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万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

核兵器禁止交渉が困難な理由ー悪意の核保有国問題

2016年08月20日 13時33分13秒 | 国際政治
核兵器禁止交渉へ勧告採択=全会一致は実現せず―国連作業部会
 昨日、国連の核軍縮作業部会では、核兵器禁止に向けた交渉を2017年に招集するよう国連総会に勧告する報告書を採択したそうです。採択に際して、日本国政府は棄権を選択しておりますが、果たして核兵器の禁止は実現するのでしょうか。

 実際に、核兵器を全面的に禁止するとなりますと、その主たる手段は、核保有国による核放棄となります。既存のNPTには、主権平等の原則に照らして不平等条約との批判がありますし、多くの諸国が核の恐怖から逃れることができるのですから、おそらく、国連総会での多数決での採択となれば、交渉の召集も夢ではありません。しかしながら、その一方で、当交渉には、全く問題がないわけではありません。

 第一に、交渉参加国はどの国か、という問題です。NPTでは、1967年1月1日以前に核を保有した国については、特別に核保有国の地位を認めていますが(国連常任理事国5か国)、その後、インド、パキスタン、イスラエルが核を開発し、今日では、北朝鮮もNPTに反して核保有国を自称しています。全面禁止を目指すならば、これらの諸国も交渉に招集しなければならないのですが、交渉参加は、隠し持っていた核の存在を認めることになるため、参加を拒否する国も現れることが予想されます。逆に、北朝鮮は、核放棄の意思はなくとも、積極的に交渉に参加することで、核保有国の地位の既成事実化に努めるかもしれません。

 第二に、”誰が、核保有国の核を放棄させるのか”という問題があります。現行のNPT体制にあっても、IAEAの査察を拒んだり、核物質などの隠蔽工作を行う国もあります。核兵器禁止となりますと、軍事大国である核保有国を相手に核廃棄確認のための査察の実施を要しますが、この査察、100%確実に実行することは出来るのでしょうか。ロシアや中国といった諸国が、”虎の子”の核兵器を放棄し、査察に積極的に協力するとは思えず、たとえ交渉が全面放棄で妥結したとしても、密かに隠し持つ可能性は決して小さくはありません。

 第三に、核兵器の廃棄については、全ての核保有国が同時に実施する必要があることです。放棄時期においてタイムラグが許されますと、核の均衡が一気に崩れたり、核の傘が消滅することにもなりかねません。最悪の場合には、その間隙を衝く形で、一方的先制攻撃による核戦争が引き起こされかねないのです。

 以上に幾つかの問題点を挙げてみましたが、核兵器禁止へのプロセスを見ますと、善意から核兵器を放棄しようとする国、あるいは、平和の為に核廃絶を望む国ほど、安全保障上のリスクに晒されます。核兵器禁止交渉を行うならば、悪意の核保有国対策を、まず先に、十分に施す必要があるのではないでしょうか。

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4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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こんにちは! (小平次)
2016-08-21 11:29:00
こんにちは!

倉西先生のこちらのブログを拝読いせて頂くようになり、毎回その冷静な分析に大変勉強をさせて頂いております

m(_ _)m

このような記事を少しでも多くの人に読んでもらいたいと思い、もしよろしければ、私ごときではありますが、フェイスブック等でシェアをさせて頂ければうれしいのですが、いけませんでしょうか?
返信する
小平次さま (kuranishi masako)
2016-08-21 12:19:52
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。また、フェイスブック等でのシェアのお申し出をいただきまして、恐縮いたしております。

 実のところ、フェイスブックを使っておらず、どのようにしたらシェアできるのか分からないのですが、私の方で、何か作業が必要なのでしょうか?教えていただけましたならばら、幸いでございます。
 
返信する
ありがとうございます! (小平次)
2016-08-21 12:57:55
ご返信ありがとうございます。
実は私も最近フェイスブックを始めたばかりでして…

やり方は私が、先生の記事の下欄にある「シェア」というボタンをクリックしますと、自動的に私のフェイスブックに記事が紹介されるというしくみです。特に先生に何か作業をしていただくといった、お手を煩わせるようなことはございません

私のフェイスブックやブログにお越しいただける方もまだまだ少なく、大したご紹介にもならないとは思いますが、わずかでも先生の記事を読んでくれる人が増えればとの思いです

ありがとうございます

返信する
小平次さま (kuranishi masako)
2016-08-21 13:24:26
 「シェア」のボタン、発見いたしました!こちらこそ、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
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