tokyo_mirage

東京在住・在勤、40代、男。
孤独に慣れ、馴れ、熟れながらも、まあまあ人生を楽しむの記。

箱根・伊豆 3日目(伊豆長岡・三島・熱海・小田原)

2013-07-08 23:00:00 | 旅と散歩と山登り
湯ヶ島温泉ではちょうど昨晩まで「天城ほたる祭り」が開催されていて、期間の最終日なら蛍ももういないだろうと思いながら夜道を歩き川岸の会場を訪ねてみると(蛍の光を見るためにあらゆる照明が落とされ、一歩を踏み出すのも怖いくらい真っ暗になっている)、予想を上回る数の光が宙を舞い、そこかしこの茂みから発せられていて、感激した。蛍の光をじかに見るのは生まれて初めて。小さな小さな光だけどとてもしっかりとした光で、繊細で美しいと思った。真っ暗な場所だから、舞う蛍の光を追って上を見上げると、空に瞬く星の数もたくさんだった。実に得がたい経験ができた。
8:00 ホテルそばのバス停。陽射しが強い。バスを待ちながら、顔に、腕に、日焼け止めを塗る。今日も暑い1日になりそうだ。

30分バスに揺られ、修善寺駅へ。改札前の待合ベンチで観光案内のパンフレットを見ながら、これからどこに行こうか案を練る。ここから三島まで出ている伊豆箱根鉄道駿豆線のどこかで途中下車をしたい。9:16発の電車に乗車。同じ伊豆箱根鉄道でも大雄山線では使えたパスモが、こちら駿豆線では使えない。

座席はクロスシートで、しかも向き合いに固定されているのではなく転換が可能なタイプで、ゆったりと過ごすことができた。こういう車両を走らせている鉄道会社は素晴らしいな。
9:30 伊豆長岡で下車。歩いて「韮山反射炉」に行ってみようと思う。

小学校が見え、プールから子どもたちの歓声が響いてくる…夏休みっぽいなあ。

10:05 韮山反射炉。土産物店が取り囲む入口前のだだっ広いアスファルトには車が1台もなく、入場客も僕ひとり。まずは冷房の効いた屋内の展示室で汗を引かせてから、エイヤッと炎天下の屋外へ。高さ15m。完成は江戸末期の1857年。外壁を囲う鉄骨は耐震補強のため後世取り付けられたもの。

石炭を燃やし、炎と熱を炉内のドーム上の天井に「反射」させて千数百度まで高め、鉄を溶かしたことから、「反射炉」。溶けた鉄の取り出し口の穴が見える。強い陽射しの下、作業時の灼熱を少しだけ実感する。

ここで鋳造されていたのは大砲。ペリー来航を機に海防体制の強化に乗り出した江戸幕府の命により、蘭学に通じていた韮山代官・江川英龍がこの反射炉を築造した。できあがった大砲は東京の台場に配置されたという。

反射炉を出て駅へと戻る道。雲に隠れながらも富士山が見える。先ほど来る時にプールの歓声が聞こえて「夏休みっぽいな…」と感じた小学校の横を通ると、なんとも美味しそうな匂いがしてくる。給食か…そうか、まだ夏休みには入っていないのだ。

「蚕種子」という名の踏切。なんとも趣ある名前だけど、いわれはわからない。線路の向こうに伊豆長岡駅。伊豆長岡温泉はここからバスに乗る距離にあるので、このあたりに温泉街の雰囲気はない。

10:34発の再びクロスシートの電車に乗って。稲穂の緑が眩しい田園地帯を行く。

大場駅で上下列車の行き違い。

10:58 三島着。町を歩こうと思う。

11:21 白滝公園。園内のあちこちで富士山からの水が湧き出している。水量が多く滝の流れのようであったため「白滝」なのだという。木々が陰を作っていることもあり、涼しい。

湧き水が豊かな流れをなす。桜川。

流れにたゆたう藻。

川沿いに文学碑が立つ。正岡子規は「三島の町に入れば小川に菜を洗ふ女のさまもややなまめきて見ゆ」「面白や どの橋からも 秋の不二」と言い、太宰治は「町中を水量たっぷりの澄んだ小川がそれこそ蜘蛛の巣のやうに縦横無尽に残る隈なく駆けめぐり、清冽の流れの底には水藻が青々と生えて居て…」と言う。

