内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

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Policy Essayist

テロ特措法の「条件付」延長を提案する (その2)

2007-09-30 | Weblog
テロ特措法の「条件付」延長を提案する (その2)    <不許無断転載・引用>
―A Proposal for a Qualified Extension of the Law on the Special Measures against Terrorism ―
                                                                 2007.9.22.
1. 日米同盟優先か、国連の枠組み重視か(その1.参照)

2. 集団的自衛権の制限的行使か、国際貢献か
 (1)米国が進めている国際テロ撲滅作戦は、米国の国防活動
「不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom)」と呼称されているアフガニスタンでのテロ撲滅作戦は、ブッシュ政権の下で進められている「テロとの戦争(War on Terror)」の一環であるが、テロ撲滅という世界共通の目的から英、仏、独などの友邦国の参加・支援を求め、国際協調の枠組みを作っており、インド洋やアフガニスタン領内における活動も多国籍活動となっている。国連安保理の国際テロに対する脅威認識もある(決議1368号)。
しかし、アフガンでの「不朽の自由作戦(OEF)」は、基本的には、米国本土の象徴的な世界貿易センターと国防総省へのテロ攻撃に対する国防活動であり、軍事行動である。国連安保理での決議は、このようなテロ活動を「国際の平和と安全への脅威」と位置付けているものの、国際社会に取締りの強化や金融洗浄(マネー・ロンダーリング)への防止など、非軍事的な「テロ行為を防止し抑止するための努力」を求めているのみである。同決議は、その他、「あらゆる措置」を検討するとしているが、軍事的措置を含め、その他の「措置」については、アフガン領内における国際治安部隊(ISAF)のみであり、インド洋の行動については何も決定していない。従って、アフガニスタンのタリバン勢力やアル・カイーダ・グループへの軍事攻撃「不朽の自由作戦(OEF)」は、国際テロに対する国連安保理の脅威認識はあるものの、国際治安部隊(ISAF)を含め、あくまでも米国を中心とする参加各国の国家としての行動である。安保理の容認する国際協調活動とは言えるが、これら各国の国家としての活動であり、特にインド洋での行動は、「国連の枠組みでの活動」とは言えない。
9月19日、国連安保理は、アフガニスタン領内で行われている国際治安部隊(ISAF)の活動の延長に際し、前文に「各国の海上阻止行動を評価し」との一文を盛り込んだ決議を採択した。日本の働き掛けなどで盛り込まれたものだ。しかし、この決議は、あくまでも日本が参加していないアフガン領内で行われている国際治安部隊の活動の延長に関する決議であり、インド洋での「海上阻止行動」については前文での評価に止まっている。その上、ロシアはこの決議に「棄権」し、投票理由説明で、インド洋における海上活動は、「国連の枠外で行われている活動」あり、実施国の「国内事情優先」の文言挿入であるとし、また、中国も、賛成投票はしたが、このようなことは繰り返されるべきではないとの苦言を呈するなど、安保理内での「海上阻止行動」への評価は必ずしも一致していない。
因みに、米国のイラクへの軍事侵攻「イラクの自由作戦(Operation Iraqi Freedom)」は、国連安保理は、イラクにおける「核など、大量破壊兵器の開発」に対し脅威認識を示したものであり、サダム・フセイン政権自体に対するものではなく、国際テロ撲滅という国際的に共有された目的のためのアフガニスタンへのケースとは根本的に異なる。
 (2)不十分な情報開示
テロ特措法の下での日本の補給・輸送協力活動は、インド洋において活動する米国等の艦船(米、英、仏、独、パキスタンなどで構成される多国籍海軍合同任務部隊―CTF150)に、海上自衛隊の艦船(補給艦、護衛艦)より給油や水の補給などを行うものである。2001年12月より07年3月までに、艦艇用給油合計727回、約47万キロリットル(約220億円相当)の給油を実施している。その他、水97回(5千トン強)、艦艇搭載ヘリコプター用燃料56回(900キロリットル弱)の補給を実施している。米国艦船以外にも、英、仏、独、パキスタンなど、10カ国の艦船にも補給を実施しているが、給油の内50%弱を米国、次いで16%をパキスタンが受けている(海上自衛隊資料)。しかし、給油を受けた艦船がどのような海域で、どのような活動をし、「対テロ活動」においてどのような成果を達成したかなどについては十分な情報は開示されてない。また、アフガニスタンへの攻撃直後の集中的な攻撃期間は兎も角として、6年近く経過した現在も当時と同レベルの補給活動が必要かなど、費用対効果を含めた検証も必要であろう。
この海域で活動している米国の艦船は、第5艦隊(5th Fleet)/米海軍中央司令部に属し、インド洋から、アラビア海、湾岸、紅海、東アフリカまでをカバーし、アフガニスタンのテロ撲滅を目的とする「不朽の自由作戦(OEF)と共に、 イラク侵攻に伴う「イラクの自由作戦(OIF)」の遂行を中核的な任務としている。対アフガン・テロに対する「不朽の自由作戦」については、実質的に第5艦隊を中心として、英、仏、独、パキスタンなどと共に多国籍任務部隊(CTF150)を編成し、海上作戦任務についているが、多国籍任務部隊(CTF150)の担当海域はインド洋から湾岸、アラビア海、紅海に及んでいる。
