deep-forest

いつだって感じる
アナタとワタシの距離は
近いようで遠いようで
でもそれが大事で大切な
アナタとワタシの距離

水面の月

2011年07月04日 22時30分11秒 | 物語系
月を捕まえること
『無理だよ』と彼が笑った

そんな言葉を無視して
コップを用意し
水を入れる

「ほら
捕まえて見せてやるよ」
と言って
コップの中に水面の月を浮かべさせた

『なにを言っているんだ
なにもないじゃないか』

私には見える
しかし彼には見えない
今度は彼にコップを渡す

『本当だ
月を捕まえることができた』

彼は喜び
コップを地面に置く

『よし
このことを
仲間にも教えてあげよう』

彼は大急ぎで
他の仲間たちを呼んできた

〈どれどれ〉
《あれ?》
〔どこにあるんだい?〕

『あれ?
おかしいな』

《なんだ
ウソだったのか》
〈無理なんだって〉
〔なにもないじゃないか〕

そう言うと
仲間たちは帰っていきました

「ねぇ
月は
どこにいったんだろうね」

『さっきまでここにあったんだ
ウソじゃないんだ』

「でも仲間には見えてなかったよ」
そのとき
月がコップの中から出てきた

「また捕まえられたね」

『本当だ』

雲が月を隠していた
でもそのことを
彼は分かっていなかった

「コップの中の月は
コップの中の月
いつかは逃げて
いなくなるんだろうね」







   終

望んではいけないこと

2010年09月20日 20時23分35秒 | 物語系
例えば何か願いが1つだけ叶うって言われたら、僕は何を望むだろうか。でもなんでもいいのかと言えば、ダメだったりする。
2072年に制定された政府の新しい条約は、15歳になる子供に夢を与えることができる画期的なものだった。しかし良くない考えを願い事をする人もいる可能性を示唆して。叶えられる願い事と同じぐらいに、成就制限が設けられている。

誰かを傷付けたり、社会的に危険と判断されること。

安全と判断されても、物理的に贈与される限度の額や数量。

親の承諾。

期限は一週間。


他にもまだまだ縛りはあって。何のために叶えるのか、誰のために叶えるのかも分からない。教室の窓から雲一つない見上げて溜め息を一つついた時、拳骨が頭上から飛んできた。
「…って~!」
「こらカシワダ!ホームルーム中に何ボーッとしとるか!」
あだ名をゴリ先と陰で言われている、ゴリラ顔をしているオオス先生の拳骨の痛みが引かないまま。ホームルームは終わった。

「リュウヘイよそ見して怒られてやんの。でもおかげで俺が怒られずに済んだぜ、ラッキー。」
いつも1日に何回怒られているんだと思うくらい、ゴリ先に目を付けられてる幼馴染みのソウタは、嬉しいそうに僕のいる席まできた。
「今日はたまたま怒られなかっただけでしょ。リュウヘイ君大丈夫?」
幼馴染みのフタバが心配そうに話し掛けてきた。
「あ、うん。大丈夫だよ。ちょっと考え事してたんだ。」
「あ、そっか。もうすぐ願い事決めなきゃいけないもんね。3人の中じゃ、リュウヘイ君が一番誕生日早いんだっけ。」
「リュウヘイはもう何にするか決めたのか?俺はもう決めてあるぞ!メジャーリーグで大リーガーを三振祭りにしてやるんだ!」
「一週間しかないのに、それでいいのかよ。」
「いいんだ!」
「ソウタ君らしいね。私は空とか飛んでみたいなぁ。規約に引っ掛かっちゃうかもしれないけどね。」
「多分大丈夫だよ。」
「ねぇ、リュウヘイ君は何にするの?」
「そうだぞリュウヘイ。お前は何にするんだ?」
「僕は…。」

心の中では思ってていても、それを口に出す事はできなかった。出せば笑われたり、異能者と冷たい視線を浴びるだろう。もしかしたら、逮捕されるかもしれない。

「そうだな。みんなで南の島にでも行きたいな。」
「リュウヘイは現実的だなぁ。」
「でもリュウヘイ君らしいね。」

二人は笑っていた。こういう願いでいいんだろう。僕の本当に望んでいることなんて、誰にも言えない。



この世界が無くなる事を願っているなんて。

アンダースロー

2010年04月08日 19時12分21秒 | 物語系
ナ:さぁ大詰めをむかえました、ティッシュ・スロー大会。Aブロック準決勝の勝敗が今決まろうとしております。解説は引き続き元ティッシュ・スロー世界チャンピオンの飛山 投太郎さんです。飛山さん、よろしくお願いします。