「家々の庭先を流れ、縁の下をくぐり、台所の岸をちゃぶちゃぶ洗ひ流れて、三島の人は台所に座ったままで清潔なお洗濯が出来るのでした」(太宰)。なんとも贅沢な玄関前。

11:35 三嶋大社。

樹齢1200年、枝の広がりは250㎡あるという「日本一の金木犀」が。「開花時には馥郁たる芳香を放ち、風向きによっては10粁(km)に及ぶという」と。すごいな。

本殿。玉砂利の照り返しが強烈。お参りする人もまばら。

この暑さの中、なんともお熱いふたり。

東海道を行く。三島宿のあったあたり。植栽が凝っている。目の高さに鉢植えがあるのがいい。
三島の町にはうなぎ屋が多い。三島自体はうなぎの産地ではないが、浜名湖などの産地から生きたまま三島に運ばれてきたうなぎは、ミネラルを多く含む富士山の湧水にさらされることで、お腹に残った餌や泥が吐き出され、余分な脂肪が落ち、臭みが消えて美味しくなるのだという。うなぎは大好きだが、旅館で朝食をしっかりとってきてしまったので、今、腹は空いていない。

江戸時代、宿場に時を告げていたという時の鐘。楼は片足を川(源兵衛川)に突っ込んでいる。ここでちょうど正午。時の鐘ならぬ、チャイムが響き渡る。

敷地の裏手を伊豆箱根鉄道の電車が通過する。

三島広小路駅。踏切の道は東海道。駅前は「広小路」そのままに、ぽっかりと広場状になっていた。

地平から改札、ホームと連続するこの佇まい、好きだなあ

「川の上を歩けます」という看板に導かれてやってくると…確かに川の道だ!源兵衛川。

川の道は続く。今日の三島の町歩き、陽射しはずっと強いままだが、随所にこうした涼しげな水辺が現れるので、バテることがない。なんとも美しい川だが、昔からずっとこうだったのではないようで、1960年代以降、地下水の減少、雑排水の流入、ゴミの投棄で川は相当汚れたという。看板に当時の川の写真が出ていたが、水面をどぎつい緑色のヘドロが覆い、実にひどいものだった。それが、市民らの力で1998年に甦り、今では蛍も舞う水辺環境が復活したのだという。素晴らしいね。

水車も回る。蓮沼川。

三島の町歩きの締めくくりと思ってやってきたら…なんと今日は休園日!楽寿園。平日の旅は観光客が少なくていいけれど、こういうこともある。

商店街を駅に向かう。地方都市ではよく見かけるなあ。演歌専門のレコード店。

こちらも地方都市でよく見かける。「自衛隊員募集」のポスター。

工事現場をふと見やると、掘り返されてむき出しになった地層がなかなか独特。この辺の地盤は富士山噴火の溶岩から成るそうだが、これもそうなのだろうか。

12:29 三島駅前に戻る。水が湧き出てたっぷりと流れている。これは天然の湧水なんだろうか?だとしたら、駅前の一等地でこのさまはすごいな。

三島で上りの東海道線に乗ろうとしたら、沼津で信号故障があったとかで、電車がやってこない。初日の人身事故の小田急といい、今回の旅は電車の移動に横槍が入るようだ。下り電車が先に来るというので、沼津まで行って御殿場線に乗り換えて東京方面に出ようかなと思うも、今下り電車としてホームに停まっている電車が、行き先を変更して上り電車になるとのアナウンスが入り、それに乗る。
13:32 熱海駅。本当はこの先の湯河原で相模湾や真鶴半島を望む歩程2時間・標高560mの低山に登るつもりだったのだが、三島駅で変に時間を取られてしまったし、この猛烈な炎天下、低標高ゆえあまり涼しくないであろう山歩きをするのも酔狂が過ぎるかなと思い、熱海で降りることにした。

街中に湧く温泉。名は「目の湯」だが、目に入れては駄目、と。

熱海は坂の街、駅から急勾配を下っていって、海辺に出る。

山じゃないなら海はどうだろう…と熱海駅に着いた時に漠然と思い、駅前の観光案内所でもらった割引券つきのパンフレットを携え、やってきた。熱海港の遊覧船。14:20出港。およそ30分のクルーズ。

乗船するとまず階下の海中展望室に行くよう案内される。どうせ魚なんか見えないでしょと思っていたが…

おお、結構いるじゃないか!ただし、いるのは桟橋に停泊中の時だけのようで、出発後は見えないです、とアナウンスが。

出港!海上はやはり風が気持ちいい。

ホテルやマンションが斜面に林立する陸地から遠ざかっていく。

乗客がかっぱえびせんか何かの餌を投げる。それを目当てにカモメがついてくる。船のスピードは結構出ているから、「必死に喰らいついてくる」という感じ。空中で餌をキャッチすることはないが、海面に落ちて波に揉まれる餌もちゃんと見つけて取りに下りる。なかなか目がいいな。