 従って、米国の第5艦隊にせよ、多国籍任務部隊(CTF150)を構成する各国艦船にせよ、これらの艦船が給油を受ければ、インド洋海域のみならず、イラク沿岸の湾岸、アラビア海域に任務として行くことは十分考えられる。米国防総省の報道担当官は、テロ対策特別措置法に基づく海上自衛隊のインド洋での給油がイラク戦争にも転用されているのではないかとの指摘があることについて、「日本の補給艦から給油を受けている参加国は、アフガニスタンでの不朽の自由作戦(OEF)を支援するために燃料を使うとの合意の下に活動している」と述べ、イラクへの転用説を否定した旨報道されている(9月8日付読売新聞)。しかし、航行は連続するものであり、日本からの給油をインド洋のみですべて使い果たすとも考え難く、現実問題としては微妙だ。第5艦隊の司令部は、ペルシャ湾のバハレーンにある。余り細かい制約を課すと任務遂行に支障を来たし兼ねないので、ある程度の柔軟性を持たせるとしても、給油を受けた後、どのような任務を行ったかなどは掌握して置くべきであり、また、作戦遂行に支障の無い範囲で公表されるべきであろう。そうでなければ、海上自衛隊の給油活動は、インド洋における単なる給油所となり、これら艦船の運航支援でしかなくなる。
 また、第5艦隊の任務海域に、原子力空母エンタープライズなどの空母艦隊が加わり、艦載機によりアフガニスタン山麓等への爆撃などを実施し、「不朽の自由作戦」他に加わっている。海上自衛隊によるインド洋における米国艦船等に対する給油、補給活動は、原子力空母エンタープライズからのアフガン攻撃には直接関係はないが、米国艦船と共に国旗を掲げて行動し、「不朽の自由作戦」の一環として米国等の多国籍任務部隊(CTF150)を支援するものであるので、「海上阻止行動」とは言え、長期化すると一体化して映ると共に、実質上軍費支援に当たる。
同時に、単に米国への協力というだけではなく、武力の行使・威嚇を伴わないアフガニスタンにおける国際テロ撲滅を目的とした多国籍の枠組みでの国際協調、国際貢献であることも事実である。だが、日本の支援活動が、米国空母よりのアフガン攻撃を含め、米国が遂行する「不朽の自由作戦」と一体化して映ることは避けられない。米国は日本に対して「国旗を見せよ(Show the flag)」、即ち「艦船」を派遣するよう示唆したが、正に「作戦への参加」を意味するものである。費用のみでなく、一定のリスクを伴う国際テロ撲滅のための国際協調、国際貢献なのである。政府としては、国民に対し、このような危険を伴う活動であることを十分説明した上で、国際的な脅威になっている国際テロの撲滅のための国際貢献の継続への理解を求めることが大切であろう。
民主党が、給油活動は、国連の枠組みでの活動ではなく、米国との「集団的自衛権の行使」であるとしている。しかし、実体は、国連も国際的な脅威として認めている国際テロの撲滅のための「多国間の枠組み」の下での支援であり、武力の行使や威嚇を伴わない支援である。だが、国連安保理が「海上阻止行動」に対し何らの「措置」や枠組みを講じることなく、このような米国の対外的軍事・国防活動への日本の「支援・貢献」が恒久化・半恒久化することになれば、後方支援という制限的なものではあるが、「集団的自衛権の行使」との線引きが難しくなるであろう。
いづれにしても、国民の税金を使うだけではなく、一定の危険を強いる国家の行為であるので、適切且つ速やかな情報公開と国民への実態の説明が不可欠である。これが欠けることになると、文民統制(シビリアン・コントロール)が実質的に困難となり、思わぬ方向に向かう恐れがある。少なくても、国会においては、外務委や防衛委などにおいて与野党双方が適切な判断が出来るよう、防衛当局より正確な情報が提供されるべきであろう。軍事機密や国家安全保障上の秘密事項に属するものについては、必要に応じて秘密会として説明されるべきであろう。それがあって初めて防衛活動の文民統制(シビリアン・コントロール)が確立出来る。シビリアン・コントロールとは、背広組(防衛省事務系統)が制服組(自衛官)をコントロールするという狭い概念ではない。戦前は、国民は「国家」のためにあり、国家の安全等に関しては「知らさず、知らしめず」ということが許されたのであろうが、民主主義の下では、「国家」は国民のためにあるべきであり、行政各部は国会はもとより、国民に対し情報を開示し、正しく説明する義務がある。現在、公的年金の納付記録漏れや年金横領問題等が表面化しているが、徴収、管理、運用等に関する定期的な情報開示の不備・欠陥がその一因とも言えよう。防衛、軍事の分野は、国民の安全に直接関係するだけに、情報のブラックアウトはより深刻な結果をもたらす恐れがある。
なお、アフガニスタンのタリバン勢力やアル・カイーダがパキスタン領内の国境付近に潜伏し、また、神学校などで宗教教育等を受けていることが明らかになっている。米国軍事筋としてはパキスタン国境付近への攻撃も検討しているとも伝えられているが、もしそのようなことになると、ムシャラフ大統領(兼陸軍参謀長)が率いる軍事政権とイスラム宗教組織や反ムシャラフ民主勢力との対立に発展するなど、国内問題に係わることになるので、その様な事態に発展する場合には、外交政策全般の観点から、海上自衛隊によるパキスタン艦船への給油活動を再検討する必要もあろう。

               (Copy Right Reserved ーTo be continued)

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