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【東京8:40―(のぞみ17号)→10:11名古屋10:24―(中央本線快速)→11:27恵那駅】
名古屋から乗った中央本線はロングシートでがっかりしたが、8両も連なってガラガラだったので、いちばん車端部の席で壁に寄りかかるように斜めに座って外を眺めた。名古屋から春日井、多治見、土岐、瑞浪、恵那と、通るのは全部「市」だが、決して市街地ばかりではなく、特に愛知・岐阜県境では長大トンネルと山深い渓谷沿いを走ったりもして、意外と変化に富むのだなと思った。
恵那駅から出る明知鉄道に乗る。切符の自動券売機はなく、1つしかない窓口で駅員に行先を告げて買う。駅員は切符を何かの機械に通した上で(日付を印字しているのか、パンチ穴を開けているのか)、あらためてパチンと鋏を入れる。いまどき珍しい悠長さ。出発時刻(11:38)は過ぎているが、乗客が全員切符を買い終わるまで発車を待っている。
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硬券の切符。決して記念切符ではない。この切符で列車に乗り降りするのが明知鉄道の日常なのだ。あれば買おうと思ったが、「全線1日乗車券」のようなものはないみたい。どこまでも実直というか、融通が利かないというか。
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12:08 路線の中ほど、昔ながらの町並みや城跡がある岩村で下車。ここで対向の列車と行き違う。線路脇には「腕木式信号機」が。平成16年まで実際に使われていたという。
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駅舎の内部の様子。すぐに町に歩き出してしまうのが惜しいような居心地の良さ。
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駅前はきれいさっぱり整備されている。
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家々と田んぼが緩やかな傾斜地に広がっている。新幹線に乗り、電車を乗り継いで…と朝から慌しく動いてきたけど、ようやく「旅先」に来たかなと、息をつけた気がする。
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昔ながらの町並みが残る通りに出る。昼下がり、路上にはひと気がほとんどない。
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材木や年貢米を扱い、岩村藩内でも有数の商家だったという勝川家の内部。
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中庭に面した縁側の雰囲気がいい。通りから奥まった所に秘められたふんだんな緑。邸の隣の建物はギャラリーになっており、廃材の電線を用いた、素人のかくし芸のような脱力ダジャレ系の作品が展示されていた。なんとものどか。
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岩村の町の古い建物は、観光客向けのつくり物ではなく、町の人のための現役の商店として使われているところが素敵だ。履物屋さん。
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その向かいの薬屋さん。
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通りを抜けると、徐々に道に勾配が出てくる。太鼓楼。城下に時を報せたという。
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岩村城は「日本三大山城」の1つだそうだ。その城へ向かう道。山道の様相を呈してきた。セミの鳴き声の合唱が濃くなる。
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二の丸、本丸の石垣が見えてきた。
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13:16 標高717mという本丸跡。江戸諸藩の府城の中で最も高い所にある城だという。1185年に源頼朝の重臣・加藤景廉が築城。高低差180mの天嶮の地形を巧みに利用した要害堅固な山城で、霧が湧きやすいため別名は「霧ケ城」。今は霧はなく視界は良好。山並みを望む。明日登る恵那山もどこかに見えているのだろうか。
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頂上の様子。麓の城下町は木々に隠れて見えないが、もしかすると僕が乗るかも知れなかった明智行きの列車の汽笛が聞こえてきた。次の列車の時刻に合わせ、岩村での滞在は1時間にするか2時間にするか迷っていたのだが、町を歩いていると、慌てて去ってしまうのは惜しいような気持ちになり、列車を1本見送ることをもう決めていた。
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14:01 再び町へ下りてくる。自販機でレモンスカッシュを買い水分補給。「町の食料品店」の佇まいながら、中に入ると意外なほど惣菜売場が充実している店でクリームとチョコの二色パンを買う。お釣りの1円玉を切らしているとかで、4円のところを5円玉、1円おまけしてもらった。地元の画家の作品を展示するギャラリーになっている古商家では、係の女性の方が丁寧に案内してくださる。町並みは今年3月に電線の地中化工事が終わり、すっきりとした景観になったのだという。
