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比曽の世尊寺(産経新聞「なら再発見」第39回)

2013年08月03日 | なら再発見(産経新聞)
産経新聞奈良版・三重版などに好評連載中の「なら再発見」、38回目の今日は、世尊寺(吉野郡大淀町比曽)の阿弥陀如来座像を紹介する。筆者は、NPO法人「奈良まほろばソムリエの会」の田原敏明さんである。以下、全文を掲載する。

 大淀町の近鉄吉野線六田(むだ)駅で降りた。吉野川もこの辺りでは川幅も広く、ゆったりと流れている。川辺には釣り人の姿も見られ、のどかな風景である。吉野川の鮎は、桜の花びらを食べて育つので「桜鮎」と呼ばれているとか。
 大正8年に架けられた美吉野橋近くに「柳の渡し」跡(大淀町北六田)がある。醍醐寺の開祖・理源大師聖宝(りげんだいししょうぼう)が対岸と渡し舟で結び、吉野・大峰参詣の北の入口とした。上流の「桜の渡し」、下流の「椿の渡し」とともに昔は修験者や参詣客で賑わった。
 今では天明6(1786)年建立の石灯籠と柳の樹があるだけだが、万葉集には往時の風情をしのばせる歌がある。
 かはず鳴く/六田の川の/川柳の/ねもころ見れど/飽かぬ川かも(巻9-1723) 
      *   *   *
 吉野川を離れて比曽(ひそ)方面へ向かう。緑の稲田を眺めながら、20分ほどゆっくり歩くと世尊寺(せそんじ 大淀町比曽)に着く。
 世尊寺は聖徳太子創建第7番霊場で、飛鳥・奈良時代には比曽寺とか吉野寺と呼ばれた。創建時には東西三重塔、金堂、講堂の伽藍(がらん)配置を誇ったが、相次ぐ戦乱で破壊された。その後も現光寺、栗天奉寺(りってんほうじ)と名を変え、江戸時代に再興されて曹洞宗世尊寺となる。
 「史蹟(しせき)比曽寺跡」という石柱の建つ山門から境内に入ると、東塔跡・西塔跡がある。鎌倉時代に東塔だけは再建されたが、豊臣秀吉により伏見城へ、更に川家康により近江の三井寺へ移建されて現存している。時の権力者の意のままに、戦国時代の人質のような数奇な運命を辿った東塔である。 
 本堂のご本尊・阿弥陀如来座像(座高145センチ)は、明治24年に国の重要美術品に指定され、今では「吉野路の微笑仏」と紹介されている。



 蔵王権現の忿怒(ふんぬ)の形相(ぎょうそう)の前では、心中を見透かされるようで、思わず身を固くする。しかし、優しい表情で口元に微笑を浮かべているこの仏様の前では、肩の力も抜けリラックスできる。世知辛い世の中だが、ご本尊は拝む人に「スマイルを」と話しかけて来られるようで、思わず微笑(ほほえ)みをお返ししていた。 
 日本書紀によれば、欽明天皇13(552)年、百済の聖明王により仏像や経典がわが国に伝えられたという。世尊寺のご本尊については、欽明天皇14年の条に、大阪湾で発見された光り輝く楠の大木で造られたと書かれている。
 仏教伝来の翌年のことであれば、わが国で造られた最古の木造仏ということになるかもしれない。古代史の史実、伝承、寺伝、あれこれ想像を巡らすのも楽しい。
      *   *   *
 境内では季節の花々が訪問客を楽しませてくれる。オオヤマレンゲの大木が中門横にある。毎年苗木が植えられ、その数は30本とか。「森の貴婦人」への成長が楽しみだ。
 樹齢100年以上のサルスベリは白い花を咲かせる。本堂裏に、貞享5(1688)年に当寺をお参りした松尾芭蕉が、太子お手植えの壇上桜を詠んだ歌碑「世にさかる/花にも念佛/まうしけり」が建つ。150年前に台風で倒壊、枯死した木の根っ子から蘇生したので「不老長寿の桜」と紹介されている。
 来年の桜のシーズンに仏様との再会を期して、境内を後にした。(NPO法人奈良まほろばソムリエの会 田原敏明)


以前(2008年)、旧比曽寺の伽藍配置を問う問題が奈良検定1級に出たことがあり、私はそれに答えられなかった(それがもとで、1級は不合格となった)。テキストをよく読めば「創建時の寺は南面する伽藍で、東西両塔をもつ薬師寺式の配置であったことが、今に残る塔跡の礎石や南大門の跡などによって知られる」とあるのだが…。地元では「比曽の世尊寺」としてよく知られているこの寺を、試験のあとで訪ね、当ブログでも紹介した。

ちょうど今ごろの時期は、白いサルスベリも咲いていることだろう。田原さん、貴重な情報と仏さまのお写真、有難うございました!


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