創発企業経営

起業13年目の会社の経営、事業報告

創発企業経営 (8)

2012年05月29日 | 経営
計画的変化と創発的変化の歴史上の事例を幾つか挙げてみましたが、ここでもう一度 これまで記した 組織変革 Management of Change の理論のおさらいをしてみます。
 
1) 企業の変化をマネジメントには大別すると2つのアプローチがある。 一つは計画的変化(Planned change)で、もう一つは創発的変化(Emergent change)である。
 
2) 計画的変化は通常トップダウンで実施される。 創発的変化は対照的に組織の末端或いは境界(現場、前線)で、既存の業務を少しずつ継続的に改善するための意思決定や行動が変化の主体であると考える。
 
3) 計画的変化は、理解しやすく、多くの人に受け入れられやすいアプローチである。 例として企業による今後3年間の中期プランなどがあげられる。 多くの企業はトップダウン主導のこのアプローチをとっている。
 
4) 計画的変化に比べ、創発的変化はとらえどころがなく理解しにくい。「創発」とは、ひとつひとつの小さな力が想像以上の総和をつくること。 創発とは、「全体を構成する個別要素の相互作用によって予期しない全体的な特性が現れること」であり 個別要素を組み合わせた総和以上の新たな特性が生まれることを指す。 つまり、創発とは予測や意図、計画を超えた構造変化や創造の誘発を意味し、計画的変化とは相反する概念である。
 
5) 計画的変化は演繹法的、経済学的な手法であり、創発的変化は帰納法的、経営学的手法であると考える。演繹法は 「一般的・普遍的前提から、より個別的・特殊的な結論を得る推論方法」であり、「演繹の導出関係は前提を認めるなら必然的に正しいが、実際は、前提が間違っていたり適切でない前提が用いられれば、誤った結論が導き出されることがある」 。
 
計画的、演繹的手法を実践した事例として、マルクス主義による第二次大戦後の中国共産党による社会統治の在り方が挙げられる。 中国共産党が政権を得た当時、社会主義への移行の条件は整っていないにも係らず、毛沢東が工業の計画経済と農業の集団化を行った。 共産主義理論に、現実を合わせようとした大躍進政策により4000万人以上の餓死者が出た。
 
一般的前提(共産主義理論、或いはその導入時期)が間違っていれば、誤った結論が導き出される可能性が高いのに、当時、粛清や失脚を恐れて当時の共産党幹部は失敗を修正することができなかった。組織のトップが、演繹的、計画的思考に固執する場合、事態が悪くなることが少なくない。 宗教に対する信仰や政治の独裁は、自分と違う立場や見方を否定し、頑なになりがちであり、計画が、現実と乖離して独り歩きすると現場や組織の末端にしわ寄せが及び時に大きな悲劇を生む。
 
6) 創発的変化の事例として台湾と中国との関係があげられる。台湾では選挙制度が実施されており、政治的には中国と相いれない。  その一方、現実には台湾企業が大量に中国に進出、100万人もの台湾人が中国に居住しており、台湾にとって中国は経済的に不可欠の存在となっている。  これは計画されたものでなく、政府が意図したものでもないが、経済的社会的背景が組織の周辺レベルで起こした創発的変化ということができる。
 
以上がこれまでに記してきたことです。変化予測が難しい現代社会においては、計画的アプローチをそのまま実行するのは非常に困難であり、現場の混沌や創発を理解し、進むべき道を見つける洞察が求められています。