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岩村駅へ。丸型ポストが現役。その隣に、地元出身の江戸の儒学者・佐藤一斎の格言の碑が。通りに面した家では、1軒1軒にこの佐藤一斎の格言が書かれた木札が吊るされていた。
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岩村駅のホーム。青地に白抜きの平仮名駅名票、駅舎から張り出した屋根、それを支える色褪せた木の柱、まっすぐ伸び行く線路…こういう眺め、「旅をしている」という実感が湧いてくるね。
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恵那から岩村まで乗ってきたのと同じ列車がやってきた。「valor」という、何と読むのかちょっとわからないスーパーの広告電車。14:20発。
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14:40 終点・明智着。「ディーゼルカーの運転体験」ができるそうで、いかにもぎこちない感じでディーゼルカーが側線を行き来している。
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恵那市の旧明智町は、町全体が大正時代の面影を残しているといい、別名「大正村」。板塀の細い路地。
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山に取り付く急な階段が見え、登れば町が見渡せるかなと、上がってみる。八王子神社。明知鉄道の「ディーゼルカー運転体験」で鳴らしているのだろうか、とってつけたような汽笛がたびたび駅の方から響いてくる。
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祭りがあるらしい。通りには赤い提灯の下がる笹が掲げられている。先ほど、神社の鳥居でも、男たちが脚立に上って電球のコードを取り付けていた。
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明治39年に建てられた旧町役場庁舎。中は資料館。靴を脱いで上がるのだが、履いているのは登山靴。どうしても脱ぎ履きが億劫になってしまう。奥には入らなかった。暑さのせいか、物を丁寧に見ようという気力もちょっと失われている。日本の最高気温記録(40.9℃)を叩き出したのもここ岐阜県(多治見市)。そりゃ暑いはずだよなと思う。
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緩やかな坂から石段を登りつめた正面にある、明治10年に建てられた旧小学校。中では、なぜか9.11アメリカ同時多発テロを題材にした絵が展示されていた。
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山に抱かれた古民家。元禄元年(1688年)に普請されたという旧三宅家(移築)。ボランティアの人が虫除けのために囲炉裏に薪をくべているのは
先日訪ねた日本民家園と同じ。家の中には厩があるのだが、壁の柱の下半分が途切れている。これは、火事が起きた時に土壁を壊して広げて馬を逃がせるよう、敢えてこの部分だけ柱を地面まで通していないのだという…係の男性がそんな解説をしてくれる。
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三宅家を出たところ。町を見下ろす。右手には、“バブル時代の遺物”のような仰々しい洋館(「大正ロマン館」)が建っているが、素通り。
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明治8年に開局したという旧郵便局(左:現在は「逓信資料館」)と、隣り合わせの現郵便局。
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なかなか風格ある建物だが…カラオケスナックのようで、おばちゃんの演歌の歌声が遠慮なく通りに漏れ出している。「土曜の午後」って感じだね。
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「空き店舗を改装してギャラリーにしました」という「街角ギャラリー」。ガラス戸越しに覗き込んでみると、薄暗い土間にプラレールの線路が敷かれ、車両が並んでいた。
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町並みが続く。大勢の観光客が練り歩くような通りではなく、静かだ。
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左は木曽路。三河地方から塩や織物を運んだという南北街道。まっすぐは伊那路。飯田地方から繭や薪を運んだという中馬街道。その交差点。右手後方、岡崎方面に至る道に入る。
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生糸生産の盛んな頃、旅人や馬子を相手に酒やうどんを売る店が並んだという「うかれ横丁」。なんとも楽しげなネーミング。今は店はないが。家の渡り廊下が通りを跨いでいる。考えてみれば、渡り廊下というのもなかなか楽しい建築だ。「空中廊下」という別名もいい。
