぐにHISの横浜営業所に行き、タイ航空、バンコク経由、インディアンエアライン、カルカッタ往復のチケットを2名分購入した。

 前橋と一緒に…、想定外のこととはなったが、腕を切るまでに病んでいたおれは、人生の再出発の儀式として、いよいよ二度目のインドへ旅に出る日を迎えるのであった。




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こうしてヨーロッパ旅行のことを思い出しながら書いてみますと、この時も色々あったなって思います。いずれこちらの珍道中も記憶にある限り書いてみたいと思います。

インドでは、ヨーロッパ同様、親友の前橋が予想通り結構やらかしてくれます。というより、大笑いさせてくれる珍道中となりました。

 

 

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