子どもたちに渡すな!あぶない教科書 大阪の会

大阪で教科書問題にとり組む市民運動の交流ブログ

高校教科書検定結果に対する私たちの見解~新教科「公共」「歴史総合」「地理総合」について

2021-04-06 20:01:19 | 高校採択2021
今年の文科省の高校教科書検定についての私たちの見解をまとめました。
今年の高校教科書採択について大阪でも運動を開始したいと思っています。

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高校教科書検定結果に対する私たちの見解~新教科「公共」「歴史総合」「地理総合」について

2021年4月5日
子どもたちに渡すな!あぶない教科書大阪の会

 2021年3月30日、文部科学省は2022年度使用高校教科書の検定結果を公表した。「現代社会」が廃止になって新設された「公共」は8社12点、近現代史を中心とした「歴史総合」は7社12点、「地理総合」は5社6点が検定合格した。「歴史総合」では、日本会議系の明成社も合格した。
 今回の高校教科書は、安倍「教育再生」の集大成でもある高校版新学習指導要領が2022年度から実施されるに伴って編集されたものである。社会科では地理歴史が「歴史総合」と「地理総合」に、公民が「公共」に再編され、必修教科となった。また、文科省は、高校教科書の検定基準を立て続けに改悪(2014年と2018年)し、検定「一発不合格」で脅し教科書会社に学習指導要領を厳格に適応するよう求めた。教科書会社は、これまで以上に新学習指導要領に従属する自主規制を強めた。
 文科省が新学習指導要領に照らして「不適切」とした検定意見は223件にのぼった。文科省の教科書への統制と介入は露骨なものであった。今回の検定結果についての新聞報道では、「『主体的な学び』重視」「『探求』重視」が注目されているが、私たちの「見解」では、文科省が新教科「公共」「歴史総合」「地理総合」に対してどのような検定意見を付けて、書き換えさせたのかを見ていくことにしたい。

(1)文科省が最も統制を強めたのが「北方領土」、「竹島」、「尖閣諸島」に関する領土記述についてであった。新学習指導要領の本文で「地理総合」と「公共」で「固有の領土」と明記されたことにより、この2科目の全社で「固有の領土」との表現が登場した。文科省はさらに踏み込んだ検定意見を19件付けた。「北方領土」については、ロシアによる「実効支配」「事実上統治」との表現に意見を付け「不法占拠」に変えさせた。「尖閣諸島」に関しては「領土問題は存在しない」、「竹島」に関しては「問題の平和的な手段による解決に向けて努力している」と、新学習指導要領の記述をなぞった記述に変えさせた。今回の新学習指導要領が「主体的・対話的で深い学び」を重視しているにもかかわらず、領土記述については、相手国の主張等を子どもたちに触れさせずに政府見解を一方的に刷り込むものとなった。

(2)文科省は、戦後補償問題についても政府見解の徹底を求めた。「未解決の問題」と記述した教科書に検定意見を付け「個人への補償もふくみ解決済みとしている」と書き込ませた。
 「歴史総合」の中で「慰安婦」問題を記述したのは12点中8点となったが、本文で扱ったのはわずか3点のみであった。しかも記述内容も「多くの女性が慰安婦として戦地に送られた」等の簡単な記述にとどまり、「慰安婦」制度の強制性を明記したのは1点のみとなった。国家による戦時性暴力としての視点は大きく後退し、「河野談話」を空洞化させるものとして看過できない。韓国の被害者支援団体からは「歴史否定と歪曲により、被害者を再び侮辱する2次加害、3次加害を止めよ」と厳しい批判が起こっている。

(3)日本の侵略と植民地支配の記述は、教科書会社の申請段階から後退する傾向が強まった。「韓国併合」を扱う記述のタイトルを「日本の対外進出」と表記する教科書会社が出てきた。日露戦争を韓国併合と連続した流れで記述する教科書もあるが、「日露戦争における勝利がアジア諸民族の独立や近代化の運動に刺激を与えた」という新学習指導要領の内容をなぞる教科書が増えてきた。関東大震災での朝鮮人虐殺の記述についても、日本政府の責任を不問にし、犠牲者数を曖昧にする教科書も増えた。

(4)日本会議が深く関与する明成社は現行の版でもアジア太平洋地域への侵略戦争を、「日華事変」「大東亜戦争」(注釈の中で)と記述し美化している。東京裁判についても日本の戦争指導者を裁けないとする意見を大きく取り上げた。沖縄戦の記述に関しては、「一中健児之塔」を「顕彰碑」と記述し学徒の戦死を美化した。さらに、ひめゆり学徒隊を「ひめゆり部隊」、男子生徒が「勇戦」とも記述した。明成社を不採択に追い込むことは、今年の教科書運動の大きな課題である。

(5)「現代社会」を廃止して新たに設置された「公共」は、新学習指導要領にしたがって「現代社会」と比べて構成を大きく変えた教科書会社が登場した。構成を大きく変えた教科書(4点)は、「公共空間における基本原理」として「正義」「公正」「幸福」を強調し、日本国憲法の基本原理の記述を後退させている。

(6)文科省は、高校教科書の検定結果と合わせて、再申請のあった2社(自由社、令和書籍)の中学校歴史教科書の検定結果を公表した。自由社は、近現代史を中心に83カ所の検定意見がついたが、その全てを修正し合格となった。令和書籍は、「不適切な記述が600カ所を超えるなど問題が多い」として再び不合格となった。
 自由社の歴史教科書は、「新しい歴史教科書をつくる会」(「つくる会」)が執筆したウルトラ右翼教科書である。昨年の不合格時にも問題となった「軍艦島」について「生活のレベルは本土よりも高く、『炭鉱で働く人々やその家族は、お互いに助け合い、温かい心の絆で結ばれていた』とのこと」との記述を維持した。朝鮮人強制労働や日本軍「慰安婦」問題には、全く触れていない。沖縄戦について「日本軍はよく戦い、沖縄住民もよく協力しました」と、県民が進んで戦争に協力したかのような記述をする一方で、住民虐殺や「集団自決(強制集団死)」など日本軍の加害の側面には全く触れていない。「支那事変」「大東亜戦争」の呼称をタイトルに使い、侵略戦争を美化している。自由社は高校の明成社と共通した歴史観に基づいた教科書である。
 自由社が検定合格したことによって、「つくる会」を中心にして中学校歴史教科書の採択替えを求める声が出てくることが予想される。各地の教育委員会で中学校歴史教科書採択の動向に注意を払いたい。