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夏によく目にする植物。ノウゼンカズラ。
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小川を渡る。十六銀行という銀行が見える。「ナンバー銀行」を見かけると、地方に来たなあと思う。十六銀行は岐阜が地盤の銀行。
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観光案内所。広場には祭りの櫓が立ち、提灯が連なっている。広場の向かいには広告電車のスーパー「valor」が。読みは「バロー」だって。登記上の本社がここ恵那にある、岐阜県を本拠とするスーパー。プライベートブランドの500mlペットボトル烏龍茶が38円と驚異的。それで喉の渇きを潤す。
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明智駅ホーム。乗ったこの列車、残念ながらロングシートだった。
16:07発。何かのスポーツ教室にでも通うのか、エナメルバッグを提げた女の子が1人乗っている。シートに浅めに腰掛けている感じ、手足の伸ばし方のぎこちなさ、いかにも子どもっぽいなと思う。列車の吊革は年間5000円で広告が付けられるみたいだけど、ずらっと並ぶうち、広告が付いているのは、どこかのジャズバーのが1つだけだった。
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前面展望。路線はなかなか起伏が激しいようだ。高度計測機能のある僕の腕時計も、数値がよく変化する。ディーゼルカーの走りは車のそれに似ていて、峠を登る時はエンジンの唸りを高鳴らせ、峠を越えると途端に惰行に入ってすっと音が消える。
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行きの列車でも「視界の歪み」が明らかだったので目を引いた。33‰(1000分の33)、「勾配日本一の駅」だって。飯沼駅。この画像、車内から見た車両ドアの枠のラインとホーム待合室の壁のラインの傾き方の違いでそれが伝わるだろうか?(車両=線路は向かって右側、恵那方向に下がっている)。
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飯沼駅から先、客席側に半分開いた構造の運転席で、運転士は隣に立った父子連れと終点の恵那駅のホームに停まるまでずっとお喋りをしていたので、ずいぶん「自由」だなと思った。「走行中は運転士に話しかけないで下さい」ってものかと思ってたもんな。これぞ、素人にディーゼルカーを運転体験させる鉄道の文化なのかも知れない。
16:56 恵那駅着。
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恵那ではレンタカーを借りることにしているが、その前に町を見ておこうと思う。恵那は中山道の宿場町。昔の街道を歩く。
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橋の欄干に歌川広重の「木曽海道六拾九次」の絵が。日本橋から46番目のここ、大井宿の絵。往時を偲ぶには季節感がずれすぎてるな。
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絵に描いたような「角の煙草屋」。今回の旅、見かけた郵便ポストは全部この「丸型」だったような気がする。
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いいなあ、この凛とした佇まい。
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大井宿本陣跡。
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18:05 レンタカーを借りて恵那市中心部からおよそ4km、恵那峡へ。大正13年、木曽川をせき止めて造られた日本初の発電ダムである大井ダムによってできた人造湖。すっかり陽も傾き、湖畔のホテルから浴衣を着た人が散歩に出てくる。もうそういう時間帯だよなあ。
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対岸にある遊園地の観覧車と、恵那峡大橋。
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立派な膨らみの蓮の蕾が。左側のこれ、そうか!これがいわゆる「蓮口」ね(花が散った後の花托)。ジョウロの先に付いてるあれ。
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天然記念物のキノコ岩…もとい、「傘岩」。粗粒の黒雲母花崗岩が雨水の侵食や風化で削られたもの。高さ4.5m。頂部の周囲が10mを超えるのに対し、いちばんくびれた部分は2mしかないという。
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千畳敷岩。恵那峡には奇岩・怪石が多いのだという。
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千畳敷岩の真ん中から湖を望む。日が沈む。誰もいない。今日も1日歩き回ったなあ…さあ、ホテルへ。