飛:よろしくどうも。

ナ:飛山さん、今日の入江選手は少し調子が悪いように思えるのですが。

飛:そうですね、準々決勝のような勢いがあまり見られませんね。

ナ:あ、今入ってきた情報によりますと、入江選手はお腹を下し、トイレットペーパーの使い過ぎによる、指の酷使があったもようです。飛山さん、入江選手の指は大丈夫なんでしょうか。

飛:ティッシュ・スローで大事なのは、最後までコントロールが要求される指ですからね。準決勝はどちらが先に7ポイント入れるかが長期戦になりそうですね。

ナ:入江選手の対戦相手、トンデモート・ハイリマース選手は波のある選手。只今第八投目。入るか。入りました、トンデモート選手。大きな歓声ともにガッツポーズをしております。

飛:彼の投げ方はオーバースローなんですね。鼻をかんだ鼻水の量が多いと、投げやすくなるんです。今までのトンデモート選手は鼻水の量が少なかったですが、聞くところによると去年から日本に来て花粉症になったみたいですね。一朝一夕で花粉症と戦いながらの集中力は持続できないんですが、彼の努力がそれを凌駕したんでしょう。

ナ:さぁトンデモート選手がここでポイントを2つ離し、3‐5でリーチをかけました。入江選手の表情が…やや曇り気味ですね。どうやら…、コーチが入江選手の指にテーピングをしているのでしょうか。トイレットペーパーによる指の酷使が響いているのでしょうか。コーチはなにやら止めようとしていますね。入江選手は拒んでいるのでしょうか。顔を真っ赤にして怒っているようですね。

飛:彼にとってはこの大会がラストチャンスですからね。ここは何がなんでも続行をしたいのでしょう。

ナ:入江選手がベンチから立ち上がりサークルポジションへ向かいますね。おっと大歓声が巻き起こっています。さぁ入江選手、鼻をかみ、構えました。第九投目、入るか。入りました。ポイントを1つ縮めて、4‐5。一つ大きなため息をついた入江選手。やや上を見上げていますが…。あ、情報が入ってきました。どうやら入江選手の奥さんが産婦人科にいるようですね。子供が産まれるようです。

飛:気が気じゃないでしょう。

ナ:さ、入江選手。産まれてくる子供のために、あの黄金のティッシュトロフィーを見せることができるのでしょうか。

-CM-


-その後3時間の長丁場を終え、入江は病院へ。ドアを勢いよく開ける。

入:産まれたのか!?

嫁:ええ。立派な男の子よ。あなたにそっくり。

入:男の子…。

入江は涙を流して喜び、

入:この子をティッシュ・スローターにしようと思うんだ!どうかな!

嫁はニコりと笑いながら、

嫁:それはないわ。

入:そ…そうだよね。は、はは。

右手に持っていた銀のティッシュトロフィーを落として、気まずい雰囲気を醸し出しながら笑う入江。
鬼のようなオーラを纏いながら、女神のように笑う嫁。
その空気に関係なくスヤスヤと眠る赤ん坊。
夕暮れに、カラスが「カァー」と泣いていた。




END

君の額にピストルを突きつけよう0‐4

2010年02月09日 22時59分20秒 | 物語系
雨が降ってきた。私は這いながらも逃亡し、橋の下で体力が回復するのを待った。このまま逃亡出来れば、機会を伺い、あの方を消す。そうしなければ、能力を持たない人間たちに未来はない。
もうしたくないし、見たくないんだ。能力を持たない人間を殺す事も、誰かに殺されることも。
『痛みで泣いているのか?それともあの方に見放され泣いているのか?』
『よく…、分かったな…。』
『あの方のことだ。黒い石のことで頭の中はいっぱいさ。』
『じゃあ…、お前は何をしに…ここにきた。』
『あんたを始末しようと思ってね。体力が回復すれば、また私たちに牙を剥き、噛み付くかもしれないからね。』
『よく…分かってるじゃ…ないか。ぐ…っ。』
首を捕まれそのまま吊り上げられる。
『馬鹿…力が…。』
『あの方にもらった大事な能力だ。シンプルでいいだろう?』
『単細…胞が吠える…な。』
『…死ね。』
これでいい。見つかった時点で助からないことは分かっていた。ならば聞き出される前に、殺されるしかない。
【ゴキッ!】
鈍い音のような高い音のようなものが聞こえて、私の全ては闇になった。