沖合に出る。真鶴半島が伸びている。

周回して徐々に港に戻ってくる。ホテルやマンションのビル群があり、新幹線が山肌を横切る。町にはいたるところ温泉が湧く。ふと思う。ここが日本の首都だってよかったんじゃないか。山あり・海ありの風光明媚な場所で、日々の生活で温泉が享受できる、そういう場所が。

サンビーチ。リュックサックを背負った僕の格好はいかにも「山から下りてきた」感じで、ビーチらしい身軽さはない。「水着女性にカメラを向ける不審者」に間違われないうちに立ち去る。前に夕方のニュースで「湘南海岸の盗撮魔」を特集していて、場違いな望遠レンズを構えていたために警察官から咎められた男が「“ビーチと肉体の自然美”を撮っている」と答えていて、なかなかうまい屁理屈をこねるじゃないかと思ったのを覚えている。もちろん共感はしないけど。パラソルに記されている「ATAMI」のロゴ、Tの字は椰子の木のようにデザインされていて、なかなかお洒落。ただ、最初は「AIAMI」と読んでしまって、「MIAMI」のダジャレ?と思ってしまったが。

15:04 お宮の松。タクシーから降りてきたアジア系のカップルが、「貫一・お宮の像」そのままに、運転手に促されて、男が女を蹴るポーズで写真を撮っている。

勾配のきつい階段の道を駅へ向かって登っていく。階段の途中に腹がぷっくり膨れた身重の猫がいて、僕を見つけて階段をぴょんぴょん逃げていく。…おいおい、何もちょっかい出さないから、その体で無理をしないでくれよ。ましてこの暑さの中。

15:20 熱海駅前に戻る。間歇泉が。でもどうやら機械仕掛けみたい。

間歇泉の隣には豆汽車が。大正時代、関東大震災で全線が崩壊するまで、2両の客車に乗客50人を乗せて、熱海・小田原間を2時間40分かけて走っていたという。今は同じ区間を東海道線が22分、新幹線が10分で走る。

16:05 東海道線で小田原駅へ。とにかく暑い1日で、もう東京への帰途について早めに帰宅しようか、それとももうちょっと観光しようか迷ったが、東海道線の車窓から小田原城が見えて、せっかくだからあそこに行ってみようと思った。小田急の窓口で1時間後のロマンスカー「はこね36号」の切符を買った後、駅前のぺデストリアンデッキに出る。城を望む。

お濠。

16:19 天守閣。17時閉館なので少し急ぎ足で。

館内には江戸時代のさまざまな物が展示されている。旅行用本立てと豆本。旅行の時にも本を持ち歩いていたのか。しかも本棚つきで。熱心だな。普段の通勤時は必ず本を持ち歩く僕も、今回の旅には本を持ってきていない。電車の移動時は窓外の景色を眺めている。

根付。昔も今も、こういうさりげない小物が人の心をくすぐるんだよな。

財布や道中記。携帯することを第一に考えたコンパクトな旅行ガイドはいいね。今の旅行ガイドはまるで写真集のように無駄に豪華に作られ過ぎている気がする。

小田原提灯。折り畳むと上下の枠が組み合わされて袂や懐中に入るサイズとなるという。これまた携帯重視、旅のお供としてよく考えられた逸品。

箱根寄木細工。展示物はこの後、槍・刀・鎧・兜などの武具が続くが、僕の興味を惹くのはこうした生活に根ざした品々だ。

箱根関所の通行手形。

この城の住人といえばこの人、北条早雲

展示物も楽しいが、羽のないこの扇風機もちょっと楽しい。館内にクーラーはなく(場違いなので当たり前か)、この風がありがたい。

天守閣の最上部へ。この方向、海沿いを走る東海道線の窓からこの城は見えた。

小田原駅方面。駅舎はモダンな曲線の屋根をしている。

一昨日登った箱根明神ヶ岳方面。西日が厳しい。

急ぎ足で小田原駅に戻り、駅弁を買ってホームに下りると、電車が停まっているのに自分の乗る号車が見当たらない…と思ったら、箱根湯本からやってきて、停まっている電車の後ろに連結された。17:04発。18:18新宿着。


<旅の会計> 31458

■1日目 13855
JR 新宿~小田原 1450
伊豆箱根鉄道 小田原~大雄山 270
おにぎりと菓子パン 511
伊豆箱根バス 仁王門~道了尊 190
箱根登山鉄道 強羅~小田原 650
JR 小田原~伊東 650
ホテル 9900 
ミルクティーとソフトクリーム 234 

