現代へのまなざし

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「民主主義」対「権威主義」ー西側諸国のプロパガンダー

2024-05-03 12:13:05 | 政治
 昨今、マスメディアでしばしば「「民主主義」対「権威主義」」という構図で世界情勢を一刀両断し、民主主義が勝利しなければならないというような単純な意見が見受けられる。しかし、こういう言葉を使う人達は権威主義について深く考えたことがあるのだろうか。

 権威主義とは何か。世界大百科事典を調べてみると次のように書いてある。
「権力が,時に強制力の行使をも予定することによって,自己の優越性を人々に承認させるのに対し,権威はみずから有する価値を社会の大部分の人に自発的に承認されることによって成り立つ。人々は権威者に自発的に信従するだけでなく,自己を対象に積極的に同一化することによって,自己に欠如していると思われる威信を獲得し,補うことができると錯覚することがある。そこでは,権威者の価値体系に疑惑をもったり,不同意であることは反逆とみなされ,大部分の人から冒涜(ぼうとく)であり罪悪であるとされる。このような思考様式を権威主義という。
 権威主義の成立は,支配者にとって権力の正統性なしに統治することの可能性を意味し,権力の不当な行使に対する批判を回避できる。そのために支配者は説得や宣伝を利用して権威主義的支配体制の成立につとめる。前近代的支配体制はつねに権威主義的支配体制であった。神聖ローマ皇帝の支配,法王の支配,家父長制,家産制などがあり,近代日本の天皇制もその範疇に含まれる。

 また、「民主主義と権威主義」という見出しで東京新聞がインタビュー記事を掲載しているが、その中で哲学者の西谷修氏が「「非西洋」敵視する図式」の中で本質的なことを鋭く指摘している。
「「民主主義」対「権威主義」は、民主主義を自称する側が「敵」を名指すための図式です。西洋が普遍化した世界秩序を維持するための新手のイデオロギーです。秩序に服する国々が民主主義、従わない国々は権威主義と規定され非難され、その国の人びとを解放するという話になります。イラク戦争時の「ならず者国家」と同じですね。 」

 さて、歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏は世界の家族類型を分類し、その家族類型から権威主義的か自由主義的か、平等主義的か平等に無関心なのかという特徴を指摘している。「トッド人類史入門 西洋の没落」(エマニュエル・トッド、片山杜秀、佐藤優著、文春新書、2023年)

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○トッドの家族類型
 (親子関係、兄弟関係、内婚制 or 外婚制で分類)

 ・絶対核家族-子供は成人後、親元を離れ、結婚後、独立した世帯を持つ。相続関係は親の遺言で決定。親子関係は自由で、兄弟間の平等に無関心。英米など。
 ・平等主義核家族-英米型と同様に、子供は結婚後、独立した世帯を持つが、相続は子供達の間で平等に男女差別なく分け合う。フランス北部、パリ盆地、スペイン、イタリア南部など。
 ・直系家族-通常は男子長子が結婚後も親と同居し、すべてを相続。親子関係は権威主義的(親の権威に従う)で、兄弟間は不平等。日本、ドイツ、フランス南西部、スウェーデン、ノルウェー、韓国など。
 ・共同体家族-男子が全員、結婚後も親と同居し、家族が一つの巨大な「共同体」となる。相続は兄弟間で平等で、親子関係は権威主義的。
  ・外婚制共同体家族-イトコ婚を認めない共同体家族。ロシア、中国、北インド、フィンランド、ブルガリア、イタリア中部のトスカーナ地方など。。
  ・内婚制共同体家族-イトコ婚を奨励する共同体家族。アラブ地域、トルコ、イランなど。
 ※ 歴史的に最も新しいのは「共同体家族」で、最も原始的なのが「核家族」。

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 家族制度が人々の思想に与える影響は大きい。生まれてから大人になるまで、家族の中で生活し、家族の思考形態などに大きな影響を受けるためである。
 直系家族、共同体家族は親子関係が権威主義的であるため、人々の思考も権威主義的になるだろう。つまり、日本やドイツ、スウェーデン、韓国、ロシア、中国、フィンランド、アラブ地域、トルコ、イランなどは権威主義的なのである。ちなみに、アングロサクソン(イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア)は絶対核家族、フランスやイタリア南部は平等主義核家族であり、これらの地域は自由主義的であり権威主義的とはされない。
(ちなみにユダヤ人については、直系家族であり、日本やドイツと同様に権威主義的とされている。)

 また、世界大百科事典における権威主義の解説からすれば、キリスト教の権威に帰依するキリスト教原理主義、アメリカであればキリスト教福音派(エヴァンジェリカル、トランプ前大統領の岩盤支持層)も権威主義的である。

 こういった点を深く検討することもなく、「「民主主義」対「権威主義」」という単純な構図を持ち出す人達は一種のプロパガンダをまき散らしているように思える。
 東京新聞の記事で西谷氏は「西洋世界は自分たちが普遍的基準だとの思い込みから抜けられず、いまだに非西洋を追い詰めようとします。権威主義という用語が今またその道具の一つになっているようです。」と鋭く指摘している。つまり、G7などの西側諸国が自分たちにとって都合の悪い国々に対し、権威主義国家と決めつけ、批判しているのである。
 エマニュエル・トッド氏の指摘にあるように、G7諸国でも日本やドイツは権威主義的であり、アメリカのトランプ支持者も権威主義的であるにも関わらず、あたかも西側諸国は自由で民主主義的な国であるという前提で、自省することもなく、敵対国を権威主義国家だとして批判することで、思考停止に陥っているのである。

 日本においては、未だに天皇という存在を象徴とし、日本の最高権威に据えている。マスコミは最大限の敬語を使用し、多くの国民が天皇に頭を垂れるのである。このような日本こそ、権威主義的な国であろう。

 マスコミは国民に対し大きな影響力を有している。日本国憲法で守られている報道の自由や表現の自由をしっかりと守るためにも、マスメディアは単純な決めつけや思考停止に陥るのではなく、事物の本質に迫るような、幅広い知識と深い思考が求められるのである。
 民主主義と権威主義という言葉については、マスメディアのみならず多くの人々が多角的かつより深く思考した上で、理解していく必要がある。

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