end

君の額にピストルを突きつけよう0‐3

2010年02月09日 20時43分17秒 | 物語系



偶然だったのか、それとも必然だったのか。逃亡している最中(さなか)に、1人の青年を見掛ける。
捨てるはずの【黒い石】を、私はこの青年に渡したかった。手でピストルの形を作り、鳩に向かって撃っている空想をしている青年。普通の人間から見れば、おかしな癖を持っている変わり者で終わっていくだろう。
しかし何故だろうか。彼のその癖は、私を呼び掛けているようだ。いや、正しくは違った。【黒い石】が、彼に呼応しているようだ。私は能力を使い、彼がいるベンチに向かう。見ず知らずの人間に、この【黒い石】を渡してもいいのだろうか。しかし私の逃亡にも限界がある。託すしかないのだ、この青年に。

私は青年に【黒い石】を託し終え、能力を使ってその場を去る。能力を解除した次の瞬間、胸に激痛が走る。
『見~つっけた。探したんだよ。さぁ、私の大事な黒い石を返して。』
『そ…んな物…、持っ…てませ…ん。うぐ…っ。』
『嘘つくなんて、あなたらしくないな~。あれはこれからの計画で欠かせない物なの。あなたのような人間の代わりはいても、黒い石の代わりはないわ。ほーら、早く返して。じゃないと死んじゃうよ。』
『本当…に、持…ってない…。もう…他の人…間の…手…に渡…っ』
『誰に渡したの?…、あ~、もう。死ぬなら全部喋ってから死んでくれたらいいのに。また探さなきゃならないじゃない。まぁ近くにあれば分かる事なんだし。それにただの人間が黒い石を使えるわけないしね。』
あの方はこの場から立ち去る。私にはまだ微かに意識があるのも知らずに。


君の額にピストルを突きつけよう0‐2

2010年02月09日 13時12分08秒 | 物語系



私の能力は、暗殺や偵察に向いていたようだ。黒い服を身に纏い、息を止めれば、姿を消す事が出来る。
あの方に能力を与えられ、命じられるがままに、仕事をこなしていく。それが何よりも幸せであり、あの方に対する服従の証でもあった。
仕事をこなしていく度に、あの方は私にだけ微笑んでくれ、礼を言って下さる。私の生きる意味と場所は、ここにあるんだ。
しかし全てが崩れ落ちる出来事があった。

普通の能力を持っていない人間が、ある日殺された。まだ小さかったその子は、殺される前に、私に飴玉をくれたんだ。ホンの些細なこと。嬉しい反面、気を抜いてしまったかと感じていた。
少し離れた位置に母親らしき人間が、軽く会釈をする。その子が母親のところへ走っていき、手をつないでその場から立ち去ろうとした瞬間だった。
もう一人の同胞が、先ずは子どもを殺した。続いて、今にも叫び声を上げそうな母親の首をへし折る。
私は同胞に尋ねた。何故2人を殺したのかと。すると同胞は、
『何を言っているの。あなたは姿を見られたのよ。逆に感謝してほしいくらいだわ。』
私には解せなかった。いくらなんでも、任務外で殺して良いわけがない。
『何してるの。早く消して。他の人間に見つかっちゃうじゃない。』
同胞は2人の遺体を隅の方に置き、手を洗いながら私に言う。私自身が消えるだけでなく、命のないモノは永久に消す事が出来る。しかしこの時ほど、辛いものはなかった。

戻った折に、あの方に私は聞いてみた。同胞の行動を。殺された母子のことを。きっとあの方なら、いけないことだと悲しむだろう。
『あら、いいんじゃないの。あなたの姿も見られてるんだし。たかだか命が2つなくなっただけ。どうせ役にもたたない命なのよ。』
私は絶望した。笑いながら、とても冷たい眼をしている。その子の笑顔とは、全く違うものだった。信じていたものが音を立てて崩れ、私は逃げることにする。
その際に【黒い石】を持ち出し、何人もいた同胞を殺して、私は逃げた。