■2日目 11030
東海バス 伊東郵便局~天城高原ゴルフ場 500
東海バス 浄蓮の滝~湯ヶ島温泉口 240
ホテル 10290

■3日目 6573
東海バス 木太刀温泉~修善寺駅 730
伊豆箱根鉄道 修善寺~伊豆長岡 270
韮山反射炉 100
伊豆箱根鉄道 伊豆長岡~三島 320
ミルクティー 105
JR 三島~熱海 320
熱海遊覧船 1100
ジュース 110
JR 熱海~小田原 400
小田原城 400
小田急 小田原~新宿 運賃850 特急料金870
弁当とお茶 998

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箱根・伊豆 2日目(天城山縦走)

2013-07-07 23:00:00 | 旅と散歩と山登り
伊東市街にあるホテルを出ると、照りつける陽射しが強烈で、バスを待ちながら日焼け止めを顔に腕に塗りたくったのだが、バスが標高1050mの天城高原ゴルフコースを目指して登っていくにつれ、あたりには濃い靄がたち込め、ついにはワイパーを使うほどの水滴がフロントガラスを打つようになった。
8:52 50分ほどバスに揺られ、終点、天城高原ゴルフコースへ。一帯は白い霧に包まれている。僕はゴルフはしないが、こういう天候でもゴルフはできるのだろうか?ここから旧天城トンネルまで、天城の尾根を縦走する17kmのコースを歩く。今日のコースの最高地点、万三郎岳頂上との高低差は356m、「山登り」というより「山歩き」。

今日のような天候が作り上げたのだろうか、人工のコンクリ堰も味わい深く苔むしている。

ところどころにアマギツツジが咲いている。落ちた花がピンク色に敷き詰められている。

緑一色の中を清らかな水が流れ、まるで日本庭園のようだと思う。

…いや、本当は、日本庭園の方がこういう山の自然を模して作られているんだよな。主従の順から言えば。

幹が茶色く艶やかに光る木々(ヒメシャラ?)が、露に濡れてますます輝く。“人間の感覚”で言えば「ぐずついた」とでも呼ぶべき今日のこんな空模様は、実は森の植物たちにとっては、一番生き生きとできる気象条件なのかも知れない。そう思うと、この中を歩く自分もやはり自然の一部、馴染みの気持ちが湧く。

9:49 万二郎岳頂上(1299m)。風が強く、視界もない。今日のドリンクは、昨日宿のそばのスーパーで買ったペットボトルのミルクティー。甘さが疲れに効く。

すれ違う登山者が「あいにくの天気だねー」「(彼が過ぎてきた、僕がこれから向かう)万三郎岳もこんな感じだよ」と言う。確かに視界こそ優れないが、木々の「生気」と「精気」をまざまざと感じ取れるこの雰囲気、僕はかなり好ましく思っている。今日も下界は猛暑のはずで、それを考えれば、暑さに煩わされずに済むこの状況は「恵まれている」のではないかとさえ思う。

幹に様々な苔類が貼り付き、絵画のような色彩を描き出している。

今日の登り始めから絶え間なくこのセミの鳴き声に包まれている。ちょうど近くの幹にとまっていたので接写。(帰宅後調べたら「エゾハルゼミ」のようだ)。他のセミより少し早いこの時期に、山の中でだけ聞く「ギギギギ…」という鳴き声。セミはなんでもそうだが、この小さい体によくぞこれだけの音量を出力できるアンプを搭載しているものだと思う。

山でよく見かける白い花。シロバナコアジサイ。

10:51 万三郎岳頂上(1405m)。いわゆる「天城山」の最高峰。やはり眺望はきかない。腰を下ろすこともなく、再び歩き出す。

黙々と歩き続けているが、足元のゼニゴケの美しさに立ち止まる。

今日のコース上にはずっとこの黄・青ツートンの道標が出ている。なぜこの配色にしたんだろう?スウェーデン国旗を思わせる。

ブナの原生林を行く。ブナの葉は腐りにくいため落ち葉が層を成し、保水力の高い環境をつくるのだという。水源林でよく聞く樹種なのはそのためか。

11:22 「ヘビブナ」。幹が上下にうねっている。盆栽じゃあるまいし、どんな力が加わってこんな風になったんだろう?根を傷めぬよう、そばには近寄らずに拝む。

ビロードのようなコケのカーペット。

倒木を覆う、成長旺盛なキノコ。

12:48 八丁池。天城山の火口湖。スタートからここまで、濡れた場所しかなかったため、ずっと腰を下ろすことがなかったが、ここは一区切りの場所かなと、池のほとりの木の柵にしばし腰かける。天城トンネルまでの歩程は残り3分の1強。

