“姉が八十代半ばになって、「高齢になって体が大変だから、五アールのハウス以外は耕作をやめる」と、突然言い出しました。あれほど一生懸命にたくさんの野菜を栽培して、孫たちに送ることを楽しみにしていた人がです。一瞬、耳を疑った私ですが、とっさに「じゃあ、空けた畑、私に貸して」と言ってしまいました。
姉の家の周りは、構造改善で真っ平らに造られた農地ばかりです。さらに、周囲は集落の人々の大変なご努力で、獣害防護柵が張り巡らされています。自分の周囲にはない、素晴らしい条件が整った農地を、借りることを決めた日から、「通い農業」が始まったのです。
姉と相談して作付けを決め、肥料を入れて耕運し、種まきし、耕作していきます。ともに高齢の二人がそれぞれの体力にあったやり方で、仕事を進めていきます。仕事の合間に、お茶を飲みながら話は途絶えることなく続きます。破顔大笑をモットーに、百歳近くまで生き抜いた母のDNAを、真っすぐに受け継いだ私たち姉妹です。誰はばかることなく、今日も大声で笑いながら、仕事を進めます。”(7月9日付け中日新聞)
愛知県東栄町の主婦・森下さん(76)の投稿文です。「笑う姉妹」とあるが、まさに老婆2人である。畑の中で、老いた姉妹が笑い合いながら、助け合いながら農作業をする。専業ではないので、のんびりしたものであろう。のどかないい風景である。
しかし、目を少しそらしてみると大変なことである。愛知県東栄町と言えば、まさに山村、過疎の村である。この後どうなっていくのだろうか。構造改善事業で整備した農地も間もなく荒れ放題になるだろう。後を継ぐ若い人がいないのである。会社などの大規模農業が入って来れば何とかなるかも知れない。入ってきたとしてもどこもかしことは行かないだろう。会社などでも農作業をする人は必要である。どれだけこのような地域で確保できるであろうか。これから人口減少社会、人手不足の時代に入っていく。農業が楽しいという人の声は聞くが、そんなに多いとは思えない。いくら機械になっても土仕事である。きれいな仕事ではない。荒れた農地は災害の元でもある。こんなことを考えると笑ってはおられない。笑っておられるのはこのような年代までであろう。
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