君の額にピストルを突きつけよう0‐1

2010年02月09日 08時05分26秒 | 物語系
何故、私はこんなことをしてしまったのだろうか。神の冒涜とも取れるこの行ないを、あの方が許してくれるわけがない。
『いたかーっ!』
『駄目だ、こっちにはいない。』
『くっそー…、見つけたらタダじゃおかねぇ!』
『まさかあの人が裏切るなんてな。』
『とにかく探すぞ!でないと、俺達が消される!』
私の行ないは、正しかったのだろうか。それとも…、間違っていたのだろうか。

何かがズレ始めてきていた。いや、最初からズレていたのだろう。
気付いた頃には、とても人間とは思えないところまで達していた。崇拝していたあの方は、いつから能力を持たない人間を「物」のように扱っていたのだろうか。
いつしか私は恐くなって…、あの方の下からただ逃げる糸口だけを考えていた。その時に【黒い石】を持ってどこかへ捨てられれば…、もしかしたら…、止められるのかもしれない。

『うっ…。』
私を探していた男たちが倒れて行く。
『ホ~ント、役に立たないんだから。』
何故あの方がここにいるのだろうか。直々に動くということは、この【黒い石】はよほど大切な物に違いない。しかしすぐ殺されてもおかしくない状況だ。私の心臓の鼓動は、限り無く大きな音を立てていた。
『…能力が使えるってことは、近くに【黒い石】があるってことだよね。どっこかな~。』
殺される。すぐにこの場から逃げなければいけないのに、足が動かない。落ち着け、落ち着くんだ。能力を使えば、逃げられる。能力を…。

呼吸が…、上手くできない。落ち着け…。足音が近付いてくる。こちらに向かってあの方が近付いてきている。能力を…。
『あ、ここかな~。…見~つっけた。』
あの方と目が合い、ホンの数秒だけの沈黙が、何十分にも何時間にも感じられた。私は息を止め、ただ立ち去ってくれることだけを願った。
『…やっぱいないか。どっか逃げてっちゃったんだろうな。』
あの方は立ち去り、私は尋常では汗をかいて座り込んだ。

君の額にピストルを突きつけよう10‐5

2010年01月25日 00時03分32秒 | 物語系



なんでそこで倒れ込んでいたのかも、私には分からなかった。6月なのに、降る雨は少し冷たくて。胸に穴がポッカリと空いたような感覚があって、寂しい気持ちになって。
涙を流していた理由も分からなかった。もしかしたら雨が頬を流れているだけかと思ったけど、どっちなのかも分からなかった。
目が覚めた時、私の視界には雨でボロボロになって溶けていたタバコと、黒い石が転がっている。誰かが落としていったものかな。それとも、ただ石が転がっているだけなのかな。

立ち上がり、公園から出る。その時に私と同じように倒れ込んでいる人がいた。
声をかけようかと思ったけど、何か狂い笑っている姿を見て、声が掛け辛かったのでやめた。

公園を出て、脈打つ鼓動をどこからか感じる。とても近くにあって、でも遠くにあるような感じがして。
聞いたことない鼓動なのに、どこか懐かしい。でもなんでかな。それを理解してしまうのが恐かった。
私は黒い石を右手に握り締め、家に帰る。



end

君の額にピストルを突きつけよう10‐4

2010年01月23日 23時44分55秒 | 物語系



『…!…ぇってば!大丈夫?!』
「あー…っと、もしかして…、気を失ってました?」
『死んじゃったのかと思ったよ。』
彼女は涙ぐみ、安心したような顔をしていた。
「すみま…せんでした。最後が…、残っているのに。」
無理矢理に体を立たせ、深呼吸をする。
「タバコ…、吸おうかな。」
震える手でタバコを持ち、口まで持っていく前に落としてしまう。それを見ていた彼女は新しいタバコを口に咥えさせてくれた。
「ありがとう…ござい…ます。」
『ううん。…。』
涙を流し、俯く彼女を見たくはなかった。火を付け、上を向いて一息、吐く。

「きっと、天国ってのがあったら…、俺はそこにいけますかね?」
『…。きっと…、いけるよ。…ごめん。ごめんね…。』彼女は、泣きながら謝る。雨は、彼女の涙を隠してはくれなかった。
「地獄だったら…、あなたも…来てくれますか?待ってますから。」
『地獄は嫌だな…。二人で…、天国へいこうよ。』
「じゃあ、少し先に…いって…待ってます。」
『うん…、うん…。』
ピストルを構える。