周囲の長さが「八丁」(一丁=109mというからだいたい870mか)ゆえ「八丁池」というらしいが、対岸はおろか、岸を離れて数mで視界は霧に閉ざされてしまうから、波こそないものの、海を見ているような寄る辺なさがある。この辺りには天然記念物のモリアオガエルも生息しているという。まさかそれを捕まえようとしているわけじゃないだろうが、大きな捕虫網を振り回す大人の一行がいた。山に入る理由は人それぞれだなと思う。

まるで彫刻のようにダイナミックな存在感のある幹。人間の裸の肉体を見るかのような生々しさもある。

14:29 天城峠。「天城越え」とはまさにここを越えることなのかなあ。何の変哲もない山道だけど、石川さゆりのあの曲のことを思うと、妙におどろおどろしい情念の気配を感じてしまう。

14:41 天城トンネルの袂に下りる。バイク乗りの人が記念撮影をしている。

トンネルの内部。石積みで作られた様子がわかる。てっきり徒歩専用かと思ったら、車が走っているので驚く。幅は一車線分。「陸の孤島」だった南伊豆の人たちの熱望により、明治37(1904)年に開通。全長は446mで、現存する石積道路トンネルとしては日本最長だという。

さらに山を下ると、新天城トンネルが。トラックや観光バスが轟音を立てて通り過ぎる国道トンネル。

天城大橋の上から山並みを仰ぎ見る。今日の下界はこんな晴天だったんだなあ。

15:11 このテーブルで靴下を脱いでしばし休息。バス停が近くにあるが(その名も「水生地下」。てっきり「地下」にあるバス停かと思ったら「すいしょうち・した」だった)、陽はまだ高いのでもう少し歩いてみようと思う。目標はここから6.2km先の浄蓮の滝。

擬木の柵なのに、苔が生えて、いい風合いに仕上がっている。この沢沿いに歩くコース。

沢の対岸のワサビ田につながるモノレール。静岡と言えばワサビだもんな。江戸後期、江戸前の握り寿司に用いられるようになってから、その良質な香りと辛味で「天城のワサビ」は広く知られるようになったのだという。このあたり、ワサビ田が多くあるが、盗掘が多いのだろうか、結構厳重に柵で囲われている。

15:31 「天城ゆうゆうの森」の片隅に留め置かれた森林鉄道の車両。どこに路線が通じていたのだろうか?由来の説明書きは見当たらない。室内がむき出しになっており、結構荒れていた。

てっきり機関車と客車だけかと思ったら、その後ろにもう2両、丸太を積む貨車があったよ。丸太の上から木が生えて、森の一部のようにカモフラージュされていた。

渓流沿いを行く気持ちの良い道。観光目的で近年整備された遊歩道かと思いきや、江戸時代に作られた、三島から下田まで通じる「旧下田街道」だという。開港のため下田に上陸したハリスの一行もこの道を行き来したとか。

16:13 浄蓮の滝へのルートから1.3km外れて、これを見にやってきた。太郎杉。天城山中で一番大きな杉の木で、推定樹齢400年、樹高48m、根回り13.6m。林野庁が選定した日本の代表的な巨木「森の巨人たち百選」のひとつ。今日の山歩きはいつになく木の美しさに魅了されていたように思うけど、その締め括りとして。「万二郎」「万三郎」はいたけど長男の「太郎」はいないな…と思っていたけど、ここに太郎がいた。「巨木を訪ねる旅」というのもいいかも知れない。大きいこと、歴史を重ねていることは、無条件に畏敬の念を抱かせる。「百選」と言えば、先ほどの旧天城トンネルも「日本の道100選」「日本百名峠」に選ばれているという。いろいろあるなあ。僕は深田久弥の「日本百名山」を意識して登っているが(今日の天城山で45座目)、いろいろ“コレクション”し出すと切りがなさそうだ。

日が暮れる前に浄蓮の滝まで着きたい。バスがあればバスに乗っちゃってもいいかなと思うけど、ちょうどいい時間のバスはない。歩くペースを上げる。上げながらも、道端に深いブルーの可愛らしいヘビを発見。トカゲのような小ささ。デジカメの操作に手間取っているうちに、赤と黄のお洒落なデザインの頭は枯葉の下に潜ってしまった。

