tokyo_mirage

東京在住・在勤、40代、男。
孤独に慣れ、馴れ、熟れながらも、まあまあ人生を楽しむの記。

タクシー好きか嫌いか あるエピソード

2017-02-09 14:37:15 | 雑感
タクシー、好きか、嫌いか。

まあ、嫌いである。料金は高いし。サービスに当たりはずれがあるし。
プライベート、つまり会社の業務以外で乗ったのは、ここ2、3年を振り返っても、
スーツケースを引いた海外旅行の帰宅の際、
雨が降っていたのに最寄駅にバスがなくて乗った1回くらいである。
我が家までは初乗りで済む距離だが、あれも新運賃制度(初乗り1.052kmまで410円)なら
もう少し安くなるだろう。それにしたって、1人ならバス利用より高いが。

仕事でも極力使わない。少なくとも1人では乗らない。
都心なら電車・バス・徒歩の組み合わせで行けないところはない。
タクシーならそれより早く着けるとも限らないし。

社会人2、3年目の頃だったが、よく覚えているタクシーでの出来事がある。

自分より10歳ほど年上の上司と2人、通りで流しのタクシーをつかまえた。
この上司はかなりクセのある人で、だいぶ前に退社して故郷に帰ったとかで今はどうしているか知らないが、
「採用面接で学生を泣かした」というエピソードを引けば、その人柄が伝わりやすいかと思う。
(翌年以降の採用面接で、念入りな事前注意説明が人事担当者からなされるようになったのは、
彼の所業の影響と思われる。「学生と議論する必要はまったくない。
『違う』と思った学生は、説教などしたりせず、落とせばいいだけのこと」)

乗り込んで行先を伝えると、運転士は、
「すみません、今どこにいるのかわからないんです」と言う。
ならば、ここに停まったままでいいから、地図を見て確認してください、と僕が促す。
運転士は地図をひととおり眺めた後、車を走らせ始めたが、
次の信号でやはり「すみません、全然わかりません」と情けない顔で再び言う。

そこで上司はキレた。

「バカ野郎、ここは○○通りだろうが!お前さ、道もわからないのに路上に出るんじゃねえよ。
客を乗せるんじゃねえよ」。

言葉遣いはともかく、まあ、正論である。つづいて、

「レストランのシェフがさ、『僕は新人なのでヘンテコなものしか作れませんでした』って、
ひどい料理を平気で客に出すかよ?
道がわからないんだったら、休日に自分で車を運転したりして、道を覚えようとするんじゃないのかよ?」

まあ筋は通っている。しかし、それに対する運転士の受け答えがいけなかった。
運転士は「反抗的な態度」でではなく、おそらく単純に「あるがままに」そう答えたのだろう。
「正直に答えることは常に正解とは限らず、相手の神経を逆撫でにすることもある」
…そういう簡単な原理に彼は気づけなかったのだろうが。

「会社からそういう指示は受けていませんので…」

そこで上司の怒りは頂点に達した。

「お前さ、運転士やる前に何やってたか知らないけど、
そんなんだから、何の仕事もできずにタクシーの運転士に流れ着いたんだろうが!」

…横にいる人間が怒髪天を衝くほどキレると、不思議なもので、
それに反比例して冷めていく自分がいる。
「人格否定」まですることはない。別に運転士を庇いたいからではなく、単に「ムダ」だからだ。
目の前の交差点に空車のタクシーがいるのを見つけ、上司を引きずり出すように下ろすと、
「すみませんが、お金は払えませんね」と運転士に言い(結局数百mも走っていない)、
空車のタクシーへ向かって先に歩き出した。
振り返ると、上司はドアが閉まる寸前まで、運転士をなにやら罵倒し続けていた。

あれ以来、「新米で道を知らない運転士(たとえば、なりたて半年間)は料金を下げる」ような
制度があればいいのに、と思っているが、実現する見込みはないようだ。