「【ホワイトブレット】。彼女の【黒い石】に関連する内容は、全て忘れる。」
ピストルを撃った音が響き渡る。俺にしか聞こえない音だろうか。それとも彼女にも聞こえただろうか。

君の額にピストルを突きつけよう10‐3

2010年01月22日 23時28分41秒 | 物語系



『…!君の手、透けて…ない?』
「はは…、そうみたいっすね。何故か胸の痛みすら感じなくなってきましたし。」
あと【2発】。正確に言えばあと【3発】ある気がしてきた。
「なんで…、こんなことになったんだろ。」
『…ごめん。』

君は俯いて涙声で謝る。上を向いて深く息を吸い込み、下を向いて大きな溜め息を吐く。
「…よし、じゃあいってみよう。と、その前に。お姉さんの名前、教えてもらってもいいですか?」
『…ん。そういえば、まだ言ってなかったね。耳貸して。私の名前は…。』
「…可愛い名前っすね。教えてくれてありがとうございます。…じゃあ、いきますよ。【ホワイトブレット】。もう一人の彼女の存在を、忘れる。」

撃ったと同時に、体中に激痛が走る。目の前がボーッとして、視点が定まらない。
『大丈夫?!』
「ギリ…ギリ。まだ…倒れるわけには…いかないっす…よね。【ブラックブレット】。もう二度と別人格は作られない。」
【ブラックブレット】を撃った瞬間、倒れ込んでしまった。体中に激痛が走り、力が抜けたような感覚だ。弾は使い切ってしまったのだろうか。…いや、まだ【1発】ある。正真正銘、最後の【1発】。

君の額にピストルを突きつけよう10‐2

2010年01月21日 23時39分23秒 | 物語系



『この距離だと、君と私の能力はどっちが速いんだろうね。』
彼女は俺の胸に手を当てる。
『このまま黒い石を引っこ抜いてあげるから。』
指先数センチが胸に食い込む。
「いって~…。【セピアブレット】。もう一人の彼女を思い出させる。」
『ぐっ…。まだ…意識が戻っていないのに。体が…。出て…くる…な。』

「2人で…、1人なんだよね?だったら…、【ブレット】。もう一人の彼女の思いを止(とど)める。」
『体が…拒否する…!』
指先の数センチが俺の胸に食い込んだままでいた。痛かったけど、なんでかな。堪えられた。
「【ブラックブレット】。今出てきている人格の彼女は眠りにつく。」
きっと能力を使い切った時、自分がどうなるのか分かっていたのかもしれない。これで残りはあと【2発】。

『…う、…ん。』
「意識が戻ったって言えば…、いいのかな。」
『ごめ…ん。痛かったよね。』
彼女は指を引き抜き、そっと撫でた。
『ごめんね。…君にこんなことさせて。』
「あー…、でも俺以外いなかったかも。こんなことできる人間って。」
『そう…だよね。変かもしれないけど、ありがと。』
「…まだ、終わってないんすよ。」
『そっか…。そうだよね。』
消えてなくなるのかな、能力を使い切れば。

君の額にピストルを突きつけよう10‐1

2010年01月20日 00時01分24秒 | 物語系
『早ク…、私を殺シテ。』
「言われなくても…。」
『出てくるんじゃない!お前が望んだことだろう!』
『お願イ…、早ク…。』
荒れていた呼吸は少しづつ治まっていく。彼女の様子が少しおかしい。よく見ると左と右の顔付きが、何か違う。
「二重…人格。」
『早ク…早』
『うるさーっい!』
彼女の顔つきは元に戻り、笑っていた。笑いながら、俺のほうに向かって歩いてくる。

『しばらくの間は出てこれない。…君の言う通りだよ。能力を受け入れる【私】と、能力を拒んだもう一人の【私】。私は2人の【私】で1人なんだ。』
「今は…、能力を受け入れたほう…。」
『そうだよ。厳密に言えば、今の【私】はさっきやっと出てこれたの。それまではもう1人の【私】が、消えてなくなるためにあなたを怒らせる芝居をうった。』
「何が…なんだか。」
『君の友達を殺したのは、今の【私】。もう1人の【私】は拒んでたけど。』
「…。どっちでも…、いいよ。」
少し俯きながらも、ピストルを構える。君の額にピストルを。