横光利一や島崎藤村の文学碑を見ながら歩き続ける。文豪もこの道を歩いたのか…と思うが、碑を読むと、馬車だか籠だかに揺られての旅だったようで、ひたすら歩いている僕とはちょっと違うようだ。
17:28 浄蓮の滝。高さ25m、滝つぼの深さ15m。入口から沢に下りていくと、気温がぐっと下がるのがありありとわかる。沢の水に足を浸して休むが、水が冷たくて1分と持たない。バスまで30分ほどあるのでのんびり休む。休んだ後、再び沢の道を登っていくと「あったかい…」と思う。それくらい滝のそばは涼しかった。
やってきたバスに乗ると、客は僕ひとりで、問われるままに天城高原ゴルフコースから山を歩いてきたと答えると、運転士は、懐かしいな、自分は昔伊東の営業所にいてあの路線を運転していた、あのゴルフ場は会員制の高級クラブなのでトイレも貸してくれなかった、細い山道ですれ違う車も高級車ばかり、運転に気を使った…等々と、いろいろお喋りをした。今朝ゴルフ場まで乗ったバス(同じ東海バス)の運転士が無愛想だった(乗る時に「整理券は取らなくていいですか?」と訊くと「ないない!」とぶっきらぼうに答えるような)のに比べてえらい違いだ。6分ほどで湯ヶ島温泉に着く。今晩は湯ヶ島温泉泊。今日歩いたのはおよそ28km。


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箱根・伊豆 1日目(明神ヶ岳登山)

2013-07-06 23:00:00 | 旅と散歩と山登り
昨日の夕方、仕事をしながら、「月曜に休みを取って、明日から3日間、旅に出よう」と決めた。突然の決断なので、東京からの移動があまり大げさでない距離圏…箱根・伊豆方面にしようと思った。10時頃まで残業に追われ、帰宅後の深夜、もう11時も回ってから、おおまかな行程を固め、ネットで宿を取った。あれこれプランの中身を詰めて下調べをし、1時過ぎに床に就いたものの、「ワクワクしすぎて」と言うより「寝る直前に頭をヒートアップさせすぎて」なかなか寝付けなかった。

それでも朝6時過ぎに目覚めた。ロマンスカーに乗ろうと新宿駅に着くと、ちょうど5分前に成城学園前で人身事故が発生したとのことで、電車が動かない。ロマンスカーの切符も発売中止。人から「チッ!」と舌打ちされるような死に方をしちゃダメでしょと言ったばかりなのになあ…。JRの湘南新宿ラインで小田原へ。
8:57 伊豆箱根鉄道大雄山線に乗る。

9:24 終点・大雄山駅。駅前からバスで「道了尊」こと大雄山最乗寺へ行き、そこを出発点に明神ヶ岳に登ろうと思う。

次のバスまで30分近く時間があったので、少し先のバス停まで歩くことにする。天気予報では今日は猛暑になると言っていたのに、空には雲が厚く垂れ込め、ぽつぽつと雨もぱらついている。

山麓から続く参道の坂道を登り、仁王門へ。沿道には、道了尊の参拝客を泊めていたのが由来と思われる宿も何軒かあった。青紫のアジサイが綺麗。

阿吽の金剛力士像。どことなく漫画っぽいユーモラスさがある。途中のコンビニで買ったあんドーナツをぱくつきながら、バスを待つ。

バスはアジサイの咲く道を山へ分け入って行き、7分ほどで終点・道了尊へ。
10:02 境内を行く。濃い緑に覆われた、霊験灼たかな場。

ここには小学生の時に遠足で来たことがある。「大きな下駄がある寺」だったのもよく覚えている。天狗の履物。下駄は左右一対が揃って役割をなすところから、「夫婦和合」の意味も持つという。

本堂をお参りする。僧堂を覗き込むと、紫色の饅頭のような座布団が縁台の上に並ぶ座禅の場があり、この寺が禅宗(曹洞宗)の修行道場であることを気づかせる。

さらに奥へ。

奥の院へ上がる階段。なかなか急なうえに長い。それでも、杖をついたお年寄りが前を行くのが見える。自分だって登らないわけにはいかない。

奥の院へ登って戻ってくると、あれ?さっきとは別の大下駄がもう1組。自分が小学生の時に見たのはどっちだろう?記されている奉納年を見るに、先ほどのが僕が小学校の遠足で見たもののようだ。

洗心の滝。水の満ちるところ、緑が美しく広がる。

10:34 境内の脇から登山道へ入る。頂上までの高低差は860m。雨はさほど降っていないが、梢からぽつりぽつりと水滴が滴り落ちてくる。風が強く、木々を揺らす音は嵐を思わせる。

