内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

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Policy Essayist

融ける北極海の氷海 (総合編)

2012-11-09 | Weblog
融ける北極海の氷海 (総合編)
 夏になると、特に8月から10月に掛けて北極海の氷海が縮小し、地球規模での温暖化の進行として懸念される一方、夏期限定ではあるがシベリア大陸やカナダ領の北方諸島との間に海路が出来るなど、ビジネスチャンスが広がっている。
 北極海の氷原の動きについては、アラスカ大学の国際北極研究センターが衛星写真を長期に亘りモニターし、夏期に氷原が縮んでいる状況を公開しているが、日本の宇宙航空研究開発機構も2012年8月、北極海の氷原が近年で最も縮小していることを公表し、また米国宇宙航空局も同様の分析結果を公表している。
 1、縮む北極海の氷海は地球温暖化の警鐘か
 温暖化の速度などについては議論が分かれている。スイスを本拠とする民間団体「世界自然保護基金」(WWF)は、2013年から40年までに、北極圏の氷は夏期には全て消えるとの報告を出している。国連の「気候変動に関する政府間パネル」が出した07年の第4次評価報告書でも、“ヒマラヤの氷河は35年までに解けてなくなる可能性が強い”と指摘している。同グループはゴア米元副大統領と共にノーベル賞を受賞したが、氷河学者より300mもの厚さの氷河がそんなに早くは融けないとの疑問が呈され、同グループがそれを認めるなど、信憑性が疑われている。地球がミニ氷河期に入っているとの説もある。
 どの説を取るかは別として、着実に進んでいる事実がある。北極海の氷原が夏期に融けて縮小していることだ。衛星写真でも、08年においては6月末頃までは陸地まで氷海で覆われていたが、8月20日頃前後から氷海は陸地を離れ、海路が開け、砕氷船を使用すれば年間5ヶ月内外は航行可能となる。その期間は毎年伸びている。8月中旬には2-3週間程度砕氷船無しでも航行可能のようだ。5年前には、氷海が最も小さくなる8月下旬でも氷海は陸まで張り出ていた。
 これは今起きている現実であり、それは温暖化への警告でもある。北極の氷海縮小は、気流や海流による冷却効果を失わせ、地球温暖化を早める恐れがあり、現在世界各地で起っている局地的な豪雨や突風、旱魃など、これまでには見られなかった異常な気候変動との関連が考えられる。氷海が融ければ白熊や微生物などの希少生物は死滅して行く。取り戻すことは出来ない。北極圏の環境悪化は、米、露など沿岸5か国のみの問題では無く、この地球の運命にも影響を与えている。冷蔵庫の中の冷凍器部分が夏の一定期間融け落ちることを想像すれば影響の大きさは分かるだろう。
 同時に忘れてはならないのは、反対側の南極大陸でも氷河、氷原が急速に融けているという事実だ。またヒマラヤやアルプス、キリマンジェロ等の氷河も融け、後退しているので、これらの相乗効果を考慮しなくてはならない。
 北極圏も南極同様、人類の共通の資産と位置付け、大陸棚の領有権や「線引き」の凍結や北極圏の一定の範囲を世界遺産に指定するなど、国際的な保護の必要性が高まっている。
 2、北極海に広がるビジネス・チャンス 
 北極海の氷海が縮小し、シベリア大陸やカナダ領の北方諸島との間に海路が出来ると、北極海航路や資源開発などビジネスチャンスが広がる。
 北極航路には2つある。一つは、太平洋北端のベーリング海からシベリア・ユーラシア大陸に沿ってバレンツ海、ノルウエー海方面に向けての「北方海路」である。将来海路が開ければ、東アジアと欧州を結ぶ有力な国際海路となる。もう一つは、ベーリング海から米国アラスカ州、カナダの北方領沖の北極圏諸島をぬって大西洋に出る「北西航路」である。
今後15年程度は年間を通じての使用は困難とする見方もあるが、それよりも早く氷海の融解が進むとの見方もある。
 また北極圏は、圏内の陸地はもとより、大陸棚も天然ガス、石油資源や金、銀、鉄、亜鉛、錫、ダイアモンドなど貴重な鉱物資源に富んでいる。
 このように北極海の氷原の縮小は温暖化への警告であるが、現実論として北極海に新たな経済開発の可能性が出て来ている。
 北極圏問題については、ノルウエーに北極評議会が設置されており、北極海開発の側面と環境保護についての共通の認識と協力を促進することを目的として協議が重ねられている。北極海周辺に領土を持つ米、加、露、ノルウェー、デンマークの5か国と外延のアイスランド、フィンランド、及びスエーデンの8カ国で構成され、日本のほか、中国、韓国などがオブザーバーとして参加できることになっている。
 北極点の周辺には大陸はないが、周辺5カ国による大陸棚の線引きの問題について、2008年5月、周辺5か国は、国連海洋法条約(1982年に採択)に基づいて解決策を見出すことで合意し、当面領有権などを凍結している。しかしより長期の視点が必要であると共に、海運や資源開発等の面で国際的なガイドラインが必要になっていると言えよう。北極海の気象情報や航路情報を提供するシステムや緊急時の援護システムなども必要になって来よう。
 だが北極圏に広がるビジネスチャンスは、同時に温暖化への警鐘でもあるので、南極大陸同様、北極における大陸棚の領有権の凍結や調査・研究を除く経済活動の制限など、国際管理が必要になっていると言えよう。(2012.08.12.)
(Copy Right Reserved.)(不許無断転載・引用)

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