君の額にピストルを突きつけよう9‐4

2010年01月15日 23時34分44秒 | 物語系



「【セピアブレット】。人間の頃の記憶を取り戻す。」
二人は軽くのけ反り、しばらくの間固まって動かなかった。
「【ブレット】。思い出した記憶を維持する。」
二人は俺の方を見て、微笑み、倒れた。
「タケオ、リュウジ…。起きないのか…?」
『…無理だよ。二人とも元々は死んでるんだし。』
「そっか…。」

『あ~あ。つまんないなぁ。オモチャがなくなっちゃった。』
「人の命は、オモチャなんかじゃない…。どうして、こんな…。こんな…、酷いことを。」
『いいじゃない、どうせ不適合者な要らないんだし。』
「うわぁぁぁぁ!」
気が付けば、俺は彼女に向かって指で作ったピストルを構えていた。
でも彼女は、悲しい顔で俺を見ている。

君の額にピストルを突きつけよう9‐3

2010年01月12日 03時29分46秒 | 物語系



「どうなってんだよ…。」
『これが、私の【黒い石】の能力だよ。【黒い石】がなくても、誰かに能力を与えることができるの。でも万人に適応される能力じゃなかったんだ。適合者には能力を与えられ、不適合者には死んだあと…、私の言いなりになるの。止める術は二つしかないよ。友達を殺すか、私を殺すか。』
「こんなのっ…て。」
『ホントはね、万人に適応する能力だったの。でも、私のところから【黒い石】が消えて。どこにあるのか探してたら、偶然君が持ってた。』
「そんな…。じゃあ俺がもらった【黒い石】って。」
『そ、私の石だよ。返してほしいんだけど、君に馴染んじゃって取れなくなってるから。まさかあのオジサンが勝手に持ち出して君にあげてるなんて思いもしなかった。気付いた時には、君は能力者になっちゃってるし。君が死んでくれたら、友達も元に戻せるけど、どうしよっか。』
「俺は…。」

俺が死ねば、リュウジは安らかな眠りにつける。でも彼女に能力が戻り、事の顛末は良くない方向に進むのが目に見えていた。
「俺は…。」
その時頭に鈍い痛みが走る。
「…って!ちっくしょ…。なんでだよ。なんでお前までここにいるんだよ、タケオ。」
『その子も、不適合者だった。君の友達だから、素質があるかと思ってたけど。やっぱり関係ないんだよね。どうする?二人を救うためには、私を殺すか、自分を殺すかだよ。』

「…俺は。自分を殺さないし、君も殺さない。それでも二人を、救う。」
『アハ、アハハハハハ。無理だよ。ホント君って面白いね。こんな状況でも、冗談が言えるなんて。』
「冗談なんかじゃないよ。」
彼女は笑うのを止めた。
「タケオ、リュウジ。思い出してくれ。セット。」
頭の中で引き金を引く音が聞こえる。

君の額にピストルを突きつけよう9‐2

2010年01月08日 23時46分07秒 | 物語系



話を聞いた後、その女性を置いて俺は彼女のところへ向かった。
雨が降り始めた。

『やっと来たね。』
「病室で耳打ちしてくれたから、すんなりこれるかと思ったんですけどね。とんだ方に邪魔されました。」
『あの人は自分勝手に行動しちゃう人だから。君はイイ人だから、私の言う事を聞いてくれそうね。』
「…んで。…たいんですか。な…、…した…。」
『ん?どうしたの?』
「なんで。死にたいんですか。なんで、二人を殺したんですか。」

『君が今話をしている【私】は、君の知ってる【私】なのかな。』
「…何言ってるんですか。」
『私ね、たまに記憶がトぶの。リュウジ君の時も、タケオ君の時も、気が付いたらもう死んでた。』
「何嘘ついてんだよ!あんたが殺したんじゃないか!」
『だって…、ホントに…。』
彼女は泣き始めた。
「あ~…、訳分かんねー。」
頭の中がグチャグチャになって、どうしたらいいか分からずその場でしゃがみ込んだ。次の瞬間。勢いよく頭上を通り過ぎていく物体が。
「…またっすか。」
後ろを振り向くと男が一人立っている。
「…なんでお前がいるんだよ。…リュウジ。」