11:40 木立ちが途切れ、開けた場所に出た。かつてはリフトでも通じていたのだろうか、鉄塔が立っている。

天気はぐずついたままだが、後ろを振り返ると、小田原市街、曽我丘陵、相模湾が見渡せた。僕以外に登山者などいない道のりに思えたのに、ここに来て何組かとすれ違う。

靄がたち込め、ますますしっとりとしてきた緑の中を行く。天気予報、徹底的にハズレだな…と思う。
(しかし下山後に宿でニュースを見たら、今日の関東は何百人も熱中症で救急搬送されたほどの猛烈な日照りで、梅雨明けも宣言されたという。山の天気は平地の天気と違うのだ、平地の天気予報を見てもダメなのだ、ということを思い知る)。

12:44 明神ヶ岳頂上(1169m)。この山には何年か前にも登ったことがあり、富士山や箱根外輪山の見晴らしが良かったのを覚えているが、今日は何も見えない。まして、稜線上に出てから風の勢いがいっそう激しくなり、ほとんど「突風」に近い。持ってきたおにぎりを食べるのも躊躇われる。すぐに歩き出す。

以前この山に登った時は、隣の明星ヶ岳まで足を伸ばし、来た道を元通りに明神ヶ岳、道了尊と戻ったのだが、今日はこれ以上歩き続けても楽しめそうにない。一番近い下山口、宮城野を目指す。お腹が空いていたので、風をしのげそうな途中の木陰でおにぎりを立ち食い。
13:54 だいぶ山を下りてきた。別荘地脇の山道を行く。水を流すために掘られた溝の横に「一握りでも結構ですから土砂の取り除きにご協力ください」と切実なメッセージの看板が。だが、溝はもはやどうにも手のつけようもないほど土砂で埋まり、植物が生い茂っていた。

14:35 宮城野の里に下り、早川の渓を渡り、対岸の急勾配の坂道を上がり(箱根登山鉄道もこの高みを登り詰めているのだな…ということがよくわかった)強羅駅へ。ひと気のない山道を歩き続けてきた身としては、カジュアルな観光客が大勢たむろする駅前には苦手意識をおぼえてしまう。今日の風の強さはやはり特別なようで、ロープウェイは運休しているという。

駅構内にはケーブルカーが乗り入れている。父の会社の保養所がこのケーブルカー沿線にあったから、子どもの頃の夏の旅行は箱根が定番だった。でも、ケーブルカーの車体はその頃とはだいぶ違って真新しい。

すでにホームに停まっていた電車は満席だったので見送り、次の電車まで15分待ったのに、なんてこと!来たのはロングシートの車両。しかも、先ほど出たのが3両だったのに対し、こちらは2両しかない。ナントカツアーのご一行も乗り、車内は立ち客もいっぱいの混み具合に。興が殺がれるなあ。いっそもう1本見送ろうかとも思ったが、次の電車がまたロングシートでない保証もない。これで我慢する。それでも、窓の外をこまめに眺めて、日本で最も急な路線勾配や、3箇所のスイッチバック、線路沿いに植えられたアジサイなどを堪能する。僕の腕時計には高度計測機能がついているが、ぐんぐん数値が下がるので、おーっ、と思う。強羅と箱根湯本の高低差は445m。

15:35 箱根湯本駅。朝方の人身事故の余波はこの時間も、そしてこのエリアにも及んでおり、小田原への電車(小田急の車両が箱根登山鉄道の赤色に塗られている)は10分遅れて出発した。

小田原から東海道線で熱海へ。熱海からは伊豆急行の車両「リゾート21」に乗る。海側を向いたシートなどがゆったり配置された「サロン」を思わせる車両で、1つ1つの座席もゆったり大きめにできている。これを特別料金なしの普通列車として走らせているのは実に立派。東急の通勤車両のお古も走っているが、こちらもきちんとクロスシートに改造されている。JRも含めた地方鉄道は、観光で興そうと思うなら特に、これをぜひ見習うべきだな。
16:59 たった20分の乗車、もう少し乗り続けたい未練に駆られながら、伊東着。

「お湯掛け七福神」のいる商店街を抜けて、ホテルへ。

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品川駅・港南口自由通路が嫌い

2013-07-04 23:58:02 | 雑感
所用で降りることのある品川駅。
改札口を出て港南口へ向かう自由通路は、僕が好きになれないスポットの一つだ。
通路幅の広さや天井の高さは開放的で悪くないが、あの中を大量の人間が行き交うさまがなじめない。
あちこちから湧いてきた人たちがみな、この通路に合流して太い流れをなす。
「下水道本管」という言葉が頭に浮かぶ。人がモノのように画一的に押し流されている、そういう感じ。
港南口を外に出たところの無機質な巨大ビル群や、
それらをメカニカルにつなぐぺデストリアンデッキの光景も、薄ら寒さを強めさせる。
駅ナカが充実していて便利だと言われる品川駅だけど、例えば横須賀線ホームから港南口へ出ようとすれば、
いったんずっと西側に歩いて中央改札を出て、また東側へ戻るという不便な迂回を強いられる。
とにかく人の通行量が多いから、ここぞとばかりに「宣伝媒体」のモニターもずらりと柱に掛けられる。

要するに、経済原理ばかりが横行している空間なんだよな。
人がたくさんいるところ、人が大勢通り過ぎるところにこそ商機あり…ってか。

山田洋次が小津安二郎の『東京物語』をリメークした映画『東京家族』、
僕はダイジェスト告知映像しか見ていないけど、
広島から息子たちを訪ねて上京してきた老夫婦が降り立ったのは、まさしくこのコンコースだった。
老夫婦と東京との違和は、まさにこの光景の中から始まっているのだ。

巨大な排水溝に浮かぶあぶくと化して、
黒い人のうねりが絶えず流れていく。
人の動きがコントロールされる街。

巨大な構造物に天を覆われ、
影の中を人は前屈みで通り過ぎる。
人の縮尺が極度に縮められる街。

巨大な機器類が一帯の呼吸を司り、
物語を謡う人の声は吸い込まれて聞こえない。
人の記憶が刻まれることのない街。

巨大な人工物が空間を埋め尽くして、
空気の肌触りとにおいは瞬時に均される。
人が誰であるかの識別は必要とされない街。

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見知らぬ町のランチ

2013-07-03 23:46:43 | 今日の出来事
羽田の方で仕事があった。海辺に近いのでひときわ風が強かった。
用事を済ますと、ぶらぶらと歩いて穴守稲荷をお参りし、
道端にいたおじいさんに駅はどちらですか?と尋ね(耳の遠い方だったので何度か問いかけを繰り返した)、
教えられたとおりに歩き出すと、電車の通過音が聞こえてきて、
なんだ、実は人に訊くまでもないほど駅は近かったんじゃないか、とわかり、
駅前通りを歩き、遅い昼食がとれそうな店を探した。
めぼしい店はなく、中華料理店に入ったんだけど、
椅子に座ろうとすると水滴が垂れていたのでまずはそれを卓上のティッシュで拭い、
そうして腰を下ろしても、店員は調理にかかりきりで声を出すでもメニューを出すでも水を出すでもなく、
あまりにも所在ない感じが強すぎて「なんか違うぞ…」という気分になり、
気がつくと椅子5脚くらいしかない手狭なカウンター席で先客がタバコを吹かしているのを見て
いやいやこりゃたまらないなと思い、力まず、企まずに、そっと店を出た。
もう1回駅前通りを歩き、今度は足を伸ばして角を曲がってみると、焼肉屋があった。そこに入った。

入って席に着いた途端、よどみなくメニューが出て、水が出て、おしぼりが出て、
やっぱりこれが自然な空気だよな…と思いつつ、「ハラミ・ロース定食」(800円)を注文。
先客はおばさん3人連れのグループ。「さすがは常連よねえ」などと声が聞こえるから、
メンバーの誰かはこの店の常連で、誰かは初めて来店したんだろう。

肉が来る。網で焼く。美味かった。
ご飯が大き目の茶碗にたっぷり盛られており、こんなに食べ切れるだろうか?と思ったが平らげてしまった。

食べている最中に30~40代の男性1人客が来店。
店の女将に「今日は何にします?」という言い方で注文を聞かれているから、常連なんだろう。
ジョッキのビールを注文。ラフな装いから察するに、今日は仕事が休みという近隣住民か。

満足して店を出る。
穴守稲荷の駅に着くとちょうど電車が入ってきたけど、駆け出す気にはなれなかったからやり過ごす。
ホームに入って時刻表を見ると、この時間帯は10分おきの運行。つまり、あとおよそ10分の待ち。
ベンチに腰掛けて、通過列車を眺めたり、向かいのホームで清掃員の男性がベンチを丁寧に拭くのを見たり、
あのひっつめ頭の女性3人組は空港勤務の人だろうか、
クーラーボックスのおじさんの一行は多摩川河口か羽田沖で釣りをしてきたんだろうか、などと観察したり。
ようやくやってきた電車は京成のお古の北総鉄道の車両で、かなり年季が入っていた。
車内の壁面の色は「らくだ色」とでも言えそうな色味で、時代を感じさせた。
蒲田駅に入る高い高架橋からは車窓に東京スカイツリーと東京タワーを一緒に見ることができた。

恐らくこれから一生降りることのないであろう駅と、
恐らくこれから一生訪れることのないであろう町。そこで食べたランチ。
人生のかすかな1コマ。

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